少子化は国の責任。だけど国はなぜか私たちを"脅迫"し続けている?「共同親権」の持つ危険性を考える

 少子化は国の責任。だけど国はなぜか私たちを"脅迫"し続けている?「共同親権」の持つ危険性を考える
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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弁護士で作家のチョン・ソヨンによるエッセイ集『#発言する女性として生きるということ』(李聖和訳 CUON)に『少子化は国の責任』というチャプターがある。ここで、著者は、少子化は国の責任であり、国が責任を果たしていないのだから、子どもは産まないと明言している。

社会的、経済的、身体的リスクの高すぎる国で、「子どもなんて産んでたまるか」

ここ数10年、韓国社会では出生率の低下が著しい。国は多額の費用を投じ、様々な対策を講じているが、出生率は依然として上昇しない。なぜなら、今日、女性が出産をした場合、キャリアの断絶を強いられ、社会的に孤立し、良質な雇用から排除されることが、言うに及ばぬ事実だからだ。弁護士という高度な教育が必要な専門職であっても、仕事を続けられなくなるケースは多く、チョン・ソヨンの周りの多くの女性たちは出産を機に、弁護士としてのキャリアを中断あるいは、捨てざるを得なくなったという。

韓国社会では、国が生むことを推奨しているにも関わらず、国も社会も子育てする人や乳幼児に対して優しいわけではない。騒音を発する可能性のある子どもに対して冷たい目線を向ける大人は多いし、ベビーカーを邪魔な異物扱いする人もいる。著者によると、こういった状況に対し、国は少子化対策として有効な対策を打たず、ただひたすら「脅迫」しているにすぎないという。「出生率が下がり続けば福祉システムが崩壊し、国の経済成長が鈍化する。そんなことにならないように、女性は子どもを産むべきだ。子どもを望まないなんて自己中心的な考えだ」と国は喧伝している。しかし、そんな脅しが通じなくなっているのは、下がり続ける出生率を見れば明らかだ。

著者は、「この国で子どもなんて産んでたまるか」と率直な胸のうちを語っている。韓国社会では、出産後は周囲から冷たい目で見られ、キャリアが断絶されて生涯賃金が下がるという、まるで出産が罰ゲームのような状態だというのだ。

過去最低の出生率。離婚後は二分の一の確立で貧困家庭になるというリスク

低い出生率と少子化という問題は日本も他人事ではない。2023年の合計特殊出生率は1.26で過去最低を記録している。

子どもを産まない女性が増えている原因は様々だが、ひとつには、出産によるリスクが高すぎるという点にあるだろう。日本は、先進国ではずば抜けてシングルマザーの貧困率が高い国であり、ふたりにひとりが貧困ライン以下の生活を余儀なくされている。男女の賃金格差も高いため、女性がひとりで子育てをするのが難しい状態なのだ。現在、離婚は珍しくなくなり、また、女性の約4人にひとりがモラハラなどを含むDVを受けている。離婚の確立が高く、離婚後は二分の一の確率で貧困に陥るとなれば、出産を躊躇する人が増えるのも自然なことだろう。

離婚後の共同親権は、暴力からすぐに逃げ出すことを不可能にする法律

出産は現在でも女性にとってリスクのある行為だが、さらにリスクがアップする法案が先日、衆議院本会議で可決された。離婚後も母親と父親が子どもの親権を持つ「共同親権」だ。

共同親権は、いっけん、離婚後も両親が協力して子育てできる、子どもにとって喜ばしい法律に見える。しかし、実態はそうではない。共同親権の問題は様々にある。ここでふたつ問題点を上げておくと、「養育費の支払いとセットではない」点と、「DV被害者が逃げられなくなる」点だ。

諸外国で共同親権を導入している国は、通常、養育費の支払いが義務付けられており、支払わない場合、国が強制的に財産を差し押さえる。しかし、日本の場合、養育費の支払いに関して法律が整備されておらず、7割以上が支払っていない。

共同親権は、名目上、DV加害者の場合、親権は与えられないとなっているが、DV被害者が被害を照明しなければならない。たとえば、「殴られたから子どもを連れて逃げた」という場合でも、「殴られたという証拠がない。共同親権のはずなのに子どもを連れて逃げた」とされ、被害者のほうが法律違反をしたとみなされるケースが考えられる。つまり、DV被害者が、実質簡単には逃げられなくなるのだ。

共同親権になれば、転居や進学先の変更は、父母ふたりで行う必要がある。DVを受けて実家に子どもを連れて戻ろうと思っても、加害者の了解を得なければ転居ができない、という状況にもなりかねない。

「DVをした場合は親権は得られなくなるのだから問題ない」わけではない。なぜなら、殴られている最中に証拠を録画できる人は少ないからだ。共同親権は、暴力からすぐに逃げ出すことを不可能にする法律だと言ってもいいだろう。

現在の単独親権であっても、父母の関係が良好であれば、共に子育てをすることはできる。それなのになぜ共同親権を導入しようとするのだろうか? なぜ、養育費の強制徴収を行わないのだろうか? なぜ養育費を支払っていない7割の父親の給料を強制的に徴収しないのか? 

それは、女性がひとりで貧困に陥りながら子育てしている状況を、問題視していないからだ。国は、立証しにくい暴力などの問題があっても、父母ふたりで子育てをすることを望み、強制しようとしている。

共同親権の導入に反対の署名が22万筆を超えるが……

共同親権の導入に反対する署名(※1)は4月18日現在22万筆を超えている。多くの人が、共同親権の持つ危険性に気が付き始めている。もし、このまま共同親権が導入されてしまったら、結婚や出産のリスクはますます上がるだろう。そういった意味で、共同親権の導入は、「異次元の少子化推進対策」だと言えそうだ。

※1:#STOP共同親権 〜両親のハンコなしでは進学も治療も引越しもできない!実質的な離婚禁止制度〜

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原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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