今すぐできるセルフケア。自分を傷つける言葉「自虐」をやめてみる

 今すぐできるセルフケア。自分を傷つける言葉「自虐」をやめてみる
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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エッセイ漫画家のつづ井さんは2017年に『腐女子のつづ井さん』でデビューして以降、次々とヒットを飛ばしている。そんなつづ井さんが「20代、未婚、パートナーなし、恋愛経験もあまりない」という自身のスペックに対し、「自虐をやめる」と宣言したのは、デビューから2年後の2019年のことだった。

「恋愛していない若い未婚女性」であるだけで…

つづ井さんの作品を一冊でも読んだ方なら知っているように、つづ井さんは多趣味で友達に恵まれており、日々をエンジョイしているアクティブな女性だ。紙面から「生きるのが楽しい!」「友達大好き!」というポジティブオーラがビシビシ伝わってくる作風だが、会社員時代は、「恋愛していない、パートナーがいない」というだけで、「楽しいわけがない」と思われることも多かったという。

頻繁に「若いのにパートナーがいなくて可哀想、寂しいはず」といった類の言葉をかけられ、「そんなことないです!毎日めちゃくちゃ楽しいです!」と言い返すも、強がっていると思われてしまったとか。

「結婚しなくても幸せになれる時代」とゼクシィが宣言したとて、まだまだ一部の人は、“特定の男のいない女が毎日ただただ幸せに生きている”という事実を受け止められていないのだ。

つづ井さんは、「楽しく生きていること」を否定されることに傷つき、次第に心の防御策として、先回りして自虐をするようになったという。「彼氏いないんです、ヤバ笑」と先に自虐しておけば、相手からの攻撃に傷つくこともない。しかし、そんな状況が数年続いた後、円形脱毛症になっていることに気づく。思ってもいないことを言い、自虐に徹することが、知らないうちに大きなストレスとなっていたのだ。つづ井さんは、以下のように反省する。

“自分を許さん。こんなに楽しい毎日なのに勝手にへりくだって他人の気分をよくするために勝手に削られて、私がああいう言動を選んでいたことで嫌な思いをした人もいたかも知れないし、「いじってもいい」という土壌を作ってしまったかもしれないし、そして一緒に過ごした大切な友人や私の絵日記を読んでくださる読者の方に申し訳ない、恥ずかしい、情けない…”

それ以降、自虐はやめる、と決意したという。それゆえ、つづ井さんの漫画には、アラサー女子漫画にありがちな、恋愛していないこと、彼氏がいないことに対する自虐は一切登場しない。つづ井さんの自虐をやめる宣言は、自分を大切にする宣言であると同時に、読者が自己卑下したくなるような表現は使わない、という意思表示だったのだろう。

手抜き、ズボラ、という自虐。どれだけ高いハードルを課しているのか

もう一人、自虐をやめると宣言した女性がいる。自炊料理家の山口祐加さんだ。山口さんはXに以下の投稿をし、4千件以上の“いいね”を獲得した。

“自分の料理に対して「ズボラ・手抜き」と表現することをやめる宣言をしてみます。今までもあまり使ってこなかったけど、改めて。自分を少しずつ傷つける言葉はできるだけ使いたくない。よかったらみなさんもご一緒に”

山口さんは、クライアントに料理を教える中で、「こんなに頑張っているのになぜ手抜きというの?」と不思議に感じることが多かったという。実際、凝った料理ができていないこと、品数が少ないことなどに罪悪感を覚える女性は少なくない。それは、「女性なら料理ができて当然」「料理ができる=女子力」と言われた時代の名残が残っているからだ。「女性にノーレシピで料理を作らせて、できなさを嘲笑う」というバラエティ番組が放送されていたのはごく最近のことだし、「一汁三菜」が理想的な食事かのように認識されていた時代も長かった。そのため、女性が「一品しか作ってないし」「レンジでチンしただけだし」という理由で、自身の料理を「ズボラ・手抜き」と表現してしまいがちなのだろう

著書『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)で、山口さんは、自分のために料理を作ることはセルフケアになり得るという説を展開している。確かに、子供に料理を作ることは子供をケアすることなのだから、自分の食べたいものを自分のために作るということがセルフケアであることは、考えてみれば当然のことだ。

気持ち次第では、自分を慈しむ時間になるはずの自炊を「ズボラ・手抜き」と卑下してしまうのは、もったいないと言えるだろう。

自分を傷つける言葉は、知らずしらずのうちに他人も傷つける

つづ井さんと山口さんの自虐やめる宣言には共通点がある。それは、自虐が他人(読者やクライアント)を傷つける可能性があると認識している点だ。

実際、自虐は他人を傷つけたり、不快にしたりすることが少なくない。例えば20代の女性が職場で「もうおばさんだから。老化現象やばい」と冗談っぽく自虐したとする。近くに座っていた40代女性はどう思うだろう。「何言ってんの! まだ若いでしょ…」と楽しく会話に入ってくるかもしれない。あるいは、「あなたがおばさんだったら私はどうなる?」と人知れずイラつくかも知れない。これはライトな例だが、もっとシビアで、心を抉る自虐もある。

自分のある側面に対し、自虐をするということは、同じ側面を持っている人全員を、ディスることと同義なのだ。

自虐は時には会話の潤滑油になる。また、自虐をすることで「そんなことないよ!」と励ましてもらえるなど、メリットがある場合もある。しかし、自虐には自分も他人も傷つけるという大きな副作用があることを忘れてはならないだろう。

参考:

つづ井さん note

山口祐加さん note

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