"科学的な人"がスピリチュアルな代替医療にハマる理由を考える
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
何らかの病気になった際、西洋医学や現代医学に失望し、代替医療にハマる人は少なくない。アロマテラピーや整体、手かざし療法、マッサージ、鍼灸などの代替医療が実際に自分の体に合っていて、快方に向かうケースもあるだろう。
しかし、根拠のない診断や治療に翻弄され、症状が悪化してしまうケースも少なくない。スピリチュアルな代替医療にハマり、病気の進行を止めるチャンスを失ってしまう人もいる。
代替医療にハマる人は、普段からスピリチュアル好きだったり、西洋医学に不信感を抱いたりしている人だけではない。スピリチュアルとは縁がなく、論理的で科学的な人であっても、いざとなったら代替医療に惹きつけられる場合もあるのだ。
「客観」「科学」を重視した東大院卒のコンサル女性が代替医療に惹かれた経緯
『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)の著者で組織開発を支援する会社を経営する勅使河原真衣さんは、科学や論理を重視する人だが、出産を機に代替医療に惹かれていったという。
きっかけは乳腺炎だ。乳房内に分泌過多な母乳がたまり、乳房が硬く肥大化、熱を持って炎症を起こしてしまった。最初に助けを求めたのは大学病院の母乳外来だ。乳腺炎は勅使河原さんにとって一大事だったが、「お産が長引いたから」などの理由で3時間待ちということがザラにあった。3時間待っても診療は5分程度。知りたいことは山盛りにあったのに、時間は限られていた。
勅使河原さんは満足のいく答えを求めて、母乳トラブル対応のみを専門とする母乳マッサージ専門の助産師を訪ねた。助産師を信じて産後3ヶ月毎日通い続けたが依然としてトラブル続きだった。助産師は「あんたのおっぱいは左ばっかり詰まるでしょ? それはね、左の卵巣が悪いからなのよ。卵巣をよくしないとだめ」と言う。卵巣とおっぱいになんの関係があるのかは不明だが、勅使河原さんは「もっと“答え”を持っている人が他にいるのかも?」と思い始めるのだった。
悩める勅使河原さんに、友人は一人の整体師を紹介する。整体師はこれまでの経緯をじっくり2時間かけて聞いてくれた。その後、治療と称してお腹に手をかざしながら、家族についていろいろ尋ねてくる。「確かに卵巣も悪いんですが、婦人科系のトラブルは母親との確執の表れることが多いです。お母さんとの関係を良くしない限り繰り返しますね。でも、今日できる限りそうした悲しみや怒りを含め、“解毒”したので、身体が軽いはずですよ」。2時間横たわって話を聞いてもらえたからか、確かに少し身体が軽い気がした。大学病院でも国家資格の助産師でも解決できなかった問題を、原因から断言する女神に出会えたのだ。すっかり虜になった勅使河原さんは、一回一万円の施術に通うことになる。
一年ほど通ったある日、乳腺炎にしてはいつも同じ位置に固いしこりがあると気がつき、スピリチュアル整体師に「これ、乳がんってことはないですよね?」と恐る恐る尋ねた。すると彼女は、0.1秒ほどで「違う、それは老廃物」と即答するのだった。
しばらくの後、整体師の“解毒”後に炎症が起きたため、久々に乳腺科を訪れ、各種検査を経て乳がんが発覚する。すでに18ヶ所に転移しており、「早期発見とは残念ながら言えません。お子さんも小さいし、一刻も早く頑張りましょう」と言われてしまうのだった。その後、本格的な治療がスタートし、現在は治療を続けながら精力的に仕事を行っている。
“もやもや”や葛藤を消したい。「私」に寄り添ってほしい
勅使河原さんは、自身が代替医療に惹かれた理由を「自分が窮地に立たされると簡単に断定の潔さを盲信してしまう。科学であろうとなかろうと、つらければつらいほど、より早く、よりすっぱりと断言をもらい、葛藤を終わらせたいと思ってしまう」と振り返る。
また、勅使河原さんが仕事上、客観的事実や科学を最重要してきたこともスピリチュアル整体師に惹かれた一因だという。常に「客観的であれ」「滅私せよ」の姿勢でいたため、大切にすべき“私”が置き去りになり、病気になって追い詰められた時、エビデンス度外視でも“私”に寄り添い、“私”について語ってくれる人に心を寄せてしまったのだ。
病院では、これまでの事例を科学的に教えてくれ、エビデンスに基づいた話をしてくれる。しかし、それは勅使河原さん個人の話ではない。非科学的なスピリチュアル整体師だけが勅使河原さん個人の話を聞き、しっかりケアしてくれた、とも言えるだろう。
断言に気をつける。そして“もやもや”とともに生きる
私たち人間は平常時でも「わかりやすさ」「断言してくれる人」「“私”についてはっきり語ってくれる人」に惹かれがちだ。物事が複雑になったり、精神的に弱っていたりする時、その欲望は加速する。
占いも、断言の一つの形だろう。「あなたの運勢は〇〇です」と言い切られることや“私”について語ってもらえることは快感だ。占いなどを利用して、ズバリと言ってもらうことの快感を享受するのは何も問題がない。しかし、わかりやすさを求めすぎると、取りこぼすことも多いと意識しておく必要があるだろう。
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