この春は、心身の揺らぎがきつい!「頑張らない」の実践で心を軽く【連載:アラカン女医のひとりごと】
医師になってから、ふと気が付けば30年以上。奮闘してきた子育ても、息子たちが大学生となってひと段落したら、もう還暦が目の前に!本連載では、私が精神科医、産業医として働きながら、一人の働く女性として感じたこと、学ばせていただいたことを、エッセイにしてお伝えしたいと思います。
精神科医のなかでは、春は患者さんの調子が悪化しやすいことで有名です。3月~4月の「木の芽どき」は、気温差が激しく天候不順で気圧も変わりやすい。そのため、身体の調子をととのえている自律神経系が乱れやすくなることが影響しているとされています。また、心の病を持つ人だけでなく、今まで健康だった人も、調子を崩しやすくなるのが、この時期の特徴。子供の卒業や入学、自分自身や家族の異動といった、社会的な変化によるストレスも高まりやすく、自律神経系にとってはダブルパンチとなってしまうからです。なんとなく気持ちが不安定になりやすい、何気ないことにもイラっとしたり、些細なことに傷つきやすくなったり。花粉症もあいまって、身体がだるくてしゃっきりしない。…そんな心や身体の揺らぎを感じる人が一気に増える季節が、春なのです。
実は私自身も、この春は、気持ちの揺らぎが、例年に増して強いなと感じています。とくに4月の半ばあたりから、なんとなく体と心に軽い「気だるさ」を感じやすい。日常生活にはほぼ支障がない程度の「だるさ」ではあるものの、心にも体にもエンジンがかかりにくいなあと自覚しています。仕事に対しては、「よっしゃ、今日も頑張るぞ~」という気力が湧きにくい。家事をするのも、普段より「あ~めんどくさいなあ」と感じて、ため息が出てしまう。仕事の取るに足らないほどのミスであっても、家に帰ってから「しまったな」「大丈夫かなあ」と妙に気になってしまう。で、そんなときに限って、若いころの失敗や過去の嫌なことを、ふと思い出してしまったりして、自分のことが猛烈に嫌になってしまい…と、ネガティブな気持ちの連鎖にはまりがちに。「お、この春は、けっこう揺らぎがキツいな」と、自分でも驚いている始末です。
そういえば、この春は例年より寒さが厳しくて桜の開花が遅れたし、ようやく桜が咲いたら咲いたで、気温が一足飛びに急上昇。かと思いきや、夕方から雨が降って肌寒くなる日も多くて、服装の調整がとても難しく、身体が冷えたり火照ったり体温調整がとても大変だった。加えて、私事としては週1で契約していたパート先の病院を辞めて、新たな勤務先に変更するという仕事上のプチ変化を経験。これがけっこう影響しているのかもしれないなと自己分析しています。私は、いわゆるフリーランスの医師で、医療機関での非常勤勤務と、複数の企業で産業医を掛け持ちして働いている個人事業主のようなもの。そのうちの一つの勤務先を変更しただけだから、そんなに大きな変化ではないと考えていたのが甘かったのかもしれない。
思い返してみれば、2月から3月はお世話になった前勤務先を辞めることを本決定し、周りに伝えて申し送りをするという退職の一連の手続きの過程でも、かなりの逡巡や気遣いが必要だった。それと平行して新しい勤務先を探すために、転職エージェントに連絡して、先方に面接に行って…と久々の緊張を味わいました。そして4月からスタートした新しい仕事と新しい仕事仲間に対しては、やはり相当の緊張と神経を使った気がします。幸いとても良い転職先だったので、自分の決断には間違いはなかったと4月後半に入って、ほっと安堵しているのですが。こうして振り返ると、週1の勤務の入れ替えといえども、自分でも気がつかないうちに、相当のエネルギーを費やしたんだなあと実感しています。
こうして私は、4月後半になって自覚しはじめた「揺らぎのきつさ」を、今はしっかりと受け止めて、ひたすら「無理しない」「頑張らない」を実践中。
「めんどくさい」や「どんよりダル重い」の悪化は、とにかく心身のイエローサインと心して、とにかく料理は最小限にして市販の総菜をフル活用し、その他の家事もできるだけ手抜きを敢行中。医師としての基本の仕事は手抜きするわけにはいかないけれど、それでもプラスαに何か頑張ることは控えて、ひたすらマイペースをキープ中。仕事が終わったら、できるだけさっさと帰宅して、ソファーでぐうたらする時間を増やして、のんびりと動画を視聴したり音楽を聴いたり。そうそう、こういう時にみる動画は、シリアス物を避けて、気持ちがほんわかほぐれるような明るさや楽しさを感じるものに限ると思う。いわゆる「後味の悪いもの」はNG。余計に気持ちがネガティブに傾きやすくなるから。
新しい映画やドラマはどんな展開になるか読めないので、私は過去に撮り貯めした映画やドラマを見返すことが多いです。ついさきほども、タイムトラベルで話題になったTVドラマ「不適切にほどがある」の感動回をみたばかり。先の朝ドラの「ブギウギ」の趣里さんの歌唱シーンの回なんかも、爽やかで良質なエネルギーをもらえるので、最近よく見返している。こうして後味の良い動画を視聴して、ブルーになりやすい気持ちをリフレッシュしたあとは、栄養バランスのとれた食事をキチンととって、しっかり睡眠をとり、ひたすら脳と体にエネルギーを送りこんでいます。で、この5月の連休は予定を入れずに、引き続き心と体を休息させて、春の疲れと緊張を癒すつもりです。私のように、この春の揺らぎがきついなと感じた方は、どうぞくれぐれも無理を重ねず、ご自身のケアを大切になさってくださいね。
AUTHOR
奥田弘美
精神科医、産業医(労働衛生コンサルタント)、執筆家 平成4年山口大学医学部卒業後、約30年間にわたり精神科医、産業医として日々、多職種の人達のメンタルケアや健康ケアにたずさわっている。またライフワークとして「より 良い生き方」をテーマに執筆も行っている。私生活では二人の息子が大学生となり、子離れ親離れを日々体感しつつ、還暦を目の前にして、来るシニア時代をいかに過ごそうかと思いめぐらす毎日。近著に「会社のしんどいをなくす本」(日経BP)、「不安と折り合いをつけてうまいこと老いる生き方」(すばる舎)など。
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