「少子化の原因は女性の社会進出と高学歴化だ」と言うことで見えなくなるものとは何か

 「少子化の原因は女性の社会進出と高学歴化だ」と言うことで見えなくなるものとは何か
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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少子化はここ数年、日本において社会問題のひとつだと言われている。実際、日本の合計特殊出生率は1970年代のベビーブーム時には2程度だったものが、2022年には、1.26とOECD平均の1.51を下回る結果となった。

なぜ、50年もの間、出生率は下がり続けているのだろうか? 

「少子化の原因は女性の社会進出と高学歴化だ」と言うことで見えなくなるもの

少子化の原因として、よく話題に上がるのが、女性の社会進出や高学歴化だが、そういった言説は問題を単純にし過ぎている。

実際、女性が教育を受け、「My body My Choice」(自分の体については自分で決める権利がある)と学んだり、「必ずしも母親になる必要はない」という概念を学んだりしたことで、出産を選択しないケースもあるだろう。また、女性が自活できる仕事を得たことで、結婚及び出産が生きるための手段では無くなったことも大きい。

しかし、当然ながら現在の少子化の加速は、女性の社会進出や高学歴化によって、女性自身が出産を望まなくなったから、という理由だけでは説明できない。

少子化の原因は、長期に渡る経済的低迷、大学の学費の高騰、税負担の増加、子育てによる生涯賃金の大幅な低下やキャリアの断絶、子育て世代や妊婦に向けられる厳しい目を含む育てにくい環境などが複合的に絡み合っている。それにより、「育てやすい社会なら、あるいはお金に余裕があれば子供を持ちたいけれど、今の状況では持てない」と判断する夫婦も少なくないのだ。

「少子化の原因は女性の社会進出や高学歴化」という単純化は、女性のみに少子化の原因を押し付け、社会問題を透明化する、危険な言説だと言えるだろう。

また、「少子化の原因は女性の社会進出や高学歴化」という言説は、「女が産まないから問題が起きているのだ」のマイルドな言い換えである場合も多い。少子化を解決したいなら、このように女性に責任を押し付け罪悪感を植え付けようとする言説からは距離を取り、社会の側を産み育てやすい方へと変えていく必要があるだろう。

OECD最低の出生率。出生率が「1」を切る現代の韓国の事情

ところで、少子化は日本だけの問題ではない。お隣の国、韓国の合計特殊出生率はさらに低く、2023年にはOECDで最も低い0.72を記録した。なぜ韓国では、このように出生率が低下しているのだろうか? 

記者のチェ・ジウン著『ママにはならないことにしました』(オ・ヨンア訳/晶文社)は、韓国で自分の意思で子供を産まないことを決めた女性17人にインタビューした記録を元に書かれた一冊だ。著者自身も、いわゆるDINKS(ダブル・インカム・ノー・キッズ。子供のいない共働き夫婦)であり、ママにならないことを選択した女性だ。

彼女たちが子供を持たない選択をした理由は多種多様だ。ある女性は、「妊娠が女性の体にとってどれほど危険なことか、それを知ってからは、私はできないと思いました」と率直な思いを語る。妊娠・出産は命懸けの行為であり、命を失う危険性や、無事に出産した場合でも、さまざまな変化や後遺症に苦しむ可能性がある。その事実を知ったあと、それでも産みたいと思うかどうかは、人それぞれだろう。

またある女性は「子供というその巨大な不確実性に耐えられない。まずその子がどんな子なのかわからないと言うのがめちゃくちゃ怖い」から子供は持たないという。実際、生まれてくるまで、その子がどんな子か、どれだけ手がかかるのか、どのように育つのかは未知数であり、子を産むのはある種ギャンブルに近い行為だ。そういった不確実性ゆえに、子供を持ちたいと思えないと考える人は日本にもいるだろう。

このほかにも、母にならないことを選ぶ背景には、子育てをしながら続けられる職場環境が整っていないことや、母になったからには子供に尽くさなければならないという女性のみに育児負担が偏っている性別役割ゆえのプレッシャー、などさまざまな要因が挙げられている。

ママになりたくない女性が増えるワケ

チェ・ジウンは、以下の文で本書を締め括っている。

女性を出産の道具と捉え、子供を産んだ女性にはいつまでも罪悪感を抱かせて不利益を与える社会で、ママになりたくない女性が増えるのは当然の結果である。もしかしたら、韓国でママになることが何を意味するのか気づけば気づくほど出産から遠のいていくママになるかもしれない人たちもいるはずだ。深刻なミソジニー社会で出産はもちろん、恋愛や結婚そのものを拒否する4非(非恋愛、非セックス、非婚、非出産)世代まで登場している以上、出生率はさらに急速に下がっていくのではないだろうか? 女性が人間として尊重されず、弱者が平等な権利を享受できない社会なら、私たちが想像する以上に、もっと早く消滅するかもしれない

日本では、4非という言葉は耳馴染みがないかもしれない。4非は、性差別的な社会において、女性が恋愛、セックス、結婚、出産をすることは、家父長制維持につながるとし、それら全てを拒否する概念のことだ。10代、20代の若い女性を中心に広まっており、ちょっとしたムーブメントになっている。性差別や性別役割分業への拒否感も、少子化の一因になっているのだろう。

日本では、4非ムーブメントは起こっていないし、起こる気配もない。しかし、“女性を出産の道具と捉え、子供を産んだ女性にはいつまでも罪悪感を抱かせて不利益を与える社会で、ママになりたくない女性が増えるのは当然の結果である”という著者の言葉は、日本においても当てはまる指摘ではないだろうか。

私たちは、今の日本で、子育て中のママがいかに肩身狭そうに生活しているか、どれほどの悪意に晒されているか、労働現場で足元を見られ、安く買い叩かれているかを日々耳にし、目にしている。それを見た若い女性が、「ああはなりたくない」と思うのも自然な流れだろう。

むしろ、そういった大人を見た上で、「それでも出産・子育てしたい」と思えることこそ、奇跡的なことなのかもしれない。

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