「自分には価値がないと思った」国民的シェフ、ジェイミー・オリヴァーが自身の学習障害について告白
イギリスの人気シェフで、日本でも料理本やテレビ番組を通じて知られるジェイミー・オリヴァー(50歳)が、自身のディスレクシア(読み書き障害)との闘いについて赤裸々に語り、大きな反響を呼んでいる。カジュアルでオシャレな料理スタイルで日本でも高い人気を誇るジェイミーだが、その裏には長年にわたる学びの苦しみや劣等感が隠されていた。
苦しみの正体がわからず、辛かった日々
ジェイミー・オリバーは、6月9日にイギリスのChannel 4で放送されたドキュメンタリー番組「Jamie’s Dyslexia Revolution(ジェイミーのディスレクシア革命)」で、自らのディスレクシアの体験を語り、今の教育現場に必要な改革を訴えた。この番組を作るにあたり、ジェイミーは「心の奥底を引き裂かれるような感覚だった」と語っている。英紙『サンデー・タイムズ』の取材では、「僕はこれまでたくさんのことをやってきたけれど、このドキュメンタリーが人生で一番つらかった」と吐露した。「若い頃に自分には『価値がない』と思う感覚は今も心に突き刺さる」と涙ながらに語る場面もあった。
ジェイミーが「ディスレクシア」と診断されたのは、なんと今年2025年の1月のこと。これまで長い間、苦しみの正体もわからず、ただ「自分はバカなんだ」と思い込んで生きてきたという。
「授業が理解できない。でも誰にも言えなかった」
学校では「バカ」「出来損ない」と呼ばれ、深く傷ついた。しかし、それを親や先生に打ち明けることはなかった。「全部心の中にしまい込んだ」とジェイミーは振り返る。当時はディスレクシアに対する理解も乏しく、試験の際に時間延長や特別なサポートもなく、わずかに個別指導があった程度。「当時の教育には、ディスレクシアに関する知識なんてほとんどなかった」と語る。「授業が始まるとすぐに、みんなに置いて行かれる。僕だけが理解できていない。教科書を読むのが怖かった。単語がバラバラに見えて、文字が踊っているように感じた。」そんな毎日のなかで、「自分は頭が悪い」「役に立たない人間だ」と思い込むようになってしまった。
「キッチンが僕を救ってくれた」
そんな彼を救ったのが、家族が経営していたパブのキッチンだった。文字は苦手でも、料理なら感覚で覚えられる。手を動かせば誰よりも速く、誰よりもおいしい料理が作れる。それがジェイミーの“初めての成功体験”となり、自信を取り戻すきっかけとなった。そこで初めて「自分には価値がある」と感じることができたという。「料理をするときだけは、自分の頭がちゃんと働く感覚があった。『僕は何もできない人間じゃない』と思えた唯一の場所だった。」ジェイミーはわずか2つのGCSE(日本の中学卒業資格相当)しか取得できなかったが、その後料理の世界で成功をつかみ、日本でもレシピ本が翻訳出版されるなど、知名度の高いシェフとして名を馳せるようになった。
「早期発見と教師への支援が必要」
今回のドキュメンタリー制作を通してジェイミーが強く感じたのは、「教育の現場がまだまだ変わらなければならない」ということだった。「教師へのリスペクトは本当に大きい。だけど今の教師たちには、ディスレクシアや発達障害に関する十分な訓練が与えられていない。2〜3年の教員養成課程の中で、神経多様性に割かれるのはたった半日程度なんだ。」ジェイミーは、すべての子どもたちが早い段階でディスレクシアのスクリーニング(検査)を受けられる仕組みの導入と、教師への研修制度の拡充を求めている。
「料理がなければ、僕は間違いなく間違った道に進んでいたと思う。統計を見れば、進路が見つからないディスレクシアの子どもたちの多くが、非行に走りやすいってわかるからね。」実際、イギリス政府の2021年の報告によれば、刑務所に収監されている人の約半数が学習障害を抱えているとされている。また、教育省によるとイギリスのクラスの約4人に1人が「特別な教育的支援(SEN)」を必要としており、ディスレクシアもそのひとつだという。
ジェイミーがこうして過去の傷をさらけ出す決意をしたのも、「今まさに苦しんでいる子どもや親に向けて発信したい」という思いがあったからだ。「僕はもう50歳だけれど、今になってようやく自分の過去と向き合えた。これからの子どもたちには、そんなに長い時間をかけて苦しんでほしくない。」そして最後にこうも語っている。「僕は教師たちにもっと力を与えたいんだ。彼らは子どもたちの未来を変えられる存在だから。」世界中にファンを持つジェイミー・オリヴァーの挑戦は、これからも続く。
出典:
Jamie Oliver says he ‘might have ended up in jail’ due to dyslexia
Jamie Oliver: ‘Our education system is failing dyslexic and neurodiverse kids – they’re slipping through the cracks’
Jamie Oliver reveals recent diagnoses in his “neurodiverse family” as he embarks on a mission to get better support
Jamie Oliver says dyslexia made him feel ‘worthless’ at school as he discusses condition in new documentary
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