女性の10人に1人は貧血。だから正しく理解したい「鉄の働き」と貧血予防のポイント|薬剤師が解説

 女性の10人に1人は貧血。だから正しく理解したい「鉄の働き」と貧血予防のポイント|薬剤師が解説
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成人女性の10人に1人はいるといわれる貧血。血液は全身に酸素や栄養素を運ぶ大切な役割を果たすため、貧血になると組織が酸素不足になり、さまざまな症状が現われます。この記事では、鉄の働きがもたらす健康への効果と貧血の予防法について解説します。

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鉄とヘモグロビンの役割

鉄は血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となるミネラルです。ヘモグロビンはグロビンというタンパク質と鉄が結合したもので、おもに酸素を運搬する役割を担っています。

呼吸によって体内に吸い込んだ酸素は肺でヘモグロビンと結びつき、心臓から動脈を経て体の各組織へ運ばれています。そしてヘモグロビンは代謝で生じた老廃物である二酸化炭素を各組織から取り込み、肺まで運んで体の組織をきれいにしています。

体内の鉄が不足するとどうなるのか?

体内の鉄が不足するとヘモグロビンを順調につくることができず、酸素の運搬や、老廃物である二酸化炭素の回収が滞ってしまいます。すると全身の組織が酸欠状態になったり、二酸化炭素がたまったりして次のような症状が現われます。

疲れ・だるさ

筋肉は血液が運ぶ酸素や栄養分をエネルギーにして働き、そこで生じた二酸化炭素をヘモグロビンに回収してもらうことで機能している。筋肉が酸欠状態になるとエネルギーをつくり出せず、疲れやだるさが現われる。

肩こり

肩の筋肉でつくり出された二酸化炭素がうまく回収できず、肩にこりや痛みが生じる。

動悸や息切れ

心臓が一度の鼓動で送り出す血液の量は一定。全身の組織が酸欠状態になると、心臓の鼓動を早めて、大量の血液を流して酸素を供給しようとして動悸が起こる。同様に、呼吸を早めて大量の酸素を体の中に取り込もうとするため息切れが起こる。

めまいや頭痛

酸素は脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖をエネルギーに返還するときに必要なもの。貧血により脳が酸欠状態になると脳細胞が働きにくくなるため、めまいや頭痛などの症状が現われる。

鉄分不足
鉄分不足になるとどうなる? イラスト/Adobe Stock

鉄と美容の関係とは?

鉄不足の状態になると次のような肌や髪の美容にダメージをもたらします。

顔色が青白くなる

血液が赤い色をしているのはヘモグロビン中の鉄によるもの。鉄不足により血液中のヘモグロビンが少なくなると、皮膚や粘膜の赤みがなくなり、顔色が悪くなる。

シミが増える

肌への酸素供給量が減って肌の新陳代謝が低下し、シミができやすくなる。

ハリがなくなりシワが増える

肌のうるおいを保つ役割があるコラーゲンの原料はタンパク質で、体内でコラーゲンを合成する際、鉄とビタミンCが必要。鉄が不足するとコラーゲンが合成できずシワができやすくなる。

髪にダメージを与える

髪は毛根にある毛乳頭が酸素や栄養分を毛細血管から吸収して健康を保っている。鉄不足により体内の酸素が少なくなると、毛乳頭まで十分な酸素や栄養分が行き届かず、髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたりする。

女性が鉄不足になりやすい原因

女性に鉄不足の人が多い理由は、次のようなことがあげられます。

月経

月経による出血で毎月定期的に鉄が排出される。

出血性の病気

子宮筋腫や子宮内膜症などが原因で、月経時の出血量が増えることや、痔などの出血で鉄が不足する場合もある。

ダイエットによる偏食

ダイエットなどの偏食により、食事から摂る鉄が不足する。

加工食品を多く摂る

加工食品に添加物として使用されているリン酸カルシウムは、鉄の吸収を妨げる性質がある。そのため加工食品やインスタント食品を多く摂ると、効率よく吸収できなくなる。

1日に必要な鉄の摂取量

厚労省の「日本人の食事摂取基準」によると、1日に必要な鉄の摂取量は成人男性で7.0~7.5mg、成人女性で6.0~6.5mgとされています。ただし、月経のある女性は出血により鉄が失われるため10.5mg必要になります。

また、妊娠、授乳期には、子どもの分まで栄養が必要なので、鉄も通常より多く摂取しなければなりません。妊娠初期や授乳中は2.5mg、妊娠中期から後期は15.0mg多く摂ることが推奨されています。

鉄を効率よく摂る食事法

赤血球は全身を循環して、120日ほど経つと寿命がきて脾臓で破壊され、正常な人で毎日、赤血球全体の約8%が死滅しているといわれます。

しかし、ヘモグロビンに含まれる鉄のほとんどはリサイクルされます。鉄は体を維持するための大切なミネラルであるため、通常の状態ではなるべく減らないよう、一定量を保つ仕組みになっているのです。

貧血予防のためには、基本的には鉄の摂取だけでなく、規則正しい食習慣への改善、バランスのとれた食事を心がけます。そして、鉄を含む食品とともに鉄の吸収を助ける栄養素や、血液の生産を助ける栄養素を一緒に組み合わせることで、効率を高める工夫をしましょう。

また、鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄は、レバーや肉類、魚類などに含まれており、効率よく鉄を補給できます。一方、非ヘム鉄は、野菜や豆類、穀類、海藻、卵などに含まれており、ヘム鉄よりも体内での吸収率は低いことが分かっていますが、動物性の食品と組み合わせると吸収率を高めることができます。

<効率よく鉄を摂るために>

  • 【ヘム鉄】 豚レバー、鶏レバー、赤身の肉、カツオ、イワシ、ワカサギ、煮干しなど
  • 【非ヘム鉄】 ほうれん草、小松菜、ひじき、豆腐、のり、切り干し大根、アサリ、干しブドウなど

<鉄と一緒に食べるとよいもの>

  • 少量の肉と魚を一緒に食べて吸収をよくする……肉類、魚介類、牛乳・乳製品など
  • ビタミンCで吸収をよくする……ブロッコリー、ピーマン、菜の花、いちご、キウイ、グレープフルーツなど
  • ビタミンB群で造血を助ける……キャベツ、にら、サバ、干ししいたけ、豆類、胚芽米など
  • 葉酸(ビタミンB群の一つ)で造血を助ける……カキ、タラ、レバー、卵黄、さつまいも、牛乳、ほうれん草など

<貧血を引き起こすNG習慣>

□ 朝は眠いからいつも朝食抜き

□ 昼食は麺類やカレーライスなどの単品

□ 間食にスナック菓子やケーキを食べる

□ 食べ物の好き嫌いが激しい

□ 過度なダイエットを繰り返している

□ ファストフードが大好き

まとめ

成人女性の10人に1人は貧血といわれています。鉄分が不足すると疲れやだるさ、肩こりなどの症状が起こるだけでなく、顔色が悪い、シミやシワが増えるなど美容にも悪影響を及ぼします。

鉄は体内への吸収率が10%ほどと悪く、効率よく鉄を補給するには鉄だけでなく、鉄の吸収や造血を助ける栄養素を一緒に摂ることが大切です。また、朝食を抜いたり、過度なダイエットを繰り返したりすると貧血が起こりやすくなるため注意が必要です。

また、薬局やドラッグストアなどでは、鉄分を配合した医薬品やサプリメント、ドリンク剤などが市販されていますので、利用するのもよいでしょう。

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AUTHOR

小笠原まさひろ 薬剤師

小笠原まさひろ

東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。



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