白黒思考とは?原因と治し方を心理士が解説

白黒思考とは?原因と治し方を心理士が解説
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さまざまな認知のゆがみのなかでも、0か100かで物事を考える傾向を白黒思考といいます。白黒思考を改善したい場合は、認知行動療法の1つ「コラム法」の実践が効果的です。認知行動療法は物事の受け止め方である「認知」にアプローチし、不快な気分を軽減するのに役立ちます(※1)。 本記事では、認知のゆがみの1つである白黒思考を取り上げ、その特徴やコラム法の実践方法を紹介します。「自分は白黒思考の傾向がありそうだ」と思う人は、ぜひ参考にしてくださいね。

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白黒思考とは? 

白黒思考(all-or-nothing thinking)とは、物事を白か黒、0か100かで極端に考えることをさす言葉です(※2)。白と黒の中間の考え方をする発想に乏しいため、物事を柔軟に考えられなかったり、対人関係がうまくいかなかったりして日常的に生きづらさを感じることもあります。ここでは白黒思考の具体例となりやすい人の特徴を紹介します。

白黒思考の例

白黒思考の具体例を挙げると次のとおりです。

  • 対人関係を敵か味方かに分けて考えたがる。
  • 他愛のない遊びでも勝ち負けにこだわる。
  • 解決した問題についても責任の所在を明確にしなければ気がすまない。
  • 少しの失敗で誰も責めていないのに、極端に自分を卑下する。
  • 恋人やパートナーに対して私と仕事どちらが大事なのと詰め寄る。
  • 少しでも失敗しそうな気配があると挑戦自体を諦める。
  • 挨拶されなかっただけで嫌われていると決めつける。

以上に心当たりがある場合は、無意識のうちに白黒思考をしているのかもしれません。

白黒思考になりやすい人 

完璧主義の人や自閉スペクトラム症の傾向がある人は、白黒思考になりやすいといわれています。

完璧主義の傾向がある人は、結論がはっきりせずに中途半端な状態や二分できないものを嫌います。

また、自閉スペクトラム症の特性を持つ人は、あいまいな状況を理解することが苦手です。「こういうこともあるけど、別の可能性もあるよね」という考え方ができないため、物事をAかBかに振り分けがちです。

これらの傾向や特性を持つ人は、はっきり白黒つけるのが心地よい状態になるのです。

白黒思考の原因 

白黒思考になる原因は、子どもから大人へと成長する過程にあると考えられています。子どものころに親や周囲の人と関わるなかで、柔軟な思考が育まれないと白黒思考につながる可能性があるのです。

10歳前後まではまだ精神発達が未熟なため、白黒思考を持ちやすい時期。そのため子どもに好まれるアニメの多くは、正義の味方と悪者がはっきりと区別して描かれています。人生経験を積み大人になるにつれ、自然と白黒つかない善悪があいまいなストーリーも楽しめるようになります。

ところが成長過程で身近な環境や周囲の人、保護者との関係を通して柔軟な思考が育まれないと、白黒思考のまま大人になることがあります。

このように幼少期からの経験の積み重ねによって形成される考え方の枠組みを、認知行動療法では「スキーマ」と呼んでいます。このスキーマによっては、人間関係に摩擦が生じたり、物事をネガティブにとらえたりして自分を苦しめてしまう可能性があるのです(※4)。

白黒思考の治し方

白黒思考は思考のパターンなので、それ自体に良い悪いはありません。

ただし、白黒思考によって人間関係がうまくいかないと感じているなど、白黒思考をを治したい場合は、次の手順を踏んで柔軟な考え方をできる状態を目指しましょう。

  1. 自分の考え方を観察する
  2. 事実を観察する
  3. 他の考え方ができないか考えてみる

以上は認知行動療法の手法の1つ「コラム法」に則った考え方です。以上を習慣にできれば、白黒思考による偏った考え方を修正して、物事をバランスよく捉えられるようになるでしょう。

コラム法の具体的な取り組み方については後述するので、ここではコラム法の考え方をわかりやすく解説します。

自分の考え方を観察する

白黒思考を治すためには、まずは自分の考え方を観察して白黒思考をしている自分自身を客観視することが大切です。

自分の考えていることを紙に書き出したり、カウンセリングを受けたりすると自分の考え方を観察しやすくなります。

事実を観察する

次に事実を観察しましょう。

白黒思考をしている場面では、事実の一部分しか見ていないかもしれません。自分が見落としている事実がないかどうか詳しく観察しましょう。

他の考え方ができないか考えてみる

自分が見ていなかった事実があったことに気づいたら、そこから他の捉え方ができないか考えてみましょう。

自分ではない他の人になったつもりで、「〇〇さんだったら、このように考えるかも?」と心のなかで問いかけるとよいです。

コラム法のやり方

コラム法の考え方について概要を掴んだら、実践してみましょう。ここでは7コラム法を例に、コラム法のやり方を紹介します。

(1)状況

気持ちが動揺したり、精神的につらくなったりしたときの状況や、不適切な行動をしてしまった場面を思い出してみましょう。

  • 例:馴染みのない仕事をしていてわからないことが出てきた。周りの人に聞こうと思ったが、皆忙しそうにしているので聞きそびれた。その結果、自分の仕事が滞ってしまいプロジェクトが期日内で終わらなかった。

(2)気分

そのときの気分や感情を「喜び」や「怒り」などの単一の言葉にして、パーセンテージで表現してみましょう。気分や感情は複数思い浮かべても構いません。

  • 例:無力感 80%、みじめ 70%

(3)浮かんだ考え

状況に対して浮かんだ考えを書き込みます。

心のつぶやきをセリフにして、思い浮かんだままをなるべく具体的に記入すると、自分の考えのパターンが見つかりやすいです。

  • 例:「どうして積極的に周囲にわからないことを聞けないのだろう。」「いつも消極的だから仕事が進まない。人間関係もうまくいかず自分は社会人失格だ。」

(4)根拠

(3)で書いた思考の根拠となる事実を書き出します。先ほどの考えが正しいことを示す根拠を記述します。

  • 例:自分の仕事が進まずにチームのメンバーに迷惑をかけた。会社の先輩に相談しなかったことを叱られた。

(5)反証

(4)で書いた根拠と矛盾する事実を書き出します。何か見逃していることはないか、自分の考えに反するような事実がないか状況を再度確認しましょう。

  • 例:日ごろはチームのメンバーと仲良くできているし、「気にするな」と声をかけてくれたメンバーもいる。普段は上司や同僚にしっかりと報告・連絡・相談している。

(6)別の考え(適応的思考)

根拠と反証で書き出した内容を手がかりに、先ほど書き出した思考に代わるより柔軟な思考を考えてみます。

(4)の根拠と(5)で考えた反証を「しかし…」と接続詞でつなぐと、別の考えを思いつきやすいです。

  • 例:自分の仕事が進まずにチームのメンバーに迷惑をかけたうえに、会社の先輩にも相談しなかったことを叱られた。しかしいつも相談していないわけではなく、今回はたまたま周囲が忙しかったから、うまくできなかっただけ。普段はチームのメンバーとも仲良くできていて人間関係もうまくいっているから、社会人失格は考えすぎ。

(7)心の変化

最後に、最初に記録した感情がどのように変化したかを記録します。記録した後にどのような感情になったかに着目してみましょう。

  • 例:穏やか 70%、無力感 30%

以上でコラム法は終了です。

ここで紹介した事例では、コラム法を実践する前は「いつも消極的」「みんなに嫌われた」と物事を0か100で捉え、白黒思考で考えています。

そこでコラム法を実践することで、「今回たまたま消極的にならざるを得なかった事実」や「励ましの言葉をくれた人がいたこと」に気づけたのです。つまり「いつも消極的」や「みんなに嫌われた」などの白黒思考をやわらげ、別の考え方を取り入れることに成功しています。

落ち込むような出来事があった際には、コラム法を実践して考え方を和らげてみましょう。

「白黒思考」と上手に付き合い、しなやかな心を手に入れよう

「完璧でなければ価値がない」「100点でなければ0点と同じ」といった白黒思考は、自分を追い詰め、苦しめてしまう原因になります。

しかし、この記事でご紹介したように、ご自身の思考のクセに気づき、バランスを取る練習をすることで、その影響を和らげていくことは可能です。

すぐに完璧な「グレー」を目指す必要はありません。まずは「もしかしたら、白と黒の間もあるのかもしれない」と、ほんの少しだけ別の視点を持つことから始めてみませんか。その小さな一歩が、よりしなやかで、生きやすい毎日へと繋がっていくはずです。

※この記事はAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」と連携しています

 

<参考資料>

※1 「認知行動療法とは」(国立研究開発法人 国立精神・神経研究センター)

※2 大野裕『こころが晴れるノート』2003年3月 創元社 p.50-51

※3 厚生労働省 精神療法の実施方法と有効性に関する研究「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」

※4 「認知療法,スキーマ,自動思考の意味」(Direct Commnication)

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