恵まれてるのに育児がつらい…。ちゃんとした母になれず悩んだ私が、負のループから抜け出せたきっかけ
専業主婦で、夫は育児に協力的、頼れる実家もすぐ近くにある。そんな「恵まれている」状況なのに、育児がつらくて、子どもに強くあたってしまう。そしてさらに自己嫌悪に……。『これって虐待ですか 自己肯定感が低くて怒りを止められなかった私が息子と一緒に笑えるようになるまで』(KADOKAWA)は、主人公みずきが、「恵まれているのだから、ちゃんとしたお母さんでいなきゃ」と悩み苦しみ、葛藤を経て、子どもと笑えるようになるまでが描かれている創作マンガです。
「私は恵まれているのに」他のお母さんと比べてしまう
本作の主人公みずきは29歳で出産。子どもの名前はレオ。みずきは出産前は地方公務員として働いていました。性格は真面目で、完璧主義なところがあります。
子どもが生まれて幸せ……なはずなのに、ずっと体調の悪さに悩まされています。「育児ノイローゼチェック」をやってみたところ、当てはまる項目も多かったみずき。でも「産後の母親ってそういうもの」「お母さんなら誰もが通る道」「私が情けない」と抱え込んでしまいます。
地方公務員の夫は、定時で帰宅できることが多く、夜泣き対応も代わってくれる人。実家とも車で10分ほどの距離で、母親に見てもらって病院や美容院へ行くこともできている。ワンオペでもないのに、なぜかつらい。
トイレにもゆっくり行けない、食事の準備も落ち着いてできない。つい怒鳴ってしまう……。「殴ってないから大丈夫」というわけではないのもわかっていて、後から自己嫌悪に陥り、「ダメな母親」「みんなに呆れられる」と自分を責めてしまいます。
地域の親子の集まりに行っても、楽しそうなお母さんと自分を比べてしまいます。なんで自分はみんなみたいにできないんだろう。恵まれているはずなのに、夫や母には相談できないと自分を追い詰めてしまいます。
苦しみを抱え込んだまま年月は過ぎ、レオは幼稚園のプレ入園(年少の1学年下)が決定。幼稚園で出会うお母さんたちはキラキラしている。「ちゃんとしたお母さんでいなきゃ」という気持ちが強まります。
そんな中で、みずきの体調に異変が生じ始めます。幼稚園のバスを待っていると動悸が止まらなくなって体が震えたり、レオとお出かけのときに電車を待っているときにも同様な症状が出て、電車にも乗れなくなってしまいました。
みずきの不調に気づいた姉が心療内科の予約をしてくれたものの、「できる姉」に劣等感を覚えていた子どもの記憶が蘇ります。調子が悪いことを知った母親の言葉は「やっぱりあんたはダメねえ」。……みずきが自分に厳しく鞭を打ってしまう背景が少し見える瞬間です。
「育児が大変であること」は以前と比べて、世間に共有されてきていると思います。ですが「お母さん」に求められるものはまだまだ多いとも感じます。
「夫が協力的」「頼れる実家がある」という状況は“恵まれている”と見られることが多いでしょう。ですが、たとえ「恵まれている」とされている状況であっても、子育ては大変なことですし、外から見えない個々の事情もあることが描かれています。
ここからは、作者のあさのゆきこさんに、作品に関連してお話を伺いました。
「どうして恵まれているのに苦しいんだろう」
――創作作品とのことですが、現実には近い状況で悩んでいる方は多くいらっしゃると感じます。どのような経緯で『「恵まれている」状況であるにもかかわらず、余裕がなくなってしまう』という設定にされたのでしょうか。
実際に私が「恵まれているはずなのに余裕がない人」だったからです。
朝から晩までワンオペで親にも頼れなくて...…という人がしんどいのは当たり前ですが、「恵まれているのにしんどいのは、なぜなんだろう」とずっと引っかかっていました。
そこの葛藤などを掘り下げて伝えたいと思いました。
――あさのさんもお子さんがいらっしゃるとのことですが「完璧な母親であらねば」と悩んだことはありますか。
あります。最初から「完璧にしよう!」と思う母親は少ないと思います。
でも「最低限このくらい出来てないと…」と思って、その最低限を達成できず苦しむ人が実は多いのではないかと思います。
――作品の中で、ほかにご自身のご経験と重なる部分はありますか?
母親の苦しむ部分はほぼ重なります。特に料理中に邪魔されるシーン、私は料理中に入ってこられるのがとても苦手なので、自分で描いたものを読みながらイライラしてしまいます……(笑)。
また、発達が気になったり、「普通に育ってほしい」と願うあまり、焦ってしまうところも重なります。
――子育てに限らず、「自分は恵まれている」「もっとつらい人はいる」と人と比べて、我慢して無理してしまう人は少なくないと思います。あさのさんご自身はそのようにお悩みになったことはありますか?考え方を変えられたご経験がございましたら、お伺いしたいです。
今でも、人と比べて「私は恵まれている」「もっとつらい人がいる」と思って我慢してしまうことがあって、この考え方に悩まされています。何度も考え方を変えたいと思って、周りの人に相談しても、カウンセリングを受けても変わりません。どうしたらいいか私自身も模索中です。
――「恵まれているのに育児がしんどい」ことをテーマに創作作品を描き、問題を掘り下げた先に、ご自身の考えの変化はありましたか?
正直に言いますと、変化という点ではあまりありません…。依然として、自分なんか全然大変じゃないのに楽をしているという感覚はあるのですが、現在進行形で、他人と比べることをやめようとはしています。
――本作では、「生まれた家庭で受けた扱いが、自身の子育てにも影響してしまうこと」を描いていますが、親からされたことを繰り返さないために必要な考え方について、描きながらお感じになることはありましたか?
まず親からされて嫌だったことを「嫌だった」と認めるところからかなと思います。そんなことを、描きながらぼんやり考えていました。
◆
作品の終盤で、みずきが実の母親のからかいの言動に「NO」を示すという変化が描かれています。でも真剣に話しても伝わりませんでした。母親は自分に対する態度とは異なり、レオのことをかわいがってくれていることから、みずきが「うまくやる」という選択をとっていることが印象的でした。
自分を傷つけてくる家族なら、距離を取るという選択をとることも一つの道です。でも、自分の心を守りながら、割り切ってうまく付き合うという方法もある。これは子育てに限らず、他の場面でも覚えておきたいことです。
「良いお母さんでありたい」という思いによる、自分を責めてしまう気持ちは簡単にはなくならない。でも変わることはできる。だんだんとみずきとレオの笑顔が増えていき、みずきは夫に本音を打ち明けられるようにもなります。一度大きくつまずいても、やり直すことができるということを示してくれる本作は、つらい気持ちに寄り添い、進むエネルギーをくれるものだと感じました。
【プロフィール】
あさの ゆきこ
漫画家。オタクのアラフォー主婦。
人生で陽キャだった経験なし。
趣味は家族が寝静まってから動画を見ること
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