仕事では「がまんが当たり前」?専門家に学ぶ、職場の人間関係も自分も大切にするコミュニケーション術

 仕事では「がまんが当たり前」?専門家に学ぶ、職場の人間関係も自分も大切にするコミュニケーション術
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「アサーション」とは、自分も相手も大切にするコミュニケーションのこと。「自分の言いたいことを大切にして表現する」と同時に、「相手が伝えたいことも大切にして理解しようとする」方法です。日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者による、職場の人間関係がグッとよくなるコミュニケーション方法を「言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より一部抜粋してお届けします。

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仕事では「がまんが当たり前」でしょうか?

職場では人とうまくやることが何より大事。上司に逆らうなんてあり得ない。仕事のためならプライベートを犠牲にするのもしかたがない。企業向けのアサーション研修を行っていると、このような考え方の持ち主にたくさん出会います。仕事をしている人にとって、がまんするのは当たり前。波風立てるくらいなら、自分の「思い」を抑えてでも事を収めた方がいい。そう思い込んでいる人が多いのです。このように「がまん」で「思い」を抑圧してしまっている人のケースを、もう少し詳しくみてみましょう。

たとえば、課長クラス向けに、次のような設定でコミュニケーション・トレーニングを行ったときのことです。部長から突然、「明日の朝までに仕上げてほしい」と緊急の仕事を頼まれる。その仕事を担当したのは部下のAさん。Aさんに頼めば、おそらく2時間程度で仕上げてくれる。でも、当のAさんはプライベートな予定が入っているため、残業はできないと言う。こうしたシチュエーションで、課長としてどう対応するかを考えてもらいます。

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こういう場合、課長さんの多くは、「上司からの命令は断れない。しかし、部下に残業を無理強じいすることもできない。自分でやります」と答えます。「本当にそれでいいのですか?」と私が問いかけると、「だって、しょうがないじゃないですか!」と。部下に無理強いして、パワハラだと騒がれたり辞められたりしたら面倒なことになる。最近はワーク・ライフ・バランスを見直すなど、残業をさせない傾向が強まっている。それならいっそ、つべこべ言わず自分でやってしまえばいい。本当は手伝ってほしい。手伝ってほしいと言いたい。でも、しかたがない、しょうがない(がまんするしかない)……。このように、「しかたがない」「しょうがない」で自分の本音にフタをし、がまんに気づかない中間管理職が増えています。

管理職の中には、部下を指導しながら自らも現場に立つプレイングマネージャーが増えていますが、こういう働き方は気づかないがまんの温床になります。作業をこなしながら部下を指導するため、忙しすぎて満足にマネジメントできない。そのため部下が育たず、仕事量が増え、ますますがまんがたまっていく。でも目の前の仕事をこなすことに必死のあまり、自分の「思い」を抑えていることにさえ気づかない……。このような働き方が、今の日本社会には蔓延していると言っても過言ではありません。

「会社を辞めろってことですか? 」

会社のために一生懸命働くことを、否定するつもりは決してありません。やむを得ず自分が引き受けるしかない仕事も少なくはないでしょう。ただ、一方的にがまんしながら引き受けるのと、「手伝ってほしい」という気持ちを伝えた上で引き受けるのとでは、心理的負担が大きく違い自分もがまんしない、相手にもがまんさせない。そのためにはどうすればいいのかを考えながら、自分の思っていることをともかく言ってみる。これがアサーション、お互いを大切にするコミュニケーションの基本なのです。ところが、企業研修でアサーションについて説明する私に、こんな発言をした人がいました。「先生、もしかして僕に会社を辞めろと言っていますか?先生の話を聞いていると、僕は会社を辞めた方がいいんじゃないかっていう気がしたのですが……」もちろん、私はひと言も「会社を辞めろ」とは言っていません。何を根拠にそう思ったのかもよくわかりません。ただ、彼の発言から想像したことは、「会社で自分の意見を言うのはタブー」になっているか、彼がそう思い込んでいるということ。

仕事というものは、がまんベースが当たり前。自分の意見を言わず、どんな状況でもイエスと言うのが当たり前。会社にものを言いたいときは辞める覚悟で。かなり極端ですが、彼にとってはそのくらい、働くこと=がまんすること、「思い」を抑えること、になっていたのかもしれません。彼の心中を察しながら、私はこんなふうに答えました。「辞めろと言っているつもりはありません。でも、『この会社にいる限り、自分をイキイキと生かすことはできない』と思うなら、そういう選択肢もあるかもしれませんね」

書籍
「言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

この本の著者/平木典子
1959年津田塾大学英文学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者。立教大学カウンセラー・教授、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授、統合的心理療法研究所(IPI)所長を経て、2019年より日本アサーション協会代表。臨床心理士。家族心理士。著書は、『三訂版アサーション・トレーニング』(日本・精神技術研究所)、『アサーション入門』(講談社)、『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術』(PHP研究所)、『マンガでやさしくわかるアサーション』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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