人間関係ストレスの軽減につながる「アサーション」とは?トレーニング方法やロールプレイ事例を解説
アサーションとは、自分と相手を大切にしながら自己表現をする方法です。次のような悩みを抱えた方は、アサーションを実践すると問題を解決できる可能性があります。 「相手に気を遣うあまり、なかなか言いたいことが言えない…」 「意見を主張しようとすると、どうしても強い口調になってしまう…」 ストレスを抱えずに良好な人間関係を構築するためにも、ぜひアサーションをマスターしてみてください。 本記事ではアサーションの概要からトレーニングの方法、ロールプレイの具体例まで幅広く解説します。これからアサーションを実践しようと考えている場合は、ぜひ参考にしてください。
アサーションの意味とは?
アサーションとは、自他を大切しながら自己表現をする方法です(※1)。相手を傷つけることなく、自分の気持ちを伝えることを目指します(※2)。人間関係を良好に保つための心理学的アプローチの1つとして、アサーションが取り上げられるケースもあります。
ここではアサーションのベースとなる考え方とアサーティブとの違いについて解説するので、まずは基本を押さえてください。
アサーションのベースとなる考え方
大正大学で心理学の専任講師を勤める隅谷理子先生によると、アサーションのベースには次のような考え方があります。
アサーションのベースにあるのは、どんな立場にいる人であっても、誰もが尊重され、自分らしく生きていいんだ、という考えです。つまり、基本的人権の話なんです。存在する一人ひとりに、「自分はこうしたい」という欲求や意見がありますよね。それを互いに認め合える関係性のなかのコミュニケーションが、アサーションです。
引用:意思と想像力が、コミュニケーションを変えていく。誰もが認め合える関係性をつくるアサーションのすすめ - 大正大学 隅谷理子先生 |コグラボ
一般的には、コミュニケーションスキルの一種と認識されていますが、ベースの考え方として基本的人権の尊重を挙げられている点がポイントです。自己の希望を通すための手段ではなく、相手の立場を尊重して自他が良好な関係を築くための手段としてアサーションを活用しましょう。
アサーションとアサーティブの違い
アサーションの他にも「アサーティブ」という言葉がありますが、両者の意味に違いはありません。ただし用法上の違いがあり、アサーティブは形容詞で、アサーションは名詞として用います。
そのためアサーションが主に単体で用いられるのに対して、アサーティブは「アサーティブコミュニケーション」など他の単語と組み合わせて用いられることもあります。
アサーションの前に要チェック!3つの自己表現タイプ
アサーションのトレーニングをはじめる前に、まずは自己表現のやり方には以下の3タイプがあることを押さえましょう(※3)。
- アグレッシブ(攻撃型)
- ノンアサーティブ(非主張型)
- アサーティブ(バランス型)
誰もが、上記3タイプいずれかで自己表現を行っています。自己表現をする場面やコミュニケーションをとる相手との関係性によって、それぞれの型を使い分けているのです。
まずは自己表現には3タイプが存在することを理解し、場面や人間関係に応じてどのように自己表現のやり方を変えているのか意識してみてください。そうすると、自分自身の自己表現の傾向をつかめるため、どのように自己表現のトレーニングをすれば良いかわかりやすくなります。
アグレッシブ(攻撃型)
アグレッシブ型は相手への配慮がなく、自分の意見を強く主張するような自己表現を行うタイプです。相手よりも自分のことを優先して考える傾向にあるため、一方的に自分の言い分を押し通そうとします。
相手より優位に立とうと大声で怒鳴ったり、巧妙に言いくるめたりしようとすることもあり、その結果、周りから敬遠されて、人間関係に支障をきたすことがあります。
ノンアサーティブ(非主張型)
ノンアサーティブは自己主張が苦手で、相手に合わせるような自己表現を行うタイプです。自分よりも相手のことを優先して考えるため、率直に自分の考えを言えず、遠慮がちに伝えます。主張があいまいになり、相手に自分の意見が伝わらないことが多いため、後悔することがあります。
アサーティブ(バランス型)
アサーティブは相手への配慮を忘れず、自分の気持ちや考えを大切にしながら自己表現を行うタイプです。自分のことを第一に考える一方で相手への配慮を忘れず、自分の考えを無理に押し付けたり、人を傷つける言葉を選んだりしません。
場の状況や相手の立場に応じたふさわしい形で、自分の意見を率直に伝えることができます。人間関係が安定しやすく、後悔することが少ない点が特徴です。アサーションのトレーニングを実践する目的は、アサーティブな自己表現ができるようになることです。
アサーションのスキルを身に着けるためのトレーニング方法
実際にアサーションのスキルを身に着けるためのトレーニングを実践してみましょう。トレーニング方法を実践するにあたり、以下の点を意識してみてください。
- 自分の気持ちを大切にする
- 主語を「私」にする
- DESC法で伝える
- アプリを活用する
それぞれについて詳しく解説します。
自分の気持ちを大切にする
まずは自分の気持ちを客観的に把握しましょう。とくに日ごろからノンアサーティブな自己表現を行っている場合は、自分の気持ちに鈍感になっているかもしれません。自分の気持ちを抑え込まずに大切にすることからはじめてみてください。
自分の気持ちを客観視する方法として、ノートに書きとめてみたり、人に話を聞いてもらったりすることが考えられます。
主語を「私」にする
日ごろからアグレッシブな自己表現に偏っている人は、主語を「あなた」から「私」に置き換えることを意識すると、自分の意見を伝えやすくなります。
私を主語にして相手に行動を促したり、自分の意見を伝えたりすることを、「アイメッセージ」と呼びます。たとえば、「私は~~と思っている」「私は~~してもらいたい」などの伝え方がアイメッセージに該当します。
アイメッセージを心がけると、相手は命令されたと感じづらいため、不快感を与えずに自分の意見を伝えられる効果もあります。アイメッセージと反対の意味合いを持つユーメッセージとの比較を示すと、次のとおりです。
- ユーメッセージ:あなた(YOU)は遅刻しないように気をつけて
- アイメッセージ:遅刻しないでもらえると、私(I)は安心できるよ
ユーメッセージは命令口調に感じられるのではないでしょうか。それに対しアイメッセージは、自分の意見や思いを述べているだけなので、命令口調の印象が薄れています。効果的にアサーションを実践したい場合は、アイメッセージを意識するとよいでしょう。
DESC法で伝える
アサーションのトレーニングをする際は、DESC法を意識して自分の考え方を伝えるとうまくいきます。
DESC法は、相手に伝えたいことを「客観的な状況」「主観的な気持ち」「提案」「代案」の4つに分けた上で、順序立てて表現する方法です(※8)。”Describe”,”Express”,”Suggest”,”Choose”の4単語の頭文字をとってDESC法と呼ばれます。各頭文字の意味と注意点をまとめると次のとおりです(※9)。
DESC法を覚えづらい場合は、「み・かん・てい・いな」で覚えてみましょう。
「み・かん・てい・いな」も基本的な意味はDESC法と同じです。各頭文字が示す言葉と意味、DESC法との対応をまとめると次のとおりになります。
DESC法(み・かん・てい・いな)の具体例
上司から明日15時までに提出する資料の作成を頼まれた状況を想定して、DESC法を活用すると次のように自分の考えを伝えることになります。
以上の流れを繰り返しトレーニングすることで、相手に不快感を与えずに自分の考えを伝えられるようになるでしょう。
このようなトレーニング方法はロールプレイと呼ばれますが、他にもさまざまな場面を想定してトレーニングできます。ロールプレイの具体例については後述しますので、そちらも参考にしてください。
注意すべきポイントは、アサーションは相手を操作したり無理やり「YES」を引き出したりするための伝え方ではないことです。自分のことだけを考えるのではなく、相手の目線に立ちながら話すことで、建設的なコミュニケーションを図ることがアサーションの目的です。
アサーションのトレーニング実践例
ここではアサーションのトレーニングの具体例として、次のロールプレイ事例を紹介します。(※10)
- 同じミスをする部下に注意する場合
- 配偶者に料理の味付けを変えてもらいたい場合
- 子どもに宿題をしてもらいたい場合
ロールプレイとは実際の現場や場面を想定し、登場人物の役割を演じながらスキルを身に着ける方法です。アサーションの活用法をイメージしやすくなるので、ぜひ参考にしてください。
同じミスをする部下に注意する場合
同じミスをする部下には、ついつい声を荒げてしまう方も多いのではないでしょうか。もしくは、ハラスメントに抵触しないかどうかを気にするあまり、何も言えず過ごしている方もいらっしゃるかもしれません。
同じミスをする部下に注意をする場合、次のようなイメージでアサーションを実行してみましょう。
配偶者に料理の味付けを変えてもらいたい場合
配偶者に料理の味付けを変えてもらおうとすると、せっかく作ってもらった手料理への不満を伝えるようで、相手を傷つけないか不安な方も多いのではないでしょうか。そのような場合、アサーションを意識すると次のような伝え方になります。
子どもに宿題をしてもらいたい場合
子どもに宿題をしてもらおうとして、命令口調できつく伝えても、うまくいかないことも多いのではないでしょうか。そのような場合は、DESC法を活用して次のように伝えてみてください。
アサーションのトレーニングをするメリット
アサーションのトレーニングをすると、相手を不快にさせずに「NO」を伝えたり、自分の意見を誰にでも伝えたりできるようになります。さらにコミュニケーションの不和によるストレスを軽減する効果も期待できます。本項では、アサーションのトレーニングをするメリットについて解説します。
1.相手を不快にさせず「NO」を伝えることができる
要求に応えられないときは「NO」と伝えられると、ストレスをためずに済みます。一方で言いたいことを我慢し続けたり、自分の意見を聞いてもらえなかったりすると、ストレスをため込むことになるため注意が必要です。
アサーションのトレーニングをすると、相手との関係性を悪化させずに、自分の意見を伝えられるため、ストレスをため込まずに済みます。
2.相手を選ばず自分の意見を伝えることができる
仕事の上司や顧客など相手によっては、不快にさせることを避けるがあまり、自分の意見を伝えられないケースもあるのではないでしょうか。
相手に自分の意見を伝えられないと要求が徐々に大きくなって、その負担に耐えられなくなることもあります。そこでアサーティブなコミュニケーションを実践すると、相手を不快にさせることがないため、誰にでも自分の意見を伝えられるようになります。
相手の過度な要求に悩まされることもないため、仕事やビジネスでバランスの取れた人間関係作りができます。
3.コミュニケーションの不和によるストレスを軽減できる
アサーティブな伝え方ができるようになると、コミュニケーションの不和によるストレスを軽減する効果も期待できます。
その効果は2009年、神戸大学の加藤佳子教授らの研究によって示されました。研究によると、友人との新しい人間関係を築いていく青年期(11歳から20歳までの時期)は、アサーション行動がストレス緩衝につながることがわかっています(※4)。
もちろん周囲とコミュニケーションを取りながら進めなければいけないのは、成人を迎えたあとも同様です。コミュニケーションを発端としたトラブルに発展しそうな場面では、自分の意見を伝えづらくなるのも無理はありません。そのようなときにアサーションを使うと、言いたいことが伝わらないことで起こるストレスを軽減できるでしょう。
アサーションのトレーニング効果に関する研究
1982年にアサーションが開発されて以来、多くの研究を経て、個人間だけではなく集団内でのコミュニケーションにも活用されるようになりました。そして今や、医療や福祉、教育、産業など、さまざまな分野でトレーニングが実施されています(※5)。
ここでは、子育て支援者のスキルの向上と従業員エンゲージメントの向上といった2つの分野におけるアサーショントレーニングに関する研究を紹介します。
子育て支援者のスキル向上
日本福祉大学の水野節子助教授が代表を務め、2019年にアサーション研修の効果に関する研究が行われました。それによると、アサーションには子育て支援を専門に行う人のコミュニケーションスキルを高める効果が期待できることがわかりました(※6)。
この研究を行うにあたって開催されたアサーション研修は、保健師や保育士などの子育て支援専門職の人を対象にしています。研修の目的は、「自己や他者への共感」を重視するコミュニケーションの方法をアサーションを通して学び合うことです。
アサーションへの理解につながるワークショップを行った結果、参加者はアサーティブな自己表現をしっかりと学べたようです。自由記述式の回答には、「自分や他者との新たなかかわり方を知った」との意見が散見されました。同論文の分析によると、ここで示された「新たな関わり方」は以下の意味を持ちます。
- 「自分や相手の感情に気づくこと」
- 「感情の根底にあるニーズに興味をもち、それを言葉で表現すること」
相手に共感しながら自己表現することは、子育て支援では非常に重要です。アサーションを活用した研修は、子育て支援専門職の支援力向上にも役立つのです。
従業員エンゲージメントの向上
2020年に、大阪体育大学の古家一憲らが行った研究では、アサーティブなコミュニケーションが従業員エンゲージメントを高めることがわかりました(※7)。
従業員エンゲージメントとは、企業理念に共感した従業員が、企業の業績向上に向けて自発的に貢献したいと考える意欲をさします。
一般的に、社内にエンゲージメントの高い従業員が多ければ、業務へのモチベーションが高く、離職率は低くなるといわれています。
本研究の対象は、大学のキャリア支援部です。まずはスタッフにアサーティブなコミュニケーションを理解させ、学生相談支援業務や部内でアサーションを実践してもらいました。その結果、従業員エンゲージメントが高まることがわかったのです。
この結果を受けて、本研究では組織内にアサーションが広がると、従業員の自律性が促進されるなどして、従業員エンゲージメントが向上すると考察されています。
研究からもわかるように、アサーションは単なるコミュニケーション手法ではありません。個々人のコミュニケーションスキルを向上させることは、働きやすい職場環境や組織を築くことにつながり、結果として従業員エンゲージメントの向上にもつながるのです。
アサーションの注意点
アサーションにはさまざまなメリットがある一方で、次のような注意点があるといわれています。(※11)
- 自他に向ける尊重のバランスを取ることが難しい
- 言葉選びが難しい
アサーションのスキルが未熟な場合、過剰に相手の考え方を意識してノンアサーティブに傾いたり、アサーティブを過度に意識して相手に自己主張が強い印象を与えたりすることがあります。また言葉選びに気を配るあまり、うまくコミュニケーションが取れなくなることも予想されます。
以上からアサーションで良好な人間関係を築く場合、まずはロールプレイを実践してトレーニングを積むことが大切です。これまでに紹介したロールプレイ事例やAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」などをうまく活用しつつ、日ごろからスムーズにアサーティブなコミュニケーションができるようにトレーニングしましょう。
アサーションを学びたい方におすすめの本
アサーションを学びたい場合は、本を読むこともおすすめです。ここでは、アサーションの第一人者である平木典子が執筆・監修した書籍を3冊紹介するので、ぜひ読んでみてください。
平木典子『マンガでやさしくわかるアサーション』2015
本書は平木典子氏によるわかりやすい解説と、ストーリー仕立てのマンガの組み合わせで構成されているため、活字が苦手な方でも楽しみながらアサーションを学べます。アサーションへの理解を深めつつ、対人関係の土台となる考え方やコミュニケーションのあり方を見直すきっかけとしてご覧になってみてはいかがでしょうか。
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平木典子『三訂版 アサーション・トレーニング: さわやかな〈自己表現〉のために』2021
本書は平木典子氏がこれまでに著した書籍の中でも、原点となる一冊です。はじめてアサーション・トレーニングを実践しようと考えてる方から、すでにアサーションを知っている方まで幅広いレベルに対応できる書籍です。
*リンクはこちら
平木典子『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』2012
本書はアサーションをこれから実践しようと考えている人に向けて書かれた書籍です。アサーションについてコンパクトにまとめられていて、初心者でも自他を大切にするコミュニケーションのやり方を理解できるようになっています。
*リンクはこちら
アサーションのトレーニングを実践してストレスのない日常を送ろう!
アサーションを実践すると、相手を不快にさせることなく自分の意見を伝えられるようになります。「言いたいことが言えずに我慢している」あるいは、「ついつい命令口調になって相手を不快にさせてしまう」といった悩みを抱えている方は、アサーションを実践してみてはいかがでしょうか。
しかしアサーションに不慣れな場合、急にアサーティブなコミュニケーションを心がけても理想通りに自分の気持ちを伝えられないかもしれません。アサーションを日常で不自由なく実践するためには、ロールプレイを繰り返してトレーニングすることが大切です。
本記事ではロールプレイの具体例を示しましたので、トレーニングをする際は参考にしてください。
※この記事はAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」と連携しています
参考文献
※1:平木典子(2020)、いま、問われている自分らしい選択
※2:関口奈保美ら(2011)、大学生におけるアサーションと対人ストレスの関連性:自己表現の 3 タイプに着目して
※3:高橋 憲生ら(2020)、対話テキスト中の自己主張及び感情の分析に基づくソーシャルスタイル推定
※4:加藤佳子ら(2009)、家族成員の相互関係と児童の自尊感情との関係
※5:平木典子(2020)、協働のためのアサーション・トレーニング
※6:水野節子ら(2019)、「共感でつながるアサーション」による子育て支援専門職の連携機能の開発
※7:古屋一憲(2020)、アサーティブ・コミュニケーションが従業員エンゲージメントを高める効果
※8:村山眞理(2016)、リーダーに必須の英語コミュニケーション力醸成カリキュラムの構築-言語教育とアクティブ・ラーニング-
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