「誰に投票したらいいかわからない」そんな疑問にヒントをくれる本『選挙、誰に入れる?』【レビュー】

 『選挙、誰に入れる? ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておきたいこと(新時代の教養)』(Gakken) 撮影:雪代すみれ
『選挙、誰に入れる? ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておきたいこと(新時代の教養)』(Gakken) 撮影:雪代すみれ

「誰に投票していいかわからない」「投票したい人がいない」「自分の一票で変わると思えない」——こういった声を選挙に行かない理由としてよく聞きます。どれかに共感したならば、勧めたい本が『選挙、誰に入れる? ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておきたいこと(新時代の教養)』(Gakken)です。取り扱っているテーマが多岐にわたり、自分はどのテーマに関心が高いか向きあうことができ、どうやって投票先を選ぶかのヒントになります。子ども向けであるため、内容は易しめで、イラストや図が多いのも特徴です。政治や社会問題は難しそうと感じる人、疲れていて政治の話は普段避けてしまうという人にも勧めたい本です。

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「選挙は誰に入れていいかわからないから、行っていない」——そんな人におすすめしたい本が、政治学者の宇野重規さんが監修した『選挙、誰に入れる? ちょっとでも良い未来を「選ぶ」ために知っておきたいこと(新時代の教養)』(Gakken)です。

本書はほとんどの漢字にふりがなが振ってあるように、主に子ども向けに作られているものの、大人にとっても大切なことが書かれているので、紹介します。

選挙は「よりマシな選択」をする

選挙に行かない理由の一つとして「投票したい人がいない」はよく聞きます。そう考えている人に紹介したいのが、下記の記述です。

<投票は「ベストを選ぶ」ことではない>
<候補者の中からしか選べないのですから、(中略)さまざまな観点で、よりマシなほうを選択する姿勢が重要になります>

私は今までほとんどの選挙に行っていますが、毎回100%の気持ちで応援して投票したわけではありません。大切にしたいことの方向性は一致していても、考えが全く同じという人はいないと思っています。政治家も人間であって、人は一人ひとり考えが違うのだから当然ですよね。

日本は女性議員が少ないため、私は女性議員が増えてほしいと思っています。なので、これまでは、「女性の中で一番考えが近い人」といった選び方や、そもそも候補者に女性がいない場合は、大事にしたい分野の意見が一致している人を選ぶなどしてきました。「この人はちょっと応援できないな……」と思う人の対抗の候補に投票するという選択をしたこともあります。

意外と重い「一票」

「意味がないので投票に行かない」「自分の一票で変わると思えない」とおっしゃる方もいます。

本書では、1つの選挙区から1人を選ぶ場合を例に、100人中50人しか投票しない場合、26人以上という全体の3割に満たない数の支持を得れば当選できること、候補者が3人以上いれば、さらに少ない支持数で決まることが説明されています。

<低い投票率の状況から、これまで投票を棄権していた人が投票し始めると、結果が大きく変わる可能性があります>との言及もあります。

最近の国政選挙の投票率は50%台(たとえば、2022年参議院選挙:52.05%、2021年衆議院選挙:55.93% ※1)であるため、例と同じように、全体のうちの一部の意見で政治家が選ばれている状態です。投票に行かないことは「変わる可能性を捨ててしまっている」とも捉えられると思います。

「自分が投票した人が当選しないと意味がない」という意見も聞いたことがありますが、果たして本当に意味がないのでしょうか?当選した人以外に投票したことは「その人の主張を支持する人がこれだけいる」と示すことになると私は考えています。それは選挙の後、日々の政治にも影響が出てくる可能性もあるのではないでしょうか。

本書から少し離れますが、国政選挙や自治体の首長選挙で数百票差だったり、市区町村議会選挙では、当落の境界線が数十票や十票未満のこともあります。たとえば、2023年の千葉県の銚子市議会議員選挙は当落の差が一票でした(※2)。こうやって見ると、一票の重さを感じませんか?

世界との比較で理解を深められる

本書はさまざまな項目で、世界との比較が見られる点もオススメです。

たとえば、教育にどのくらい税金が使われているか。日本の教育支出は、2010年以降増加傾向にあるものの、先進国の中で決して多いほうではないこと、日本は海外と比較し、家計から支出する教育費が多いと書かれています。

これに関して、貧困の解説ページにあった「貧困の再生産」との関係を考えました。貧困の再生産とは、親の収入が少ないことで、教育費の捻出が難しくなり、子どもに教育格差が生じ、進学や就職にも影響が出て、結果収入が低くなる。そして、その子どもも親と同じような道から抜け出せず、貧困になるという負のループが起きることです。

私自身、教育に関しては親からお金を出してもらえたため、最近まで貧困と教育格差の問題は見えていませんでした。私には子どもがいませんが、どの子どもも十分な学びの機会を得られるよう、そして世界と比較した日本の状況も踏まえて、もっと公的に支える仕組みがあった方がいいのではという考えを持っています。

世界との比較は他の項目にもあり、日本で当たり前のことが海外では当たり前ではないことや、日本の優れているところ、反対に課題となっていることが見えてきます。新しい視点を持つことができ、社会や時事ニュースの見方が変わることからも、大人にも勧めたい一冊です。

※1:https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/index.html

※2:https://www.city.choshi.chiba.jp/shisei/page220007_00003.html

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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