「歯ブラシにうっすら血が…」磨きすぎが原因じゃないことも?医師が教える、口腔内異常と動脈硬化・心疾患リスクの関係性
朝の歯みがきのとき、歯ブラシにうっすら血がついていたり、歯ぐきが赤く腫れていたり…。「ちょっと磨きすぎたかな」と軽く考えがちなこのサイン、実は全身の血管トラブルの前触れかもしれません。医師が解説します。
口腔内異常(歯肉出血・炎症)は、どのような健康リスクとつながるのか?
歯肉の出血や腫れは、ほとんどの場合「歯周病」によって起こります。
歯周病は、口の中の細菌(プラーク)が歯ぐきの隙間に入り込み、炎症を起こすことで進行します。初期は出血や口臭程度ですが、放っておくと歯を支える骨が溶け、最終的には歯を失うことも。
ところが最近では、歯周病が単に「口の中の病気」ではなく、全身の慢性炎症の一部として捉えられるようになってきました。
特に注目されているのが、動脈硬化や心臓病との関係です。
口の中に炎症があると、そこから細菌や炎症性物質が血管内に入り込み、血管の内側をじわじわと傷つけていきます。その結果、血管の壁が硬くなり、動脈硬化が進みやすくなると考えられています。
実際、歯周病を放置している人は、そうでない人に比べて心筋梗塞や脳梗塞のリスクが1.5〜2倍高いというデータも報告されています。
つまり、「歯ぐきの腫れ」は、口だけでなく、全身の血管が炎症モードに入っているサインでもあるのです。
口腔内異常(歯肉出血・炎症)が動脈硬化・心疾患リスクと結びつく証拠
「歯ぐきの病気と心臓病がつながるなんて本当?」と疑いたくなるかもしれません。
けれど、ここ10年ほどでその“つながり”を裏づける研究がどんどん増えてきました。
研究1:動脈硬化の進行
まず、歯周病の原因菌として知られる「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)」という細菌があります。この菌が血流に乗って全身を回ると、血管の内皮(ないひ)という壁の細胞に侵入し、炎症を引き起こします。
すると、血管の内側にプラーク(脂肪やコレステロールのかたまり)が溜まりやすくなり、動脈硬化が進行するというわけです。
さらに、P. gingivalisは免疫反応のスイッチを狂わせる性質もあります。体が菌に反応してつくる抗体が、自分自身の血管を攻撃してしまう「自己免疫反応」に似た現象を引き起こすことも。
こうした慢性的な炎症が、結果的に心臓や脳の血管にも負担をかけるのです。
実際、欧米や日本の大規模調査でも、歯周病がある人ほど血管内の炎症マーカー(CRP)が高い傾向があることが分かっています。
CRPが高いということは、体のどこかで炎症が起きているというサイン。
つまり、口の中の炎症が血液を通して全身に影響を及ぼしている証拠です。
研究2:歯の本数と心臓病リスクの関係
もうひとつ注目されているのが、歯の本数と心臓病リスクの関係。
日本の研究では、残っている歯が20本未満の人は、20本以上ある人に比べて心血管疾患の発症リスクが約1.7倍になるという結果が出ています。これは単なる「噛む力の問題」ではなく、口腔内の健康状態がそのまま全身の血管の健康度を映しているからだと考えられます。
また、歯周病が進行すると、細菌が出す毒素(リポ多糖など)が血管内に入り、血液を固まりやすくする方向に働くこともあります。
つまり、歯ぐきの炎症が“血栓体質”を作り出し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす下地になってしまうのです。
このように、口腔内の炎症が心臓や血管に波及するメカニズムは、すでに医学的にかなり明らかになってきています。
言い換えれば、歯ぐきを守ることは血管を守ること。
毎日の歯みがきや定期的な歯科受診は、「心臓の健康チェック」でもあるというわけです。
まとめ
「歯医者は虫歯になったら行くところ」と思っている人は、今すぐ考えを改めたほうがいいかもしれません。
歯ぐきの出血や腫れは、血管の炎症サインでもあるのです。
歯周病を早めに治すことで、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる病気を防げる可能性があります。
実際、歯周治療を受けた人では、動脈硬化の進行が遅くなったという報告もあります。
毎日のケアでできることはたくさんあります。
- 1日2回の丁寧な歯みがき(とくに寝る前)
- 歯間ブラシやフロスの使用
- 半年に一度の歯科検診
- 糖尿病や高血圧など生活習慣病の管理
これらを続けることが、結果的に心臓や血管を長持ちさせる“投資”になるのです。
口の中は、全身の健康を映す鏡。
ちょっとした歯ぐきの違和感を放置せず、体全体のSOSとして受け止めることが、これからの時代の“賢い健康管理”といえるでしょう。
歯を守ることは、命を守ること。それは決して大げさな話ではありません。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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