【体験談】夫が「主夫」になって見えたこと|意識のギャップの埋め方、信頼関係の築き方とは

 『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)より
Ⓒ弓家キョウコ/祥伝社

自宅で仕事をしながらほとんどワンオペで育児をしていた弓家キョウコさん。あるとき、夫さんが主夫になり、弓家さんが家計の大黒柱となります。『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)では、夫さんが主夫になったことでのお互いの気づきやパートナーシップ、世間の無意識の偏見などについて描かれています。後編では夫婦間で大事にしていることなど、コミュニケーションについて詳しく伺いました。

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パートナーと許し許される関係でいたいと思った

——夫さんがお子さんに大声を出してしまったとき、弓家さんがワンオペ期に同じようなことがあったとき、夫さんが味方してくれなかったため、仕返ししたくなったことが描かれていました。でも踏みとどまれたのってすごいなと思いました。

夫に「とっくん(お子さんの名前)のことを考えてごはん作ってくれてありがとう。ちょっと外の空気吸っておいでよ」と言った瞬間は、あまり深くは考えずに言葉が出てきました。

あの場面以前にも、産後半年の頃はお互いもっとピリピリしてて、私は毎日離婚したいと思ってて、離婚後のことを調べるくらいだったんです。離婚自体が悪いことだとは思ってないのですが、衝動的な離婚は子どももいるので良い選択ではないと思いまして。

夫が大声を出して、息子を怖がらせたことにすごく傷ついていたのですが、あのときに「ほら見ろ!」と見放していたら、信頼関係を築けるチャンスが失われてしまうと思いました。子どもに感情的になってしまって、後悔する気持ちは痛いほどわかりましたし、夫といがみ合いたくないし、許し許される関係でいたいって思ったんですよね。

漫画
Ⓒ弓家キョウコ/祥伝社

——多くのカップルは最初は「好きだから」結婚していると思います。すれ違いもあるなかで、夫さんへの愛が持続したのはどんな理由がありますか。

夫が主夫になるまでは、世間的にイメージされる「愛」とはロマンチックなものだと、表層的な部分に固執していて、その感じはインスタグラムに投稿していた、なれそめ漫画にも出ていたと思います。

結婚して、子どもが生まれて、イライラしたり臭いが気になったりすることもあって、ときめきがなくなっていくことに焦りを感じました。でも相手からしても、少しずつときめきが減っていったのは同じだと思います。夫婦の関係を良くするためにロマンチックな出来事が必要だと思い、デートに誘うとか子どもが寝た後に2人の時間を作ってみようとか、ときめきが発生しそうな提案をしていました。

でも信頼関係ができてないのに、ロマンチックな時間を作ろうとしても、のれんに腕押し状態で。たとえば、子どもが寝た後に一緒にお酒を飲みながら映画を見て話しても、次の日にはお互いイライラしてしまうんですよね。なんで上手くいかないんだろうとモヤモヤとしていました。

きっかけとしては、夫が息子に大声を出して、それを許したことが夫婦関係の愛における次のフェーズに入った瞬間だったと振り返っています。私たちに必要だったのは、ときめきよりも許しと尊重であって、許しと尊重があれば、ときめきがなくなっても怖くないことに気づきました。今は昔のようなときめきは減ったけれども、信頼関係があるので、夫との関係に満足しています。

夫婦間の意識のギャップを埋めるには?

——夫婦ともに家事・育児に当事者意識を持つためにはどうすればいいと思いますか。

世間にずっと「男は仕事、女は家事育児」という固定観念があって、今も残っている部分はありますし、世の中の男性が女性と完全に同じように意識を持つことって難しい部分が多いとは思うんです。でも、家族関係を続けていくうえで、自分たちが最も重要視していることにピントを合わせることはできると思います。私は今でも「最近、家庭が上手く回っていない気がする」と思ったら、「今一番大切にしていることってなんだっけ?」と夫と話しています。

もう一つ私たち夫婦は、お互いがそれぞれの人生において、最も重視したいことを守りながら、子どもにとって心地良い空間を作り続けていくことを軸にしています。自分たちの人生をないがしろにせず、楽しみながら家族関係を続けるためにはどのようなことが必要か。目標が定まれば、そのためにどう動いたらいいかと話を展開しやすく、夫もイメージしやすくなるようです。

最初に目標を確認するって大事なことだと思います。会社みたいだと思うかもしれませんが、ビジョンが定まってない中で、色々と話をしたり進めたりするのは難しい。夫にも「あなたは人生で何を一番重要視してるの?」と聞いたり、「私は『自由』だよ」と話したりします。

——家庭を持つと、独身の「自由」とは意味が変わってくると思うのですが、今の自由とはどのようなことなのでしょうか。

独身時代からフラッと旅に行くのが好きで、今でも2か月に1回ペースで一人旅の時間をもらってます。知らない土地に行って、漫画に活用するための写真撮影をしてますね。あと好きなアーティストがいて、先日徳島のライヴが当たったので一人で行ってきたこともあります。夫は嫌な顔をせずに「楽しんできてね」と送ってくれました。

もちろん、夫にも「自由に出かけていいんだよ」と言ってます。でも夫は一人で飲食店に入れないタイプの人で、家でゆっくりと一人の時間を過ごすのを楽しむので、私が息子を連れて友人の家に行き、夫の一人の時間を確保しています。

——話し合いができて、お互いの個も大切にされていて素敵ですね。本を出されてから約2年経過していますが、その後も衝突することなどはないのでしょうか。

実は去年、離婚したいと思ったことがありました。私たちが大切にしたいと共有したことを、夫が大切にできてないと思うことが続いたので、「このままだと離婚したいから、ちょっと考えてほしい」と伝えて、離婚についてたくさん話し合いました。

その頃、一度息子の前で大きな喧嘩をしてしまったことがあって、そしたら息子が大泣きしてしまって。それを見て「なんてことをしてしまったんだろう」と後悔しました。

夫もそのときの息子の表情が本当につらかったと言ってました。離婚することで状況が良くなるなら、離婚という選択もありだとは思います。でも私たちが今一番大事にしていることは、子どもを健やかに育てることで、息子は夫のことも私のことも大好きなんですよね。息子を悲しませたくないというのは夫婦で共通の認識でしたので、そのためにどうしていくかと話し合いをしました。大事なのは「我慢はしない」ということで、互いに納得できる落としどころを見つけられるよう話し合いをしてるので、このときも今も我慢はしてないです。

——今でも夫婦間で大事にしていることはありますか。

お互いの人生や考え方を尊重することです。以前は言葉をぶつけ合って喧嘩することがあったのですが、今は最初から否定はせず、自分のキャパシティ範囲外の意見だったとしても、とりあえず聴いて理解に努めるようにしています。もちろん子どもの心を傷つけるような言動など、ハッキリと否定することはあるのですが、基本的にはまず聴くようにしていますね。

「否定しないように」って言葉で確認してルール化したわけではないのですが、私からそういう聴き方をしたり「あなたの考え方を尊重したいと思ってる」と伝えるようにしました。そうしたら夫も私の考え方を最初から否定してくることはなくなりましたね。

『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)
『主夫をお願いしたらダメですか?』(祥伝社)


【プロフィール】
弓家キョウコ(ゆげ・きょうこ)
漫画家。
摂食障害時代のエッセイや、一緒に暮らす家族や猫の日常漫画を描く。今後、創作連載も予定している。趣味は落語、飲み歩き。
 

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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