突然死を招くサイレントキラー「腹部大動脈瘤」知っていますか?命を守るために今できること|医師監修
「親にはいつまでも元気でいてほしい」——そう願う子ども世代が今、最も懸念しているのは“突然”訪れる健康の異変です。一方で、親世代は慢性的な病気には気をつけるものの、突然死につながるリスクには無頓着な傾向が。見過ごされがちなサイレントキラー「腹部大動脈瘤(AAA)」を通して、親子間の意識のギャップと、命を守るために今できることについて考えます。
親の健康に対する意識のギャップ:心配する子ども世代と楽観的な親世代
2025年1月31日〜2月3日に実施されたインターネット調査(日本ゴア合同会社、楽天インサイト調査パネル)では、全国の30〜49歳男女(子ども世代)と、65〜79歳男性(親世代)、あわせて600名(各300人)を対象に、普段の生活に関するアンケートが行われました。
この調査の結果、子ども世代が親の健康について懸念しているのは「突然」のリスクであることが明らかになりました。「突然の体調悪化」(53.1%)や「突然死」(27.9%)といった不安が上位に挙げられ、「急に倒れたら一気に介護へ進む」といった自由回答も多く見られました。これは、医療や介護が突然始まり生活が激変するリスクを想定していることを意味しています。

一方、親世代では、注意している病気として高血圧(55.7%)、高コレステロール(29.7%)、糖尿病(27.7%)など、慢性疾患が中心でした。突然死のリスクとされる心臓病(9.3%)、脳卒中(7.0%)、大動脈解離(2.0%)などに注意を払っている人は少なく、17%は「特に注意している病気はない」と回答。子ども世代との間に、健康リスクへの意識のギャップが見受けられます。

“見えない爆弾”腹部大動脈瘤(AAA)を知っていますか?
突然死を引き起こすリスクのひとつが、腹部大動脈瘤(AAA:Abdominal Aortic Aneurysm)です。これは腹部の大動脈がこぶのように膨らむ疾患で、65歳以上の男性に特にリスクが高く、女性の4〜6倍の頻度で発症するといわれています。AAAはほとんど自覚症状がなく進行し、破裂すると大量出血を伴い、致死率は約7割に上ります。年間約3,000人がこの疾患で命を落としており、まさに“サイレントキラー”と呼ばれています。自然治癒が望めないため、放置は危険です。高血圧・喫煙歴・家族歴がある方は特にリスクが高いため、一度は検査を受けることが重要です。
発見のカギは腹部エコー検査
AAAの発見は68%が「検査異常(偶発的発見)」によるもので、定期健診での発見はわずか22%、症状によるものは10%にすぎません。つまり、多くの人が自覚症状もないまま見過ごしてしまっているのが現状です。腹部エコー検査は、放射線の影響がなく体への負担も軽いため、AAAのスクリーニングに適しています。ですが、同調査では腹部エコー検査を受けたことがあるというシニア男性は2割以下にとどまり、「1年に1回、健康診断を受けている」と答えた人が74%にのぼりました。
自分の健康に対して楽観的な親世代が、突然死のリスクを見過ごしている可能性は否定できません。腹部大動脈瘤(AAA)のように静かに進行する病気こそ、意識して検査を受けることが大切です。この機会に、家族で突然死のリスクや定期的な検査の必要性について話し合ってみてはいかがでしょうか。
医師監修…国立循環器病研究センター 副院長(心血管外科)松田 均 先生
参照:
日本ゴア合同会社「普段の生活に関するアンケート」2025年2月3日 調査対象:全国の30~49歳男女、全国の65~79歳男性 サンプル数:600ss 調査パネル:楽天インサイト
Singh K, Bonaa KH., Jacobsen BK, Bjork L, Solberg S. "Prevalence and risk factors for abdominal aortic aneurysms in a population-based study : the Tromso study." Am J Epidemiol. 2001;154(3):236-44.
高木誠、他. "腹部大動脈瘤スクリーニングに関する検討." 日本超音波医学会誌. 2002;29(2):187-91.
Uemura K, Ohishi M, Takeya Y, et al. "Prevalence and risk factors of abdominal aortic aneurysm detected by screening of a general old-aged population." J Vasc Surg. 2016;64(4):1095-102.
Lammer J, Zeller T, Hausegger KA, et al. "Rationale and design of the LEOPARD study: evaluation of short- and long-term outcomes of aortic stent grafts in treatment of abdominal aortic aneurysm." Cardiovasc Intervent Radiol. 2002;25(1):8-14.
厚生労働省、「救急・初期治療、緊急手術、術後の成績、転帰に関する臨床疫学的研究結果に基づく腹部大動脈瘤破裂症例に関する実態把握」、2023年7月24日公開、第7222号、第2414号。
奥村徹監修、未来予測レポート2022冬、2022年
Owens DK, Davidson KW, Krist AH, et al. "Screening for Abdominal Aortic Aneurysm: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement." JAMA. 2019;322(22):2211–2218.
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