都会では得られなかったウェルビーイング|福島↔︎東京の2拠点生活で見つけた、わたしの整いのかたち
自分らしく生きたいと願いながら、東京で“整わぬ毎日”に疲れていた私が始めた2拠点生活。今、私は少しずつ「満たされる日々」を手にしています。 ーーー自分の“ちょっと得意”が、誰かのウェルビーイングにつながる。そんな循環が生まれやすいのが、地方というフィールドなのかもしれません。提供する側も、受け取る側も、無理なく豊かになれる場所。 もちろん、地方が“絶対の答え”というわけではありません。 でも、かつての私のように、都市で“ウェルビーイング難民”になっている誰かにとって、何かのヒントになればと思い、この連載を始めてみます。
「自分らしく生きたい」と言いながら、整わなかった東京の日々
私はかつて、東京で働く“ウェルビーイング難民”でした。
「自分らしく生きたい」――そう何度も口にしながら、どこか満たされない毎日。
専属管理栄養士として、海外で活躍するトップアスリートたちを支える仕事をしてきました。メディアや講演などで“健康”を伝える側にいた一方で、実は私自身が、自分の内側と向き合えていなかったように思います。
28歳で上京し、「東京には地方にない仕事がある」と知った私は、世の中の流れに身を任せ、「自分らしさ」を後回しにして、がむしゃらに働いていました。
地方と東京、それぞれの良さと限界を肌で知っていたからこそ、「東京を完全に離れる」決断はなかなかできずにいたのです。
そんな私に転機をもたらしたのは、コロナ禍でした。
夫の転勤がくれた、地方暮らしという選択肢
仕事を通じて地方を訪れる中で、日本各地の食文化や風土の魅力を改めて感じていた頃。ちょうど夫の転勤が決まり、福島県郡山市での暮らしが現実になりました。
東京を離れることに迷いはありましたが、私は“2拠点生活”という形で、東京との距離を残すことにしました。郡山から東京までは新幹線でたったの78分。毎日通勤も可能な“ちょうどいい地方”です。
不便だからこそ生まれる、人とのつながり
もちろん不安もありました。
郡山では車移動が当たり前。ペーパードライバーの私は最初とても困りましたし、徒歩圏内にヨガスタジオやジムがないのも悩みでした。
トレンドの雑貨や服、本、美術展…東京なら、見て、触って、すぐに手に入る。でも郡山ではそうはいかない。美容室さえ、今も東京に通っています。
けれど、そうした「ほどよい不便」があるからこそ、人とのつながりが生まれます。
誰かの「ちょっと得意」が活きる場面が多く、地域の循環を支えているのです。選択肢が少ないからこそ、自分の感覚で選べる。「不便」は、生きやすさのきっかけにもなりました。
スペースがあると、心ものびのびしていく
2拠点生活で手に入れた最大の恩恵は、「空間」と「心の余白」でした。
東京の家は狭く、人も多く、常にせかせかしていたのに比べて、郡山では広々とした家にゆったりとした時間が流れています。
毎朝、自宅でオンラインヨガをしてから、仕事を始める。
午後からは自転車で直売所へ行き、旬の野菜を選んで帰り、夕方には地元の食材でごはんを作る。
秋から冬の間は、柿やさつまいも、大根などを干したり…。
そんな時間が当たり前にある暮らし。
最近では、長い冬を終えて、やっと春が感じられる気候になってきました。あたたかな風を感じながら、自転車で田舎道を走っているときには「ああ、郡山に来てよかった」と、心から思います。新芽が芽吹き、草花がいっせいに動き出すこの季節は、まち全体が呼吸をしているようにも感じます。
とはいえ、私は本格的な田舎暮らしがしたいわけではありません。たとえば、雪かきや地域行事への参加など、暮らしの中に労力が求められる場面も少なくありません。でも郡山には、新幹線が止まる駅もあれば、スタバやお気に入りのパン屋さん、コーヒースタンドもあります。
“自然”と“都市の便利さ”のバランスが絶妙な、私にとっての“ちょうどいい地方”。ここなら、気負わず、自分らしくいられる気がしています。
「外から」ではなく「中から」関わるまちづくり
東京にいた頃から、他県のまちづくりにも関わらせていただいていました。ただし、それはあくまで“外から”の視点。今は自分の暮らしに根ざした“中から”の関わりができます。
「この地域で、私にできることはなんだろう?」
そんな問いを抱きながら、東京の仕事も続けつつ、郡山では、私らしい役割を少しずつ模索しています。その中で見えてきたのが、「食の豊かさを発信すること」。この連載も、そんな思いから始まったひとつの取り組みです。
地域の食や健康、そして子どもたちの未来につながる“食育絵本”の制作にも挑戦し始めました。
地方には、自分のやりたかった夢を実現しようと、新しい挑戦をしている人たちがたくさんいます。私も、何かやりたいことを叶えられたらいいなと思いつつ、まずは焦らず、この土地・福島を“楽しむこと・知ること”から始める一年にしていこうと決めました。
あなたの「ちょっと得意」が、まちを豊かにするかもしれない
「ウェルビーイング」は、誰かが与えてくれるものではなく、自分で“気づく”もの。
地方こそが答え、というつもりはありません。
でも、東京で探し続けて見つからなかった「満たされなさ」は、郡山の何気ない日常にありました。ゆるやかな時間の中で、誰かの「ちょっと得意」が循環を支え、自然と季節に寄り添う暮らしが始まる。2拠点生活は、あなたの整いのヒントになるかもしれません。
【連載スタート】福島発、“地方×ウェルビーイング”のかたち

地方では、あなたの「ちょっと得意」が、誰かの暮らしをそっと支えるかもしれません。
そしてまた、誰かの「ちょっと得意」が、あなたの毎日を豊かにしてくれることも。
次回からは、まちを支える“誰かのちょっと得意”をインタビュー形式でご紹介していきます。
都市に暮らすあなたへ、「こんな暮らしもあるんだ」と思える視点を届けられたら嬉しいです。
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※ウェルビーイングとは
1948年に採択されたWHO憲章において「病気でないことや、虚弱でないことにとどまらず、身体的・精神的・社会的にすべてが満たされた状態」と定義されています。
この定義では、「心身の健康」と「ウェルビーイング」が並べて語られており、どちらも満たされてはじめて“真の健康”であることが示されています。
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