整うチーズは、“整ったミルク”から。 チーズ職人・高橋さんが語る、ミルクの本質
“チーズのおいしさの8割は、ミルクで決まる”── そう語るのは、栃木県大田原市にある〈大田原チーズステーション〉のチーズ職人・高橋雄幸さん。栄養学的にも、ミルクはビタミンCと食物繊維以外のすべての栄養素を含む“完全食”。その質は、動物の育つ環境で大きく変わります。 放牧で育ち、地元資源でつくられた飼料を食べて育った牛や山羊が出すミルクには、風土と人の営みが凝縮されています。抗生物質やホルモン剤に頼らないやさしい飼育法、サステナブルな酪農──ミルクの背景まで整ったチーズだからこそ、心と体に沁みわたる。 管理栄養士の目線で出会った、“整いミルク”の真実とは?
チーズのおいしさの8割は、ミルクで決まる

チーズの主原料であるミルクは、ビタミンCと食物繊維を除くほとんどの栄養素を含む“完全食”とも呼ばれています。その栄養価と風味が、そのままチーズの魅力にもつながっています。
「チーズのおいしさの8割は、ミルクで決まる」
そう語るのは〈大田原チーズステーション〉のチーズ職人・高橋雄幸さん。
その言葉通り、高橋さんのチーズづくりには、ミルクへの深いこだわりがあります。現在は那須高原のミルクを使い、土地の風味を感じるチーズを製造。これは、地元酪農の活性化にもつながっています。
そして今、高橋さん夫妻はもう一歩先の挑戦へ──。
目指すのは、自ら牧場を持ち、牛や山羊を育て、そのミルクからチーズを生み出す“ファーム・トゥ・チーズ”というスタイル。生産から加工まですべてを自分たちで担う、日本でも数少ない取り組みです。
放牧でのびのびと育った動物たちが、地元の牧草や未利用資源からなる飼料を食べて育つ。そのミルクから生まれるチーズは、この土地の風土や人の営みが映し出された、プレミアムな一点です。
これまで通り、「地域の酪農とともに育む上質なチーズ」と向き合いながら、「自らの牧場から生まれる、放牧ミルクのプレミアムチーズ」へと挑む高橋さん夫妻。
──2つの価値を、どちらも“本物”として。そのまっすぐな想いが、これからの日本のチーズ文化を、静かに、力強く育てていきます。
“土地の恵み”がミルクに変わるサステナブル酪農

那須の山あいにある〈大田原チーズステーション〉の自社牧場では、ジャージー牛やブラウンスイス、山羊たちが、四季の自然に寄り添いながら暮らしています。朝から晩まで、好きなときに草を食み、自由に歩き回る放牧スタイル。ストレスの少ない環境は、動物たちの健康を保つだけでなく、ミルクそのものの質をも高めてくれます。
こうして搾られるグラスフェッドミルクには、オメガ3脂肪酸やβ-カロテン、ビタミンEなど、人の健康にも嬉しい栄養素が豊富に含まれています。さらに、抗生物質やホルモン剤に頼らない自然な飼育環境だからこそ、安心して口にできる“本物のミルク”が生まれます。
とはいえ、牧草だけで動物たちに必要な栄養をまかなうのは簡単なことではありません。グラスフェッド酪農には、乳量の安定や栄養バランスの難しさも伴います。
そこで高橋さんたちが実践しているのが、地域の“未利用資源”を活かしたサステナブルな酪農。酒粕や米ぬか、地ビールの麦芽など、かつては「余り物」とされていた食材を飼料として活用し、輸入に頼らず地元の恵みで命を育てる循環型スタイルを築いています。この取り組みは、餌代削減や脱炭素への貢献だけでなく、地域の資源を活かし未来へつなぐ仕組みでもあります。
そして、そうして育ったミルクはチーズへと姿を変え、チーズづくりの副産物である「ホエイ(乳清)」にも、また新たな命が吹き込まれます。栄養価の高いホエイは、地域のパン屋さんに届けられ、ホエイ入りのパンとして生まれ変わることも。取材当日も、高橋さんがホエイを納品する姿がありました。いただいたパンは、しっとりふんわりと優しい口あたり。ほのかに香るミルクの風味が印象的でした。
ミルクがチーズになり、パンになり、また地域に還っていく。この町では、そんな“小さくて豊かな循環”が、静かに、でも確かに根づいています。
この町には、こんなにおいしいミルクがある

〈大田原チーズステーション〉のチーズは、単なる食品ではありません。
気候や風土、そして作り手の思想が凝縮された“テロワールの食文化”です。
放牧で育てた牛や山羊、地域資源を活かした飼料、そしてそのミルクでつくるチーズ──高橋さんたちのものづくりは、すべてが土地に根ざしています。「効率」や「大量生産」では計れない、“手間ひま”という豊かさが、そこにはあります。
実際、高橋さんたちのチーズは国内外のコンテストで数々の賞を受賞。JAL国際線のファーストクラスでも提供され、「評価されたのは、チーズではなく那須のミルクそのものだった」と語ってくれました。
また、地元の高校や専門学校との連携によるチーズづくり体験や食育活動にも取り組み、地域とともに歩む姿勢を貫いています。
「むらづくりは、人づくりから」
かつて新潟・黒川村の役場職員だった頃に出会った言葉を胸に、高橋さん夫妻は、チーズを通して人を育み、地域を耕し続けています。
──この町には、こんなにおいしいミルクがある。
その実感が、今日の元気になり、誰かの未来をつくっていきます。
お話を伺ったのは… 大田原チーズステーション 高橋雄幸さん・ゆかりさん

どうしても最後に書き添えたいのが、取材中にいただいた「チーズ屋さんのソフトクリーム」。
よいしょに聞こえてしまったら残念なのですが……
これまで食べたソフトクリームの中で、間違いなく一番のおいしさでした。“ここでしか味わえない体験”を、ぜひ。
〈大田原チーズステーション〉
〒324-0062 栃木県大田原市中田原1901
TEL:0287-53-7941
公式HP: https://fujiyamacheese.stores.jp
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く








