5月はアメリカでメンタルヘルス啓発月間──この機会に一度立ち止まり、心の健康を見直してみる?
"メンタルヘルス大国"とも言われるアメリカでの「メンタルヘルス啓蒙の歩み」を振り返ります。
日本でも認知されつつある「メンタルヘルス」という言葉
近年、日本でも「メンタルヘルス」という言葉が一般的に使われるようになり、人々の認識やメンタルヘルス問題への認識や理解が少しずつ高まりつつあるのではないでしょうか。
啓蒙イベントが日本で活発に行われているのは毎年10月です。世界精神保健連盟(World Federation for Mental Health: WFMH)が定めた10月10日の「世界メンタルヘルスデー」(World Mental Health Day: WMHD)が、日本では主流のイベントとして認識されています。
WFMHがメンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的に、この記念日をスタートさせたのは1992年10月10日のこと。以降、毎年この日を世界メンタルヘルスデーと定め、人々にこの問題への対処のためのきっかけ作りを提供しています。
日本の厚生労働省のウェブサイトにも以下のように紹介されています。
アメリカで啓発月間が始まったのは76年前
アメリカではこれに加えて毎年5月をメンタルヘルス啓発月間(Mental Health Awareness Month)と設定し、各地で啓蒙イベントが行われています。
【NYエリアでの各イベント:一例】
NYCCC 7th Annual Children's Mental Health Symposium(*イベント終了)
NAMIWalks NYC + Mental Health Street Fest
そもそもアメリカで毎年5月をメンタルヘルスの啓発月間に制定したのは、非営利団体メンタルヘルス・アメリカ(Mental Health America: MHA)の前身の機関です。WMHDよりはるかに早い1949年に遡ります。
MHAの前身である全米精神衛生協会(National Mental Health Association : NMHA)という団体がメンタルヘルスの啓発月間を最初に設立しました。
米啓発運動の先駆者は自らの体験をもとに
アメリカのメンタルヘルス啓発運動を語る上で欠かせない人物がいます。啓発運動の先駆者である、クリフォード・ウィッティンガム・ビアーズ(Clifford Whittingham Beers)氏です。
MHAが公開している情報によると、ビアーズ氏は名門イェール大学(コネチカット州)を卒業し、ニューヨークのウォール街で金融マンとして働くなどもともと優秀な若者でした。しかし兄の病気と死をきっかけに精神疾患(双極性障害)を発症し、ビルの3階から飛び降り自殺を図りました。彼は重傷を負いながらもなんとか一命を取り留め、コネチカット州の病院を転々としながら、3年間にわたる入院治療生活を送りました。
その間、彼は治療のための専門機関であるはずの精神科病院で、介護者による虐待や非人道的な扱いを目の当たりにし、自らも被害を受けたというのです。当時、精神疾患患者が受けていた残酷な行いと自らの実体験から、ビアーズ氏は社会を改革する必要性を実感し、立ち上がって改革への一歩を踏み出しました。それが後にこの国でのメンタルヘルスの啓蒙に繋がったとされています。
ビアーズ氏が専門機関を設立したのは20世紀初頭に遡ります。1908年、彼は「コネチカット精神衛生協会」(Connecticut Society for Mental Hygiene、現Mental Health Connecticut)を設立。 同年には自叙伝『A Mind That Found Itself』を出版し、彼が入院中に受けた体験を綴りました。この本はベストセラーとなり、100年以上経った現在でも書籍として販売されています。
その翌年の2月19日、彼は仲間と共にNMHA: 現MHAの前身である全米精神衛生委員会(National Committee for Mental Hygiene)を設立し、メンタルイル(精神疾患、精神的不健康、こころの病にかかっている)患者のために立ち向かったのです。亡くなる4年前の1939年に引退するまで、彼はこの分野の先駆者として啓発活動に生涯を捧げました。
*後編に続きます
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