「30歳で子宮摘出」「一夫多妻制導入」少子化対策で失言が続くのはナゼ?
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
2024年11月8日、日本保守党の党首で小説家の百田尚樹氏が自身のYouTube番組『ニュース生祖放送あさ8時!』で少子化対策について触れ、炎上した。
女性蔑視・女性軽視が透けて見える“SF的”少子化対策
百田氏は、少子化を生み出している社会構造を変えるためには思い切った対策が必要であるとし、「これはええ言うてるんちゃうで」「小説家のSFと考えてください」と前置きした上で、「女性は18歳から大学に行かさないとか」「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない法律にするとか」「30超えたら、子宮を摘出するとか」と私見を述べた。
百田氏の発言はさまざまな面で問題がある。ひとつには、少子化という社会問題を女性側の責任だと考えている点において、問題があるだろう。少子化は、経済格差が拡大しており経済的に厳しい家庭が増えているとか、保育や教育の公共サービスが充実していないとか、女性に家事育児の負担が偏っており子育てと仕事の両立が難しい等の様々な諸問題が複雑に絡み合って生まれた問題だ。一因は政策の失敗や男女賃金格差であるにも関わらず、「女性側の自由を制限すれば少子化解決」と安易に考えている点で、政治家としての資質に欠けていると言わざるをえないだろう。また、言うまでもなく、女性の人権を軽視しているという面でも大問題だ。
しかし、少子化問題を解決するためなら女性の人権を軽視していいと考える政治家は百田氏だけではない。記憶に新しいのは、2024年7月、石丸伸二氏がテレビ番組で少子化の解決策を尋ねられた際「実現不可能」と前置きした上で「一夫多妻制とか」と述べ、炎上した事件だ。
百田氏と石丸氏に共通しているのは、「SFだから」「実現不可能」と逃げ道を用意しながら自身の女性蔑視の思想を開陳している点だ。現在は男性でも加齢によって健康な子供を授かる確率が下がっていくことが知られているが、彼らは決っして「30歳を超えた男性の睾丸を摘出する手術をするとか。SFですけどね」とは言わないのだ。
彼らはなぜ、大衆の支持を必要とする公人にも関わらず、女性蔑視の発言を堂々と、公共の場所ですることができるのだろうか?
一因は、彼らが女性の人権や自由意志よりも、経済成長が優先されるべきだと信じているからだろう。
資本主義は女性をできるだけ安く“活用”しようとした
『資本主義の次に来る世界』(ジェイソン・ヒッケル著/野中香方子訳 東洋経済)では、資本主義に基づいて経済成長を重視する政策において、女性や労働者が、搾取されやすい構造を指摘している。
本書曰く、経済成長のため、利益を生み出すために、資本主義が始まった当初、資本家は「自然」をできるだけ安く、理想としては、無料で利用しようと企てたのだという。
ここでいう「自然」とは、自然環境のことであると同時に、植民地や、女性のことでもある。
資本主義の黎明期、資本家は労働者(主に男性)にわずかな賃金を支払ったが、再生産労働者、すなわち、食事を作り、病気の時は看病をし、次世代の労働者を産み育てる女性には賃金を支払わなかった。実のところ、今日まで続く専業主婦という形態を最初に作り出したのは、資本家による囲い込みであり、それによって女性は生計の手段からだけではなく、賃金労働からも切り離され、出産の役割に閉じ込められたのだという。
この新しくできたばかりの資本主義システムにおいて、多数の女性が、実質的に間接的に無料で資本家・支配階級に労働力を利用されたのだ。女性は男性より「自然」に近い存在とみなされ、そのため、その地位に相応しく扱われ、従属させられ、支配され、搾取された。女性は「自然」というカテゴリーに押し込まれた他の全てと同じく、報酬は不要だとみなされたのだ。何しろ、男性(賃金労働者)のためにお世話をしたり、次世代の労働者を産み育てたりすることは、女性にとって「自然」なことなのだから、と。
つまり、経済成長を最優先にする資本主義は、女性を「自然化」することで、安く、時には無料で活用する流れを作り出した、というわけだ。
経済成長を求めるために少子化の解消を望む百田氏や石丸氏が、女性の人権を無視してできるだけ安く活用するというSF的発想に行き着いたのも、資本主義システムに則って考えれば、突飛なことではない、と言えるだろう。
少子化が解消して、幸せになるのは誰?
考えなければならないのは、百田氏や石丸氏のSF的発想に従って合計特殊出生率が改善したり、それにより労働者が増えて経済成長したり、GDPが上向いたりしたとして、誰が、何を得られるのか、という点だ。
少子化が社会問題、と言われているが少子化問題が解消したのちに、どんな世界が待っているのだろうか?
子供が増えれば労働者だけでなく消費者も増える。消費が増え、資本家は今よりも儲かるだろう。GDPも増えるはずだ。
しかし、国全体の経済状態が改善しても、それだけで貧しい人が豊かになることはない。トリクルダウン(富裕層及び大企業を優遇する経済政策を実施することで、結果的に富が低所得層に波及し、国民全体が豊かになるとするイデオロギー)は現実には起こらなかった。経済格差はますます広がるはずだ。
現在、日本の政治家の多くは、経済を維持、成長させるために、女性に子供を産むことを奨励している。しかし、現時点で、日本のシングルマザーの貧困率は先進国の中で突出して高く、二人の一人は貧困ライン以下の生活をしている。これは最近の兆候ではなく、もう何十年も続いている社会問題だが、改善されることなく、放置されている。少子化は大問題だが、女性の貧困はたいした問題ではないらしい。
いったい誰の幸せのために、子供を産むことが推奨されているのだろうか?
「30歳を超えたら子宮を摘出するとか」という言葉は、少なくとも女性の幸せのために推奨しているわけではないらしい、と教えてくれたという意味で、とても示唆的な言葉だった。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く