〈女友達のリアル〉なぜ「女同士は競い合うもの」で「女の友情は脆いものだ」と"されてきた"のか
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
「女の友情はハムより薄い」
「女友達はドロドロしているし、マウンティングしあっている」
こういった女同士の関係は、テレビや漫画などのエンタメで頻繁に表象されています。女同士が歪みあったり、バトルしたりする、いわゆるキャットファイトが好きな人は、男女問わず少なくありません。
しかし、なぜ、女同士は競い合うもので、女の友情は脆いものだ、ということになっているのでしょうか?
周りを見渡せば、男同士のマウンティングや嫉妬は珍しくないですし、友達がひとりもいない男性も多い。それにも関わらず、なぜ女性の友情は軽視されるのでしょうか。
今回は、『女友達ってむずかしい?』(クレア・コーエン著 安齋奈津子訳 河出書房新書 現題BFF? The truth about female friendship)を参考に、女友達の実際について考えていきます。
19世紀ごろまで、「友情」は男性のものだと見做されていた
シドニー大学の歴史研究家で『友情:その歴史(Friendship;A hHisutory)』(未訳)の編者であるバーバラ・カイン教授は、友情の歴史について以下のように語っています。
「男性だけのものだという思い込みが、非常に長く続いたんです。友情を築くためには独立していることが条件だけれども、女性は独立できるだけの力も知的能力もないのだと。それほど高い志を持っていない、ともされていました。女性には独立や友情が必要だと思われる論理的な妥当性がなかった、ということなんです」
つまり、女性は男性の従属的な存在であり、友情を築けるほどの知的能力もないし、友情を築く必要性もない、と考えられていたというのです。この状況が変わったのは18世紀に入ってからであり、女性が家庭の外で友達を作り始めたのは19世紀ごろだと言われています。
日本でも「友情は男性にしか築けない」と見做されていた時代がありました。漫画家のよしながふみは『環と周』(集英社)において、明治時代に女学校で出会ったふたりの女性の友情を描いています。女性の夫は、「女(おなご)にも生涯の友がいる。まさしく新時代じゃ」と感慨深く語ります。今でこそ女性に友達がいるのは当たり前のことですが、かつては、「女性には無理だし必要ない」と言われていたわけです。
「女性には男性のようなさっぱりした男の友情は築けない」という言説の源流は、「友情は男性のもの」という男性中心的な価値観だと言えるでしょう。
女性の人生にとって友情よりも恋愛の方が大切?
また、長い間、女性は外で働いてまともな賃金を得ることが難しい時代が続いたことも、女性の友情軽視に拍車をかけています。
男性と結婚することがデフォルトであり、結婚できなければ、行き遅れだと蔑視されたり、貧しい生活を余儀なくされたりする世界において、友情より恋愛や結婚の優先順位が高くなるのは、ある意味自然な流れでしょう。
賃金格差や性別役割分業によって、女性が生存政略として恋愛や結婚に重きを置いた結果、「女の友情なんて男との恋愛に比べたら軽視されても仕方ないもの」と見做されたのです。
今は女性が結婚しなくても生きていける時代ですが、日本はまだまだ男女の賃金格差が大きい国であることは否めません。シングルマザーの半数以上は貧困ライン以下の収入しか得られていないという現実もあります。男性がいないと一般的な水準の生活や子育てができない状況は変わっていないのです。
男女の賃金格差が現存する今、女性は女友達との関係を深くするより、より良い男性を見つけて結婚する方が幸せになれるのでしょうか?
女性は恋愛対象の男性より女性に対して親密さを感じるし、一緒に笑い合える
女友達の価値について考えるに際し、女性が女友達から得る幸せについて、興味深いデータについて見ていきましょう。
進化人類学者のアンナ・マシャン博士は、女性にとって同性間の友情がどんな意味をもたらすのかを長年研究してきました。博士はこの研究を始めてすぐ、あることを発見して驚いたと言います。異性愛者の女性は、恋愛対象の男性を含めた誰よりも、女性の友達に対して感情面で親密さを感じやすく、自分自身を曝け出しやすく、共通点を持ちやすいのだそうです。
つまり、科学的な見地では、恋愛のパートナーは女友達ほど感情的に満たしてくれないし、深く理解してもくれない、ということです。
こういったデータもあります。カリフォルニア大学(UCLA)が2016年に世界各国24箇所で行った調査によると、男性同士のグループや、男女混合のグループに比べて、女性同士のグループが、最も「一緒によく笑う」そうです。
つまり、女性にとって女友達は感情的に満たされて、一緒に笑える貴重な存在だと言えるでしょう。
友達はモルヒネよりもいい。しかし、毒になる友達もいる
さらには、友達付き合いそのものが、心と体の健康にいいということも研究で明らかにされています。
2016年の『タイム』誌で、「友達はモルヒネよりいい」の見出しで紹介された記事によると、友達づきあいは、血圧を下げる、退場が増えるのを防ぐ、免疫力をあげる、心疾患から守る、風邪をひきづらくする、などに役立つと言います。さらには、ストレスレベルを下げ、気分をよくし笑わせてくれるし、幸福感をもたらし身体的な痛みを和らげてくれるエンドルフィンを分泌させるというのです。
友達と会った後に、気分が高揚し、幸せな気分になったり、鬱々とした気分が消え去ったりした経験がある人は多いでしょう。友達は、人生を豊かにしてくれるものです。
ただし、すべての友情が素晴らしいというわけではないでしょう。毒になる恋人や配偶者がいるのと同様、毒になる友達(フレネミー)も存在するはずです。一方的に搾取されているとか、見下されている関係の場合、その関係が恋愛であるか、友情であるかに関わらず、断ち切った方がいいでしょう。
理想の女友達を得る方法
女の友情が軽視されがちなのは、女性蔑視や、家父長的な価値観、男女の賃金格差が原因です。
女性の中には、そういった価値観を内面化した結果、女友達との関係を軽視し、孤立してしまう人もいます。また、女の友情を軽視していない場合でも、環境の変化などによって、女友達を失ってしまった人もいるでしょう。
今、親しい女友達がいない場合でも、欲しいなら何歳からでも新しく作ることができます。『女友達ってむずかしい?』の著者クレアは以下のように語っています。
「親切で、心が温かくて、おもしろくて、支えてくれて、思慮深くて、率直で、与えることを嫌がらない友達を作るなら、まずは、自分がそういう人にならなくてはならない。自分の友達になってくれる人の姿というのは、たいてい、自分が自分自身にとってどんな友達であるかを、そのまま反映しているものなのだ」
恋人がいれば幸せになれるのではなく、いい恋人がいれば幸せになれるのと同様、女友達もいればいいというわけではありません。お互いにいい影響を与える友達になるためには、まずは自分から思いやりを示す必要があるのでしょう。
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