熟年離婚・お金・子どもの気持ち・弁護士への相談…離婚で気になるポイントを弁護士に聞いた

 『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)より
『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)より

結婚するときから「いつか離婚するかも」と考える人は少ないと思いますが、年月とともに考えや関係性が変化してしまうこともあります。離婚を考え始めたとき、子どもへの影響、お金の問題、離婚が本当に最善の選択かなど、悩むことはたくさんあるでしょう。『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)は、離婚を考え始めてから離婚の手続きまで、抑えておくとよいポイントが整理されています。本書を始め、離婚に関する多くの書籍に関わっている森法律事務所の所属弁護士の舟橋史恵さんに、中高年で配偶者と一緒にいるのがつらいときの選択や、離婚を考えたときのお金のこと、離婚について弁護士に相談することなどを伺いました。

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熟年離婚を考えたら

——今の世代の「熟年離婚」ですと、女性は専業主婦もしくはパートで働いていた人も多いと思います。経済力に不安があるものの、どうしても一緒にいるのがつらい場合はどういった選択がありますか?

とにかく一緒にいるのが嫌だとしても、離婚はエネルギーを使うことですのでためらう方も多いでしょうね。年を取ってもいるので、離婚までは……という場合は、家庭内で生活場所や生活時間をずらしてなるべく接しないようにする方法や、正直に「離婚するつもりはないものの、別居したい」ことを伝え、相手も了承すれば別居婚という形もあるかと思います。

別居婚に関しては、一つリスクがありまして、別居が長くなると、離婚の請求が認められやすくなる点です。結婚したままだと様々な義務が発生しますし、相続もされる。こちらは離婚するつもりがなくても、相手が「離婚した方が得」だと思った場合に、離婚請求をされるリスクは想定しておいた方がいいでしょう。

離婚するにしてもしないにしても、問題は住居をどう確保するかです。親族のもとに身を寄せることができればいいですが、難しいようであれば、公営住宅や生活保護が利用できないか調べてみるといいでしょう。離婚する場合に、財産分与でそれなりの資産の分与が見込まれるのであれば、資産をもとにして新しい生活の見通しを立てられる可能性もあります。

——経済力が十分でない場合、離婚協議中の生活費も心配です。

離婚を切り出された側が生活費を出し渋ることはあります。家族が生活するために必要な生活費を「婚姻費用」といいます。夫婦はそれぞれの収入などに応じて婚姻費用を分担する義務がありますので、離婚成立までの婚姻費用は、夫婦仲が悪くても、離婚協議中でも、別居中でも請求できます。こういう法的なルールがあることを知ると、多くの方は払うようになるので、最初に出し渋りがあっても諦めずに言っていただくのがいいと思います。

また、離婚を切り出す前に、相手にどういう資産があるのか調べておくことをおすすめします。離婚を切り出すと、切り出された側が資産隠しをすることがあります。対抗策としては「保全処分」といって、相手が勝手に財産を動かさないよう裁判所に申し立てる手続があります。既に相手が財産を隠したり処分したりし始めている場合でも、処分に時間がかかる資産や、株などのように良いタイミングで売りたいという心理がはたらくような資産はまだ残っていることもあります。諦めずに弁護士に相談してみてください。

『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)より
『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)より

子どもの幸せを最優先に

——離婚を考える際「子どもをひとり親にしていいのか」という悩みを持つ方は少なくありません。

お子さんへの影響は最優先で考えなくてはいけないことです。お子さんの反応はそれぞれなので、お子さんを注意深く観察して、どんな影響があるかを考えていくに尽きると思います。

「いがみ合っている両親の姿を毎日見るよりは、別れてくれてよかった」と言うお子さんがいる一方、「仲が悪くても一緒にいてほしかった」「経済的に厳しくなったので、少し我慢してでも離婚しないでほしかった」と話すお子さんもいますので、どうするのが正解かは一概には言えません。世間の目を気にするよりも、目の前のお子さんがどう思っているかをよく考えることが重要だと思います。

では「子どものために」と離婚をできるだけ先延ばしにするのが最善かというと、必ずしもそうとも言い切れません。限界まで我慢し、夫婦の信頼関係がゼロになった段階で離婚に至っているケースでは、子どもが離れて暮らす親とスムーズに会えなくなってしまうことがあります。例外もありますが、基本的にはお子さんは離れて暮らす親と会う機会が確保されていた方がいいでしょう。「子どもをひとり親にしていいのか」と悩むのは当然のことと思いますが、夫婦の信頼関係がまだ残っているうちに離婚も視野に入れて話し合うことが、かえってお子さんのためになるかもしれないという視点は重要だと思います。

離婚について弁護士に相談するには

——裁判をしないとしても、弁護士に相談していいのでしょうか?

日本では多くの場合は協議離婚、続いて調停での離婚の割合が多く、離婚で裁判になるケースは稀です。なので「裁判をしないのに弁護士に相談していいのかな」とは気になさらなくて大丈夫です。

弁護士に相談するメリットは、もし裁判になったらどうなるのかアドバイスがもらえること。たとえば「相手からこんな要求をされているものの、呑まなきゃいけないのか」ということも、裁判で認められないようなものだったら、呑む必要がありません。逆に自分の要求が裁判だったら認められるのかの確認もできます。それを踏まえて、要求の優先順位やどの程度強く主張するかも考えられます。

当事者が合意すればどのような条件で離婚するかは自由ですが、「これは法的にはどうなるの?」という視点は大事なこと。それを知ることができるという点では、弁護士に相談する意味があると思います。

——弁護士への相談の前に準備した方がいいことはありますか?

時間を節約するために、自分なりのポイントを整理してから相談に臨まれた方が、短時間で聞きたいことを聞けると思います。というのも、相談料の決め方は事務所によって異なりますが、多くの場合は30分単位で料金設定がされている。つまり時間がかかるほど、お金がかかるので、費用を抑えたいのであれば、本書も参考にし、準備していただくといいかと思います。

一方、一人で考えるのが苦手な方や、話しながら考えをまとめたいタイプの方は、お金はかかってしまいますが、お話を伺いながらポイントを整理していくこともできます。実際に「どこから手をつけていいかわからなくて、とりあえず来ました」とおっしゃる方もいます。

また弁護士も考え方は人それぞれですので、合う合わない・話しやすさが違うと思います。なので、1~2人に相談してみると、違った視点でご自分の離婚について見られるのではないでしょうか。

——本書には「離婚して幸せになるかならないかは自分次第」という言葉があります。離婚でその後の人生がうまくいく人といかない人の違いはどこにあると思いますか?

離婚が成立した後の生活のことを弁護士が知ることは一般的にはないのですが、離婚案件が終わった時点で晴れ晴れとした表情をされている依頼者とそうでない依頼者の違いといいますと、自分で決めていない方は不満が残っている様子です。

「自分で決めていない」の典型例は、自分は離婚したくなかったのに、判決で離婚が決まったパターンです。他方で、協議などご自分で決めた上で離婚を成立させた方は、細かな条件面で「もっとお金が欲しかった」などと納得がいかなくても、全体的には前向きに考えている方が多い印象です。なので、条件が理想的だったかよりも、自分で納得して決めたかどうかが大事なのだと思います。

『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)
『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)

【プロフィール】
舟橋史恵(ふなはし・ふみえ)

弁護士。東京大学法学部卒業。中央大学法科大学院修了。2010年弁護士登録(東京弁護士会)、森法律事務所入所。主な取扱分野は、離婚問題、相続問題、その他民事事件一般。著書に「簡易算定表だけでは解決できない養育費・婚姻費用算定事例集」(新日本法規出版、共著)、「心の問題と家族の法律相談」(日本加除出版、共著)など。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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