アメリカ:6月は男性の健康月間|男性がこころの健康を話したがらないのはなぜ?
アメリカで広がるメンタルヘルスの啓蒙活動。6月は男性の健康月間ということで、男性のメンタルヘルスの問題に焦点を当てます
近年日本でも「メンタルヘルス」という言葉が一般的に使われるようになってきました。こころの健康=メンタルヘルス問題への認識、関心、理解が少しずつ高まりつつあります。
世界精神保健連盟(WFMH:World Federation for Mental Health)が定めた10月10日の「世界メンタルヘルスデー」(WMHD:World Mental Health Day)が日本では一般的に認識され、多くの啓蒙イベントが10月に行われます。
一方、アメリカでは、10月に加え歴史的には毎年5月が「メンタルヘルス啓発月間」( MHAM:Mental Health Awareness Month)と定められていて、広く認識されています。1949年に始まった76年の歴史がある取り組みで、全米メンタルヘルス協会(MHA:Mental Health America, )が中心となって推進しています。
6月は「男性」に特化した健康月間
当サイトでは、「5月はアメリカでメンタルヘルス啓発月間──この機会に一度立ち止まり、心の健康を見直してみる?」という記事を掲載しましたが、アメリカでは翌6月も関連月間に指定されています。具体的には男性特有のメンタルヘルスの課題について意識を高める月間、男性の健康月間です。
日本もアメリカも、男性の健康と言えば身体的なトピックス(フィットネス、健康診断や人間ドック、糖尿病など具体的な病気など)に重点が置かれたり関心が寄せられたりすることが多いですが、こころの健康も大切な要素です。
ちなみにアメリカで毎年6月が男性を対象にした健康啓発月間とされるようになったのは1992年以降で、歴史的にはそう長くありません。なぜ6月になったのか調べてみても明確な記録や理由が見つかりませんでしたが、おそらく父の日がある月であることが背景の一つにありそうです(Men's Health Week=男性の健康週間も設けられていて今年は6月9〜15日)。さらに5月のメンタルヘルス啓発月間に続くフォローアップ的な役割として、男性の健康月間が設けられ、男性のメンタルヘルスに注目してもらおうという意図があるのかもしれません。
6月の全米男性健康月間について、イリノイ州中央管理サービス局(Illinois Department of Central Management Services)の資料にはこのように書かれています。
June is National Men’s Health Month, the perfect time to be aware and open about a subject that many guys would rather not talk about. Yet, that’s precisely why there is a silent epidemic in this country, and it’s probably impacting your family, co-workers, teachers, community members or friends.
6月は全米男性健康月間です。(男性のメンタルヘルス問題が)この国で静かなるエピデミック(流行病、病気の蔓延)となっていて、おそらくあなたの家族、同僚、先生、地域社会の人々、あるいは友人にも影響を与えているでしょう。よって多くの男性があまり話したがらないテーマについて意識を高め、オープンに話し合う絶好の機会です。
男性は病院嫌い?
イリノイ州中央管理サービス局の資料によると、アメリカでは近年、男性のうつ病と自殺率が急増しているそうです。
同局によると、全米で毎年約600万人以上[1]の男性がうつ病を発症しているとみられます。米国自殺予防財団(AFSP:American Foundation for Suicide Prevention)の資料をもとにした同局の報告では、男性の自殺率は女性の約4倍多く、特に20~24歳の若年層では男性の自殺率は女性の5倍も多いといいます。
にもかかわらず、男性は(アメリカではより一般的である)セラピーを積極的に受ける傾向にない、乏しいとも言われています。これは、社会的に非難されることへの恐れや文化的な背景が、男性のメンタルヘルス問題の支援を求めることを阻む主な障壁となっていそうです。
ブラトルボロ記念病院(バーモント州)の資料にも、「男性は(女性より)病院に行くことを躊躇する傾向がある」とあります。男性特有の健康問題(前立腺がんなど)はあれど、男女が直面する可能性のある健康問題はほぼ同じです(心臓病、糖尿病など)。しかし、女性は男性の2倍の頻度で通院し、男性は病院に行くことをより躊躇する傾向があるそうです。
男性のメンタルヘルス問題
前述通り、男性は女性と比較すると病院に行くことをより躊躇する傾向にあり、精神疾患の診療も受けず、また、受診したとしても治療を求めることが少ないそうです。
なぜ男性は精神疾患の治療や必要な受診をしないのでしょうか?
専門機関の資料からいくつか見えてくるものがあります。男性は時に「メンタルヘルス・リテラシー」と呼ばれるもの、つまり感情を認識して説明する能力に欠けており、自分の気持ちを表現することがうまくないと言われます。そのため、メンタルヘルス問題を抱えている男性は、症状を軽視したり、自分が直面している問題を認めなかったり、必要な助けを求めることをためらったりして、メンタルヘルスのケアを受けない傾向があるようです。実際には、苦しんでいる人の半数ほどしかケアを受けていないのではないかと見られています。
アメリカ社会にもある「男たるもの」
ほかに「偏見」や「性別に関する社会規範」(社会で「こうあるべき」とされている性別の役割や行動ルール。例えば「男らしさ」や「女らしさ」など)が、特に若い男性に「男たるもの精神的に強くあるべき」と考えさせたり、「弱さを見せたり他人に助けを求めたりすべきではない」と考えさせたりしていると言えそうです。
依然としてアメリカ社会にも根強くあるこれらの「男性は強くあるべき」という社会の共通認識により、男性が「弱く見られる」ことを恐れ、自分の感情を認識するのを難しくしているとも言えそうです。うつ病や不安症を「よくある普通のストレス」と誤解し、辛い感情は自分で対処できるはずと考え、専門家に頼ったり自分の本当の気持ちや感情を打ち明けるのをためらったり抵抗を見せたりするのでしょう。
メンタルヘルスの問題を抱えている人やその家族ら身近な人に対して、本稿で参照した専門機関(ニューポート研究所など)は、専門家に相談して支援を受けることを推奨しています。
参考文献:
Illinois Department of Central Management Services
NAMI (National Alliance on Mental Illness)
Newport Institute
Brattleboro Memorial Hospital
[1]
正確な人数を特定するのは難しいが、いくつかの信頼できるデータから推計した数
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