【インタビュー】世間の誤解、夫婦の話し合い…役割を交代し夫が「主夫」になって見えたこと
自宅で仕事をしながらほとんどワンオペで育児をしていた弓家キョウコさん。夫さんとの家事・育児の意識の温度差も感じ、ぶつかってしまうことも。あるとき夫さんから、経営してる飲食店を閉めて、つなぎでバイトを始めようと思うと相談されました。そのとき弓家さんの心には「もっと仕事がしたい」という思いが。やりたい仕事もあるのに子育てしながらではキャパシティに限界がある。弓家さんは「主夫をやってみない?」と夫さんに提案し——。『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)では、男性が主夫をすることや世間の視線、お二人のパートナーシップが描かれています。
大切なのは相手を尊重して話し合うこと
——夫さんが主夫になったばかりの頃は、家事に対する意識の温度差でイライラする様子が描かれています。どうやって受け入れられるようになったのでしょうか。
最初は見守ることで解決しようとしましたが、どうしても自分の中でイライラが消えませんでした。それは見守ることに「期待」が含まれていたからだと思います。大人同士では見守るだけでは良い方向に進まないこともあることに気づき、話して伝えることにしました。
家事に対する意識の差を埋めるため、私が家事において何を優先的に考えているか・何を重要視しているのかを伝えましたし、自分の希望を伝えるだけではなく、私が何をできるかも考えるようにしました。
夫が主夫になったばかりの頃は、私もスケジュールがいっぱいいっぱいで。肩書きに囚われないことを目指していたのに「家のことをする人」「外で仕事をする人」という固定観念があって、分けて考えてしまってました。
夫が主夫になってから感じたのは、夫婦の役割を交代したからといって、全ての問題が解決するわけではないということです。どんな立場だろうと肩書きだろうと、相手を尊重する気持ちがなければ解決しないと思いました。
私も家事育児に取り組みやすいようなスケジュールを組むよう働き方を見直しました。あくまでうちの場合ですが、話し合いでしか解決できないとは感じています。
——「パートナーと話し合いができない」と悩んでいる人は少なくないですが、弓家さんたちは最初からスムーズに話し合いができたのでしょうか。
いえ、最初はできませんでした。夫は家族会議のような真面目な雰囲気が少し苦手なんですよね。なので、私も「きちんと話そう」「不満をぶつけよう」みたいな空気を出しませんでした。
2人の共通の趣味が、子どもが寝た後においしいものをつまみながらお酒を嗜むことだったので、そのときに「最近、無理してることない?」などと切り出して、夫の話を聴いてから自分の希望も伝えるようにしてましたね。
今のように話し合いができなかった頃は、話し合いをするとき最初に「私はあなたとの関係と家庭を良くしたいと思ってる」と、夫を責めたいわけではないということも伝えていました。
——作中でも夫さんの話を聴く場面も描かれていますが、日々モヤモヤを共有しているのでしょうか。
そうですね。「今日こういうことがあって」と夫から話してくることもありますし、私が日頃から作品のネタにできるようなネタを探してしまうので、「主夫生活してて、モヤモヤしてることない?」って聞くこともあります。
夫から「兼業主婦/主夫」という言い方に疑問があるという話をしてくれたこともありました。夫はあまり言葉の言い回しにイヤだって言わないタイプなので、珍しいなと思いながら、調べてみたのですが、明確な定義はないものの、家のことをメインで担いつつも、外で収入を得ているというニュアンスがあるようです。
それを踏まえて私たちは「『家事育児を多く担うべきはあなた』って言ってるみたいだね」って話して、お互いに当事者であるという意識が生まれるよう、私たちは「パートナー」という言葉を使ってます。
「シュフは時間に余裕がある」という誤解を埋めるためには
——夫さんが主夫になって、弓家さんが一人で家計を支えることに不安はありませんでしたか。
不安はありました。フリーランスですし、漫画のお仕事って不安定ですし。プレッシャーはあったものの、仕事への気合いが高まった部分もありました。
今も私が経済的にはメインで、夫はパートタイムで働いています。息子が大きくなったら、契約社員や正社員に戻ってもらえたら嬉しいという話はしていますね。
——作中では夫さんが友人から「シュフの仕事」を軽く見られたことも描かれていました。「シュフは時間に余裕がある」と誤解している人は今でも一定数いますが、世間と認識のギャップを埋めるためには、どのようなことが必要だと思いますか。
私自身、子どもの頃はシュフの仕事がどれだけ大変かわかっていませんでした。父親が醸し出す雰囲気からも、子どもながらにシュフ業を「お母さんの仕事」と思っていましたし、今の大人はそうやって教わった人の方が多数ですよね。積極的に手伝いを促されるような家庭でもなかったので、大人になってから大変さがわかりました。
経験しないとわからないことの一つだと思うので、個人的な意見ではありますが、ジェンダー教育がギャップを埋める一つの手段だと思います。うちでは子どもが3歳の頃から子ども向けの性教育やジェンダー教育を始めていまして、「男の子/女の子で決めつけるのではなく、個々の特性で家事育児を分担や職業を選択した方が、自分も周りも幸せになれると思う」と息子に話しています。長い道のりではあると思うのですが、これからの時代を担っていく人たちには、ジェンダー教育は一つの手段になるのではないでしょうか。
今、息子は5歳ですが「家のこと=お母さん・女性の仕事」というイメージではなく、「家のことは家族みんなの仕事」という認識になっていると感じます。何も言わなくてもティッシュがなくなったら自分で取りにいきますし、トイレットペーパーも自分で交換しますし、料理も一緒にします。
ただ、夫と同世代(40代後半)の人の意識を変えるのは難しい気がしています。本人たちが変わりたいと思ってないようですし、意見を伝えたこともあるのですが「女が偉そうに」みたいに言われたこともありますね。
——いつ頃からジェンダー教育の重要性を感じていたのでしょうか。
子どもの頃には感じていました。帰国子女で、ドイツに住んでいたのですが、中学1年生の頃に日本に戻ってきて、男尊女卑のカルチャーにショックを受けたんです。たとえば、最近は少しずつ見直されていますが、容姿を茶化すバラエティ番組が多かったのに引いてしまって。「男の子は好きな女の子をからかっちゃうんだね」という風習を何歳になるまで続けてるんだろうって疑問に思いました。日本のことは好きなのですが、ジェンダーに関しては、これからいい方向にどんどん良くなっていったらいいなと思います。私自身も子どもへのジェンダー教育を大切にしています。
性教育も子どもが生まれる前から必要性を感じていました。小学校低学年からドイツで暮らしていたのですが、ドイツの教科書には普通に性教育のことが載っていたんです。日本では、性教育=生殖のイメージが強いですし、私も帰国して日本で受けた性教育はそういうものでしたが、本来は自分の身を守る知識とか、ジェンダーの話とか、もう少し包括的な話です。少しずつ子どもに伝えて、当たり前の家庭の雰囲気に出来たらと思っています。
——夫さんとジェンダー教育や性教育に対する意識のギャップを感じることはありますか。
以前「子どもがどういうふうに育ってほしいか」って話をしたときに、夫が「男の子だからこっちの色の方がいい」って洋服の色を勧めることがありました。息子はシルバニアファミリーが好きで、おもちゃ売り場に行くと、自然とそのコーナーに向かっていくのですが、夫が「こっちのほうがいいんじゃない?」と“男の子らしい”おもちゃの方に誘導してたこともありまして……。「男の子だから」じゃなくて「子どもの選んだものを尊重してほしい」って伝えました。繰り返し伝えて、夫も少しずつ理解してくれています。
性教育についても最初は「もう少し大きくなってからでいいんじゃない?」と言っていましたが「性教育って保健体育のような生殖に直結する話だけじゃなくて、子ども自身を守るためのものって認識になってきてるんだよ」と話しました。男の子の身体の扱いのことも、夫の方がわかることなので「男性であるあなたにしか教えられないこともある」と話していますね。
※後編に続きます
【プロフィール】
弓家キョウコ(ゆげ・きょうこ)
漫画家。
摂食障害時代のエッセイや、一緒に暮らす家族や猫の日常漫画を描く。今後、創作連載も予定している。趣味は落語、飲み歩き。
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