菌が生きる、菌が残す。腸に届くチーズとは?管理栄養士が栃木県大田原市で実感したこと

菌が生きる、菌が残す。腸に届くチーズとは?管理栄養士が栃木県大田原市で実感したこと
石松佑梨
石松佑梨
2025-07-30

「チーズは腸にいい」──そう思っている方も多いはず。でも実は、すべてのチーズが腸活になるわけではありません。大切なのは、菌が“生きている”ことだけでなく、“菌が何を残したか”。管理栄養士として発酵と腸に向き合ってきた私が訪ねたのは、栃木県にある〈大田原チーズステーション〉。開拓地に根ざした菌が育む“生きたチーズ”には、からだが喜ぶ確かな理由がありました。

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腸活にチーズ?──すべてのチーズが“腸にいい”とは限りません

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チーズは、ビタミンCと食物繊維を除くほとんどすべての栄養素を含む“完全食”。サラダや果物と組み合わせれば、簡単に栄養バランスが整う、頼もしい食品です。

しかも、チーズは発酵食品。タンパク質やカルシウムが豊富なだけでなく、“腸活フード”としても注目されています。

──でも、どんなチーズでも腸にいいわけではありません。

今回ご紹介するのは、「生きたチーズ」を日本の自然の中で丁寧に育てている、栃木県の〈大田原チーズステーション〉。

国際的なチーズの称号「ギャルド・エ・ジュレ」を夫婦で持つ職人、高橋雄幸さん・ゆかりさんに、腸活とチーズの関係について伺いました。

腸のために選びたいのは「ナチュラルチーズ」

ナチュラルチーズとプロセスチーズの違い

整腸作用を期待するなら、“ナチュラルチーズ”が断然おすすめ。その理由は、チーズの製法の違いにあります。

  • ナチュラルチーズ

乳酸菌・酵母・カビなどの発酵微生物や酵素が「生きている」チーズ。時間とともに発酵・熟成が進み、腸に働きかける“プロバイオティクス効果”が期待できます。味や香りが変化するのも大きな魅力です。

  • プロセスチーズ

ナチュラルチーズを加熱して再加工したもの。熱によって菌や酵素は失活しており、保存性や品質の安定性には優れますが、腸活という観点では効果が薄いとされています。

熟成がもたらす、“生きた菌”だけじゃない力

フレッシュチーズ

ナチュラルチーズは、熟成の度合いによって腸へのアプローチも変わります。フレッシュタイプと熟成タイプ、それぞれに違った腸活効果が期待できるのです。

  • フレッシュチーズ(モッツァレラ、カッテージ、フロマージュ・ブラン、ラブネ など)

乳酸発酵を経て、熟成させずに食べるタイプ。多くは乳酸菌が“生きて”いるため、ヨーグルトと同様に腸内で善玉菌として働くプロバイオティクス効果が期待されます。

ただし注意点も。モッツァレラのように加熱して練り上げるものは、菌が働きを失っている可能性があり、腸活効果はやや限定的です。

  • 熟成チーズ(白カビ、ブルー、セミハード、ハード、ウォッシュ系 など)

熟成によって風味や旨みが深まり、保存性も向上。この過程でタンパク質が分解され、アミノ酸やペプチドになっていくため、胃腸にやさしく、栄養の吸収率も高まります。

さらに注目したいのが、熟成中に生まれる「ポストバイオティクス」。たとえ菌が働きを失っていても、菌が生み出した代謝産物には、以下のような健康効果があることがわかってきました。

- 腸内細菌のエサになる(=プレバイオティクス的効果)
- 抗炎症・抗酸化作用
- 免疫調整・血圧低下作用

つまり生きた菌の力だけでなく、「菌が残したもの」にも、体を整える力がある。それが“熟成チーズ”の底力です。

なぜ「日本のチーズ」が腸活に注目されているのか

カード

私たちの腸は、もともと多様な微生物とともに進化してきた器官です。ところが近年、過剰な殺菌や除菌、加工食品に偏った食生活の影響で、“菌との共生”が難しくなり、腸内環境のバランスが乱れやすくなっていると言われています。

そんな現代の私たちの腸に、やさしく寄り添うような発酵食品──それが〈大田原チーズステーション〉のナチュラルチーズです。

「チーズの味は、菌がつくるんです。だからアルコール消毒は使いません。必要な菌まで取り除いてしまう可能性があるから。手はきちんと洗いますが、作業は“素手”。菌の状態を感じ取るには、その方が自然なんです」

そう語る高橋さんの工房では、地域の空気や水、そして人の営みに根ざした“常在菌”たちが、チーズづくりに欠かせない役割を担っています。

実際に工房を立ち上げた当初は、なかなか思うような菌がチーズにのらず、熟成がうまくいくまでに1年ほどかかったそうです。つまり、熟成庫の中でチーズを育てる“菌の環境”が整い、安定するまでに、それだけの時間が必要だったということです。

この話を聞いて、私は管理栄養士として、腸内環境の再生と重ねずにはいられませんでした。乱れた腸内環境を整えるのには、早くても数週間、一般的には2〜3か月ほどかかるとされています。発酵食品などに含まれる**プロバイオティクス(腸に良い菌を補う)と、その菌を育てるプレバイオティクス(菌のエサとなる食物繊維など)**を意識的に取り入れながら、じっくりと“菌の棲み処”を育てていく必要があるのです。

大切なのは、善玉菌だけを増やすことではありません。さまざまな菌が共存し、バランスよく働く──そんな「菌の多様性」に満ちた腸内環境こそが、私たちの健康を支えてくれます。

そう考えると、チーズの熟成庫もまた、腸内環境とよく似ています。日本の風土に宿る菌たちが、ゆっくりと時間をかけてチーズを育てていく。その姿には、私たちの腸にもなじみやすい“菌の営み”が宿っているように思えるのです。

お話を伺ったのは… 大田原チーズステーション 高橋雄幸さん・ゆかりさん

シェーブル

写真は高橋さんの牧場の様子です。牛や山羊たちは、好きな時に好きなように牧草を食べてのびのびと暮らしています。次回は、チーズの原点ともいえる「ミルク」について。高橋さんとともに、その奥深さをさらに掘り下げていきます。どうぞお楽しみに!

〈大田原チーズステーション〉
〒324-0062 栃木県大田原市中田原1901
TEL:0287-53-7941
公式HP: https://fujiyamacheese.stores.jp

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チーズは種類や製法が非常に多様であり、すべてのチーズに一律の効果があるとは限りません。菌の状態や働きも製造工程によって異なるため、「腸活効果の目安」としてご参考ください。

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