【体験談】「粉ミルクは母親失格、母乳じゃなきゃダメ」産後、母乳信仰にとらわれた経験から学んだこと

 『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)より
『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)より

テレビ局で働きながら副業で漫画を描いている真船佳奈さん。新作『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)では妊娠中の心身の変化から、無痛分娩の経験、出産直後の心境の変化、コロナ禍で情報の頼りがスマホだけであり、徐々に「母乳信仰」にとらわれたこと、夫とのすれ違いなどを描いています。ギャグ要素たっぷりで憂鬱な気分も吹き飛ばしてくれるようなコミックエッセイです。真船さんに母乳信仰にとらわれた経緯や家事への考え方、無痛分娩のご経験について伺いました。

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他人と比べるよりも、自分の力量に合う方法を

——作品ではコロナ禍での出産であって、スマホから得る情報が多く、母乳信仰になっていった様子が描かれていました。どのように考えが変化したのでしょうか。

SNSで育児漫画を見ていると母乳で苦労している人が多かったので「私はミルクにして分担してやっていこう」とイメージしていました。いざ産んでみたら今まで臓器のように一緒にいたものが急に「かよわき生き物」という形で現れて命の責任を感じて。赤ちゃんは栄養が母乳かミルクしかないので「頑張って母乳をあげた方がいいんじゃないのか」という気持ちが芽生えてきました。

気になってスマホで調べると「母乳の方がより素晴らしい」という情報に行き着いてしまうんです。そういった情報が蓄積され、当時は取りつかれたように「母乳じゃなきゃダメなんだ」と思っていました。今は母乳を卒業して1年以上経つので、もし今から2人目を産むのだったら最初からミルクでいいと思っています。

とはいえ、当時の自分がおかしかったとは思わないですね。それまでの人生で赤ちゃんを抱っこしたこともない中で、急に赤ちゃんというものを目の前にして「この子を生かさないといけない」という責任感に直面したわけでして「最良のことをしてあげなきゃいけないんだ」という気持ちになるのは俯瞰して見ても理解ができますし、そういう経験も必要だったのかなと振り返っています。

漫画
『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)より

——ネットで情報を見ていると「“良いお母さん”とはこういうもの」という情報が溢れていますが、母乳以外に「お母さんならこうあらねば」という考えにはならなかったでしょうか。

今、離乳食に関する連載を自主的に行っているのですが、Instagramで離乳食について検索すると料亭で作られたかのようなものがたくさん出てくるんです。内容を見てみると鰹節を削るところからやっていたりして。3歳までに味覚が作られるという説があるらしく「レトルトはあげたくない」「厳選された有機野菜で」と考えるお母さんが少なくない数いることを知りました。

それを見たとき、自分と違いすぎて失神しそうになったんです(笑)。もちろん、そういった考えのお母さんたちはご飯をきちんと作ることに喜びを見出したり、手際が良かったり、食の大切さを重視するという優先順位の違いなんだとは思います。…でも私は結婚前から家事を全然やっていなかったので、鰹節を削ることを継続的にできるはずがない人間なのは自覚をしています。完璧な離乳食を目指したところで子どもとの時間が減ったり、もし食べてくれなかったときに「一生懸命作ってあげたのに」という気持ちになったりすると思うんです。

他人と比べて「この人みたいに頑張らなきゃダメ」と思う必要はないと思います。無理して子どもに優しく接することができなくなるなら本末転倒なので、自分の力量で継続可能な方法を取れたらいいですね。

——『今日もわたしをひとり占め』では夫婦の家事分担について書かれていましたが、出産後に変化はありましたか。

家事分担は出産前から「できる方がやる」というスタイルであまり変わっていないですね。厳密な分担はしていないのですが、やってほしいこと・やってほしくないことはきちんと言うようにしています。

言わないとお互いが理想とする状態には持っていけないので、具体的に「洗濯機を回しておくね」「今日は在宅勤務なら、息子のお迎えはお願いね」と以前よりも密にコミュニケーションを取り合うようにしています。

——同書では「お互いやりたくないときは、我慢できるだけ放置する」と書かれていました。家事をきちんとしなくても「死にはしないか」という精神でいるのも大切だと感じました。

他の家と比べたら汚いと思いますし、食事も適当ですけど、楽しくご飯を食べられたらOKという考えです。家が散らかっていても危険じゃないならいいかなって。

育休中に家事を一生懸命やりすぎてたことがあったのですが、息子がちょっといたずらしたときにいつもだったら許せるのに「家事をしている自分を邪魔されている」と思ったんですね。

保育園にお迎えに行って寝るまでの時間は2時間半程度で、その時間しか子どもと遊ぶ時間がないので、息子が遊んでほしいときに一緒に遊んであげられることを大事にしています。

「無痛分娩」のイメージと現実

——無痛分娩のご経験も描かれていました。イメージとのギャップはありましたか。

病院からは「麻酔の効き方は人それぞれだし、当日の体調によっては麻酔が受けられないかもしれない」と説明を受けていたのですが、無痛分娩をしている病院だったら、よく言われる「鼻からスイカが出るような痛み」を経験しなくて済むと思っていました。

病院によって麻酔を入れるタイミングもさまざまなので、あくまで私の場合の話ですが、陣痛促進剤を入れたことによって、最初から陣痛をフルに味わったのだと思います。でも麻酔を入れた後は思考がクリアになって、呼吸にも集中できたんです。

途中からは「産中ハイ」のような感じになって夫とLINE通話(当時は立ち合い禁止で、LINE通話をつないでの出産でした)で笑いながら雑談したり、助産師さんともおしゃべりしたりする余裕もありましたし。押される感じは伝わってくるので、いきむタイミングはわかるものの痛みだけは全くない形で産めたので、後半は無痛分娩のメリットを感じました。

無痛分娩にも色々あって事前に分娩の日を決める計画分娩もあれば、無痛分娩の予定だったけれども、麻酔科の先生がいないときに陣痛が来たから普通に産んだという話も聞きます。私はよくわからないまま病院を選んだのですが、本書では産科麻酔科の先生に監修に入っていただき、事前に病院を選ぶ際のチェックリストも載せているので参考にしていただけたらと思います。

——出産準備のお買い物についても色々とアドバイスをされていました。「これは買わなくていい」というアドバイスは実体験によるものなのでしょうか。

「買うな」って言われたものを全部買っています(笑)。後悔しているけれど、買っているときは楽しかったです。産む前の買い物が一番楽しくて「直前まで買うな」と言われているので、どんどん思いだけが高まっていたんです。

赤ちゃんショップに行くのが妊娠中の唯一の楽しみでした。おくるみとかオーバーオールとかかわいい服が売っていて夢は広がったのですが、いざ生まれてみたら着させる余裕がなかったです。産後3か月くらいにはエンタメ性は何もなくなって、虚無の顔で粉ミルクを買いに行く場所になっていましたね(笑)。

漫画
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※後編に続きます

『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』(オーバーラップ)
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【プロフィール】
真船佳奈(まふね・かな)

平日はテレビ東京、土日は漫画家として働く。
2017年『オンエアできない!〜女ADまふねこ、テレビ番組作ってます』(朝日新聞出版)でデビュー。
既刊に『オンエアできない!Deep』(朝日新聞出版)、『今日もわたしをひとり占め』(サンマーク出版)。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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