「SNSをやめる」以外のスマホ依存の解消法とは?「注意の分散」に抵抗する

「SNSをやめる」以外のスマホ依存の解消法とは?「注意の分散」に抵抗する
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近年、自分がスマホに依存している自覚があり、やめたいと考えている人は少なくないでしょう。Netflixを見ながらSNSを見て、歯磨きしながらSpotifyを聴くなど、スマホに常時接続し、マルチタスクが日常になっている人も珍しくありません。

一度スマホを手放せなくなってしまったら、スマホ依存から脱却するのは至難の業です。

「スマホ依存をやめたい」と、デジタルデトックス(スマホやPCなどの電子機器から一時的に離れること)やSNSのアンインストールを試した人も、しばらくしてすぐに元のスマホ依存に戻ってしまいがちです。

では、どうすればスマホ依存を解消することができるのでしょうか?

スマホに依存してしまう理由。SNS依存はストレスへの対処法?

スマホ依存の解消方法を確認する前に、なぜ私たちがスマホに依存してしまうのかを整理しておきましょう。

スマホとアプリは中毒者を作るよう設計されている

IT業界ではスティッキネス(粘着性)とリテンション(サービス解約を防ぐこと)という言葉が開発やマーケティングの現場で使われており、その数値を改善する施作が日々実行されています。つまり、スマホとアプリは、できるだけ中毒性を高めるように作られているのです。

例えば、X(旧Twitter)には、下にスクロールすることで新しい投稿を見ることができる無限スクロール機能が実装されています。ユーザーを長期間、無限に引き止めることができるこの機能によって、広告収益は大幅にアップしました。ユーザーのSNS依存を加速させることによって企業は収益を得ることに成功したわけです。

無限スクロール機能の効果は絶大で、多くのSNS依存者を生み出したため、開発者のひとりであるアザ・ラスキンはこの機能を開発したことを後悔していると述べたほどです。

不安な時代に「酩酊」できる簡単な手段

『スマホ時代の哲学 「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカバー携書 谷川嘉浩著)では、スマホ依存を一種のストレス・コーピング(ストレスの対処法)だと述べています。

現代は、いつでも変化を要求され、成長を求められる時代であり、「〇〇していれば安泰」とは言い切れない時代です。不安を感じやすい時代のため、自分の注意をスマホなどのデジタルデバイスを用いてバラバラに分散させ、そうすることでボーっとした感じを得ることが、一種の嫌やしになっていると言います。

スマホと無料の娯楽、写真や短い言葉のやり取り、ジャンクな飲み物やどうでもいいゴシップの情報、本来なら同時に処理することが難しいことを並行的に処理し、感覚を断片化して自分の注意を分散させることで、不思議な落ち着きを感じているのです。仕事で疲れて帰ってきた日は、動画を流しながらSNSをスクロールすることで癒される、という人は少なくないでしょう。

変化や成長を求められる時代について考えすぎると憂鬱になるので、動画やソシャゲ、SNSを過剰摂取し、「酩酊」や「昏睡」にも似た状態に自分を置くことで、違和感や虚脱感をやり過ごしているというわけです。

スマホ依存から抜け出すために、「注意の分散」に抵抗する

頭のいい人たちが束になってユーザーを中毒にしようと企んでいるわけですから、一般人がスマホやSNS依存になるのは自然なことでしょう。

しかし、スマホ依存は、IT企業に莫大な利益をもたらすと同時に、ユーザー個人には甚大な弊害をもたらします。時間やお金が溶けるだけではなく、倦怠感や自己嫌悪、他人との比較による落ち込み、孤立など、枚挙にいとまがありません。

一体どうすれば、スマホ依存から抜け出すことができるのでしょうか?

最初に考えつくのは、SNSのアプリを削除するなどの方法でしょう。実際、Facebookのアカウントを一ヶ月停止する実験において、多くの人が幸福を感じたと述べています。しかし同時に、Facebookを使わないことで幸福度がアップしたにも関わらず、その後100日以内に95%がFacebookを戻ったそうです。単純にアプリを消すだけでは、スマホ依存から逃れるのは難しいと言えるでしょう。

『スマホ時代の哲学』において、著者で哲学者の谷川嘉浩は、ネットへの常時接続状態から抜け出すために、「継続的に何かを作ったり育てたりする活動」をすることを推奨しています。他者に見せるための映える趣味ではなく、自分でコツコツ反復できる趣味を持つが大切だというのです。

『何もしない』(早川書房 竹内要江訳)の著者、ジェニー・オデルも同様のアプローチを紹介しています。人々の注意が金になるアテンション・エコノミーに抗うためには、「別のものに注意を向けるべき」「周囲のものを注意深く観察するべき」というのが著者の提言です。例えば、SNSをスクロールするのではなく、道端に咲く美しい花に注意を向けること、そういった意識が、SNS依存から脱却する一歩になるのです。

谷川の「継続的に何かを作ったり育てたりする活動をすべし」という提言は、要は、「注意を分散させずに、一つのことに取り組もう」と同義であり、ジェニー・オデルの提言と根本的には同じことでしょう。

注意を分散させない方法はたくさんあります。瞑想やヨガ、植物を育てる、料理を作る………集中して取り組める時間を増やし、そうすることで得られる喜びを実感できれば、スマホを触っている時間が勿体無いと感じられるかもしれません。

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