“片づけの押しつけ”が関係を壊す?プロに学ぶ、夫・子どもが自然と片づけられるようになる仕組み作り
片づけで悩むのは、自分や家族それぞれに合った方法を見つけられていないから。『がんばらない片づけ 「ムリなくキレイが続く」収納のヒント』(三笠書房)著者の下村志保美さんは、家族それぞれに向く片づけタイプを理解し、個人のスペースを明確に分けることの大切さを語ります。母親が家族の分まで背負い込むのではなく、それぞれが自分の物に責任を持つ仕組み作りが重要。片づけは単なる整理整頓ではなく、自分の人生の時間を取り戻す手段なのです。
自分に合った片づけ方法を見つけることが第一歩
——自分に合った「片づけ」を見つける方法について教えてください。
前編でもお伝えしたように「したい収納」ではなく、「これならできる」という自分なりの方法を見つけることです。
これは家族に対しても同じです。「こうやって片づけなさい」ではなく、「どうだったらあなたは片づけられますか?元に戻せますか?」と聞いてみることが大切ですね。
——本書では、「片づけのコツがわかる! 診断チャート」が掲載されています。いくつかの質問に答えていくだけで、その人におすすめの収納方法がわかる、とのこと。「ひらめきタイプ」「ときめきタイプ」「コツコツタイプ」「マイペースタイプ」という4つに分類されていますが、下村さんとご家族はどちらのタイプだったのでしょうか。
私はコツコツタイプで、家族はひらめきタイプです。
私はラベリングをしたり、細かく仕切ったりといったいわゆる“王道”の片づけ方が向いているタイプ。ひらめきタイプである家族は、直感重視で、“見える収納”が向いているタイプです。
でも、以前は「片づけのタイプ」が全く違う家族に、私の片づけ方を押し付けていたので、うまくいかなかったことがありました。
——「自分は片づけたい」と思っていても、家族に説明・説得できない場合は、どうしていけばいいでしょうか。
基本として、ほかの家族の物には触らないことです。そのためにはまず、スペースを分ける必要があります。
たとえば一般的に、衣類収納において、一番使いやすい部屋のクローゼットに家族の服を全部入れて、シーズンオフは別の部屋に入れるという方法をとっているご家庭は多いです。
ただ、その方法ですと、自分も家族もどんな服をどのくらい持っているかがわからなくなってしまいがち。そうなると、探し物が多くなり、やがてクローゼットだけでなく家じゅうの散らかりの原因となってしまいます。
そしてそれを妻が一人で片づける場合が多くて、夫や子どもが適当に扱うことにイライラしてしまう。そこで悩むくらいでしたら、家族それぞれでスペースを分けた方がいいです。
——「家のことは母親が」という性別役割分業の意識から、「家族の物も自分が管理しなければ」と思っているお母さんもいらっしゃると感じます。
私のお客様はお母さんの立場の方が多いのですが、「これはどうしますか」と聞くと、夫や子どもが「一応捨てずにとっておいて、と言ってる」と答えられることがよくあります。
「夫や子どもが持っておきたい物なら、本人に管理してもらってください。あなたが背負い込む必要は全くありません」とまずはお伝えしています。
そうすると「でも子どもに物の管理を任せると、すぐに失くしてしまうんです」とおっしゃるのですが、だからといってお母さんがずっと管理してあげていると、お子さん自身の片づけ力が身につきません。
物をなくしてお子さん自身が困って、次からは自分できちんと片づけようと思えるようになる過程をもつことも、教育として必要なことだと私は考えています。
——とはいえ一人ひとりの部屋を持つのが難しいお家もありますよね。
家族それぞれに個室があるのが理想ですが、個室が難しければ、棚などスペースで区切る方法があります。自分の物を管理するスペース明確になると、小さいお子さんでも自分の持ち物に責任を持てるようになります。
また、お家にお母さんの部屋がないというケースも少なくありませんが、そうするとリビングにお母さんの私物が出しっぱなしになってしまいがちです。そういう場合は、リビングの決まった場所にお母さんの物を置くスペースを設けることをご提案しています。
お母さんとしては「私には自分の部屋がないんだから仕方ない」という思いもあるでしょうが、それでも出しっぱなし(=片づけていない)ですと、お父さんや子どもは「なんで僕たちは出しっぱなしではダメなんだろう」と思ってしまいます。
——あくまで共有スペースは、片づいている状態をスタンダードとして考えるということですね。
「リビングはカフェだと思ってください」とよくお伝えしています。たとえ明日も今日と同じカフェで作業するからといって、私物を置いたままにして帰ったりはしないですよね。
でも家庭ですとやってしまいがちです。物を置きっぱなしにすることが散らかる原因になることが多いので、全員共有のスペースには私物を置かないことが大切です。
家族との価値観の違いにどう向き合うか
——自分は片づけたとしても、家族が共有スペースに物を出しっぱなしにして悩んでいる場合はどういう対応がとれますか?
家族が片づけてくれなくてつらい一番の理由は、「私がこんなにお願いしているのに、どうして家族は話を聞いてくれないのか」というところではないでしょうか。私の場合は、自分は片づけたいのに、家族はその辺に置きっぱなしでも気にならない人だったので、私が一人で黙々と家族の物をそれぞれの個人のスペースに戻していました。「出しっぱなしにしてるのなら、私が勝手にあなたのスペースに戻しますよ。それでもいいですか」ぐらいの許可を得ておくのもいいかもしれません。
「片づけたいのは誰なのか」というのも大事なポイントです。家族は片づけたいと思っていないのに、自分は片づけたくて、「片づけるのは良いこと」と思っているから、自分だけ「家族は片づけてくれなくて悲しい」となってしまうんです。「自分の願いを家族に押しつけていないか」と振り返ってみるのも必要ですね。
——「片づけたい」なのか「片づけなければ」なのか、といったことでしょうか。
片づけない家族に対してイライラしてしまう背景には、「自分は我慢して頑張って片づけているのに、どうしてあなたたちはやらないの」という思いがあると思うんです。
片づけで家族関係を円満にしたいと思っていても、家族関係を悪化させたいと思っている人はいないと思います。お母さんがイライラして、家族全体の空気までピリピリするというのは、本末転倒。そういうときは、お母さんも一度片づけをやめてみるのもいいでしょう。
片づけをやめてみて家が散らかって「こんな暮らしをするのはいやだ」と自己肯定感が下がるのであれば、“自分のために”片づけをすればいい。お母さんが片づけをやめることで困ることが出てきたら、家族で対策を話し合うという方法もあります。
「私がこんなにやってあげてるのに」と思い始めたら要注意です。それって、本当に「家族のため」でしょうか?「こんなにやってあげてる自分が好き」という部分はないか、振り返ってみてほしいです。
子どもの片づけは本人に任せることが大切
——特にお子さんの片づけについて、ポイントはありますか?
親御さんが介入しない方がうまくいきます。お子さんが「これいらない」って言ってるのに、親御さんが「それ高かったのに」「思い出の物なのに」と、捨てさせないことは結構あります。
そう親に言われると、子どもは捨てられなくなってしまいます。親が残しておきたいのであれば、親のスペースで管理すればいいのです。
——確かに「片づけなさい」と促されて、「いらない」と判断したのに「それを捨てるの?」と止められたら、戸惑ってしまいますよね。
「子どもの物が片づかない」とおっしゃる親御さんは多いのですが、小さいお子さんの場合、子どもの物を増やしているのは実は親御さん自身なのです。
たとえばファストフードのおまけのおもちゃだって、本の付録だって、親が買ってるから家に溜まっていくわけです。物を増やしたくないなら、最初から買わなければいい。このように片づけが苦手な人ほど、物が入ってくる「入口」を閉めることが重要になってきます。
——子どもは何歳くらいから、一人で片づけられるのでしょうか。
3歳くらいからです。お子さんの片づけに関する相談をお客様から受けたときは、「子ども部屋は私とお子さんでやるので、お母さんは自分のスペースを片づけてください」と言って、3歳以上のお子さんは親から離して、お子さん自身に判断してもらっています。
そうじゃないと、お母さんの顔色をうかがってしまうんです。「これをいらないって言ったら、ママが悲しむと思う」と気にしたり、私が「これはどこにしまったらいいと思う?」と聞くと、お母さんの指示を求めたり。
まずは一度、子ども自身の力で片づけてみて、「この方法は使いづらい」という失敗の経験をすることだって、大切なことです。
片づけによって自分の時間が増えるのはなぜ?
——下村さんのプロフィールには「時間×片づけコンサルタント」とありますが、片づけることと時間の関連性について教えていただけますか?
平均的なビジネスパーソンは、年間150時間も探し物に費やしていると言われています。ですので、片づけによって物を探す時間が減らせれば、それだけの時間が別の有意義なことに使えるようになりますよね。
また、物の要不要の判断をしていくと、選択力が身についてきます。そうすると、自分にとって不要な予定や、やらなくていいことも見えてきます。時間管理が苦手な人はまず、物の整理をしてみるといいでしょう。
よく「片づける時間がないんです」とご相談をいただくのですが、逆です。片づいていないから、時間がなくなってしまうんです。その連鎖を断ち切るには、片づけるしかない。片づけは、単なる物の整理ではなく、自分の人生の時間を取り戻すことなのです。
【プロフィール】
下村志保美(しもむら・しほみ)
時間×片づけコンサルタント、ファイナンシャル・プランナー、家計アドバイザー。
1968年愛媛県生まれ。英語講師や投資顧問会社での勤務後、夫の転勤に伴い中東カタールで生活。当時は国際情勢が安定しない中、本当に必要なモノだけで暮らす生活を実践。
帰国後、友人宅の整理・収納方法をアドバイスしたことをきっかけに、2014年に片づけのプロとして起業。
「空間・心・時間」の3つを“整える”ことで忙しい女性をサポートする「PRECIOUS DAYS」を主宰。
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