ゴミ出しや道路、防災備蓄…私たちの生活は政治と繋がっている。議会の半数が女性になって変わった景色

FIFTYS PROJECT FES.25の写真
撮影:雪代すみれ

2025年版のジェンダーギャップ指数で、日本は148カ国中、118位。政治と経済分野での遅れが順位を下げている原因だ。2022年から「政治分野のジェンダー不平等の解消」を掲げ、活動しているFIFTYS PROJECTという団体がある。5月31日に行われた同団体のイベントの様子をルポする。

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FIFTYS PROJECTとは、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指すムーブメントだ。2022年8月に「政治分野のジェンダー不平等、私たちの世代で解消を」と掲げ、活動を開始。

地方議会からジェンダー平等実現を目指す20代・30代の女性(トランス女性を含む)、Xジェンダー、ノンバイナリーの議員を増やし、横に繋ぎ、支える活動をしている。

FIFTYS PROJECTに参加している議員・立候補予定者は下記の項目に賛同(※1)。これらの項目に賛同していることが共通点であって、政党に所属している人もいれば、無所属な人もいる。

①選択的夫婦別姓・婚姻の平等(同性婚)の実現に賛成、推進する
②包括的性教育の普及、緊急避妊薬アクセス改善に、賛成、推進する
③トランスジェンダー差別に反対する
④女性議員を増やすためのクオータ制などのアファーマティブアクションに賛成する

2023年の統一地方選挙では、29名がFIFTYS PROJECTに参加して立候補し、24名が当選し、議員になっている。

左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)
左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)

「どんな人にもポテンシャルがあるのが地方政治」

5月31日には、統一地方選挙から2周年を記念したイベントが都内で開催された。

第一部では、『映画 ◯月◯日、区長になる女。』を上映。2022年の杉並区長選挙において、187票差で現職を破った岸本聡子さんと、岸本さんを草の根で支えた市民たちに密着したドキュメンタリー作品だ。

第二部では、岸本聡子杉並区長と、FIFTYS PROJECT代表である能條桃子さんのトークが行われた。

まず、政治家になったきっかけについて。岸本さんがもともと政治家を目指していたわけではなく、市民団体から声がかかり、ヨーロッパから帰国して立候補したという経緯。一般的にはたとえば「地方議員から自治体の首長になる」といった、なんとなく決められたルートがあるものの、岸本さんはそのルートを歩んでいないため、「異色」と言われることもあったそうだ。

岸本さんは、むしろ王道のルートに乗っていないことの何がいけないのか疑問を感じていたという。

「地方政治って、私たちの生活の場なんですよね。暮らしも、仕事も、子どものことも、環境や福祉のことも、みんな普段から向き合っていることなので、どんな人にもポテンシャルがあるのが地方政治なのかなと思っているんです」

「政治」と聞くと、遠いことのように感じるが、ゴミ出しのルールや、公園や道路の状況、図書館などの公的な施設の利便性や、防災備蓄など、私たちの生活の「もっとこうなったらいいのに」という感覚から始まる、意外と身近なものなのかもしれない。

杉並区では、岸本さんが区長になってから、ジェンダー平等の取り組みが進められている。令和5(2023)年4月1日に「杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」が施行、同年4月24日からはパートナーシップ制度も始まった。

自治体において、「男女共同参画」という部門でジェンダー平等に関する取り組みが行われることが一般的。ただ、市区町村によって課だったり、係だったりと組織のあり方が違ってくる。

杉並区の場合は、区民生活部の管理課で男女共同参画以外にも平和事業や犯罪被害者支援も担当。男女共同参画を担当する課長はいなかった。岸本さんは男女共同参画を一つの大きなテーマとして取り組む組織を作る必要があると考え、5年を上限に外部から管理職を登用できる仕組みを活用し、課長を公募した。

「組織を作った上で、さまざまな政策において、ジェンダー視点できちんと分析をしたり、記録をしたり、政策を作っていくこと(が重要)だと思うのですが、まだまだ道の途中だと思っています」

令和7(2025)年1月からは、ジェンダー平等に関する審議会が行われている。

議員の半数が女性になると、どう変わる?

杉並区は、2023年の区議会議員選挙によって、議員の半数以上が女性となり、「パリテ議会(パリテとはフランス語で「同数」を意味する)」となった。

女性議員が半分以上になった変化について、岸本さんは「議会で話し合われる内容が大きく変わった。当事者である女性議員から、生理の貧困や女性の健康に関する質問がされることによって、さまざまな視点が議会の中や職員にも共有されていった」と話す。

杉並区ではもともと妊活LINE相談をおこなっていたが、女性議員から「なぜ妊活だけなのか」と質問があり、「もう少し包括的に女性が相談しやすい環境を作れないか」という問題意識で議論が進められたとのこと。

令和7(2025)年度からは、無料相談が3回までだったところ、回数の制限がなくなり、女性の健康全般の相談と望まない妊娠についても、相談の窓口の名称を掲げて相談に応じることとなっている。

能條さんは「若い女性が議論の対象になると、子育て支援など『子どもを産むための準備』にされてしまう中で、それだけが困難ではない。女性議員が増えて、そういう視点を持って質問する人たちがいて、それを受け止める区長や組織ができている中で、進んでいっていることがわかりました」とコメント。

当事者でなければ気づけない・見えないこともある。ジェンダー平等の視点を持った女性議員が増えることの重要性を感じた話だった。

左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)
左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)

相手にとっての「正しさ」とは?

「正しいと思うことが通らないときはどうしていますか?」という会場からの質問に、岸本さんは、「原則として、自分が正しいと思うことを絶対に大切にする」としたうえで、「ただ、それはほぼ確実に衝突する。パートナーとだって100%わかりあえることはなかなかないわけで」と続けた。

「私が正しいと思うのと同じぐらい、相手にも正しいと思っていることがある。その正しさは私には見えていない、と思うようにしています。『その正しさを理解したい』と自分が言うと、相手も私にとっての正しさを理解したいと思ってくれるんじゃないかなと。そういう関係性をできるだけ作ろうとしています」

実際に、区役所職員たちと議論をする中で、岸本さんと職員で、見えている世界には違いがあることもしばしばあるという。そのときに「なんでわかってくれないんだろう」ではなく、「私が相手の考えをわかっていないのかもしれない。じゃあ理解しようとしよう」と考えるようにしているそうだ。そうすると「この人の正しさは、こういうことを言おうとしていたんだ」と見えてきて、自分の正しさを補強してくれることも少なくないことに気づいたとのこと。

とはいえ、相手に悪意や敵意がないことが前提の話であることも補足。「自分をしっかりと守ることも大切なこと」というメッセージを送った。

最後に、トーク終盤の能條さんの言葉を紹介したい。

「希望って、探してもなかなかないんですよね。ないから、杉並の人たちは自分たちの希望をつくった。私たちも『こういうのがあったら希望が持てるかも』って思って、一歩一歩踏み出した人たちがいて、FIFTYS PROJECTがあるのかなと思っています」

生活に直結していることに意識を向けていき、関心領域が近い人とつながっていく。地域のことを公務員や政治家にまかせっきりにするのではなく、自分たちも参加して「希望」をつくっていく。自分の住んでいる地域をよくすることなら、参加していけるのではないか。そんなことを感じた時間だった。

※1:https://www.fiftysproject.com/candidate/

FIFTYS PROJECTについて

●公式サイト
https://www.fiftysproject.com/

●インスタグラム:@fiftys_project

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左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)
左から能條桃子さん、岸本聡子さん(撮影:雪代すみれ)