買った瞬間がピーク?「持続可能な幸せ」のためのお金の使い方
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
部屋に物が溢れている。クローゼットにぎっしり服が詰まっているのに着るものがない。高いブランド品を購入してしまい、数日後に後悔した。こんな経験はありませんか?
現代は、情報や物が溢れており、指先ひとつで簡単に買い物ができてしまう時代ですから、「いくら買っても満足できない」状態に陥りがちです。
買い物は本来、自分の欲しいものを買う行為であり、幸せへの一歩のはずです。それにも関わらず、買い物をすることで生活が苦しくなったり、生活空間がぐちゃぐちゃになったりした結果、後悔する人は少なくありません。
いったいどうすれば、後悔のない、心地よい買い物ができるのでしょうか?
今回は、幸福度をアップできる買い物をするためのヒントをご紹介します。
地球のことを考える
『幸福のための消費学』(間々田考夫・著/作品社)では、「より成熟し、分別のある消費の仕方」を以下のようにまとめています。
“自分が本当に好きで、生活を精神的に豊かにできるものを消費すること、しかし環境や社会に悪い影響を及ぼさないこと”
近年、温暖化現象は危機的なレベルになっており、異常気象が続いています。地球全体のことを考えると、ファストファッションをワンシーズンでお役御免にするよりは、長く使えるものや、古着を買った方がいいのは明らかでしょう。
自分ひとりだけではなく、社会全体のことを考えた買い方をすることは、巡り巡って個人の幸福度を上げることにつながるはずです。
なぜそれを買おうとしているのか、本質を突き詰める
また、買い物をする前に立ち止まり、「実際のところ何を買おうとしているのか」を考えることも有用です。
たとえば、インスタで見かけた服を手に入れたいという欲望が湧いてきたとします。それは、あなたがその服を欲しいと思っていたから湧いてきた欲望なのでしょうか?
『暇と退屈の倫理学』(太田出版)において哲学者の国分功一郎は、「現代社会では、消費者に欲しいものがあって、それを察知した生産者がそのものを生産する、という構造にはなっていない」と指摘しています。
たとえば、数年前まで問題なく使っていたパソコンやスマホを、なぜ今もそれを使うことができないのか、考えてみましょう。これ以上、それらの機器のスペックが進化したところで、ほとんどの利用者には関係がありません。消費者が、「毎年パソコンの性能をアップグレードして欲しい」と望んでいるわけではないのです。それなのになぜ買い換える必要が出てくるかというと、生産者が、「今度はこんな新しい機能がついています」「これが今、おしゃれで最先端なんです」「欲しいでしょ? あの人も持ってるんですよ」と宣伝できる新しい商品を作り出しているからに過ぎません。
つまり、生産者が、消費者の欲望を作り出しているのです。
そう考えれば、いくら買い物をしても満たされない理由が見えてきます。生産者がいくらでも消費者の欲望を作り出すことができるのであれば、いくら買っても「まだ欲しい」状態になるのは当たり前だからです。インスタで見かけた服も、購入した直後はテンションが上がったとしても、またすぐに、「欲しい」服を見つけることになるでしょう。
また、国分は、「人が消費するとき、物を受け取ったり、物を吸収したりするのではない。人は物に付与された観念や意味を消費するのである」とも述べています。
インスタで見かけた服を欲すのは、その服を着ていた人がおしゃれだったり、かっこよかったりしたのかもしれません。その服を買いたいと感じたのは、服が欲しいというよりも、「その人にみたいになりたい」だけなのかもしれません。そうでなるのなら、その服ではなく、別の服でもいい可能性があります。あるいは、服以外の物が必要だと気がつく可能性もあるでしょう。
「見せびらかしの消費」に注意する
自分がある物を買いたいと思い、なぜそう思うのかを突き詰めた結果、「自分の優位性を他者に示したい」という本音が出てくるかもしれません。こういった消費の仕方は、「見せびらかし消費」「誇示的消費」と呼ばれるものです。
例えば、SNSなどで服や車、家、旅行などの写真を載せ、憧れの眼差しで見られることを目的にした消費などがこれに当たります。
人間は社会的な生き物ですから、「他者からどう見られるか」という意識から完全に自由になることはできません。「見せびらかすための消費」も一概に悪いものだとは言い切れないでしょう。
しかし、自分の経済力を削ってまでも「見せびらかし消費」をしてしまうと、全体的に見て幸福度が下がってしまうことが予想されます。「見せびらかし消費」は程々にしておくのがいいでしょう。
本当の豊かさは、物の多さではなく選択の質にある
買い物は私たちの日常に欠かせない行為ですが、それが幸せにつながるかどうかは、私たち自身の意識次第です。
地球環境への配慮、自分の本当の欲求への理解、そして見栄や見せびらかしではない純粋な動機……これらを意識することで、買い物は単なる消費から、自分らしい生き方を築く手段へと変わります。
物が溢れる現代だからこそ、「何を買うか」ではなく「なぜ買うか」「どう使うか」を大切にしたいものです。一時的な高揚感ではなく、長く続く満足感を得られる買い物を心がけることで、より豊かで持続可能な暮らしを手に入れることができるでしょう。
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