【男性学・ジャニーズファン男性の研究】から見える男性の生きづらさと「男らしさの呪縛」
昨今「男性の生きづらさ」に注目が集まっている。男性の生きづらさには様々な要素があるが、一つは「男性は感情を露わにしないもの」といったステレオタイプから、自分の内面の言語化に苦労することがある。東京工業大学大学院博士課程で、男性の弱さやジャニーズファン男性など、男性のジェンダーに関する研究を行っている小埜功貴さんに、ジャニーズファン男性の研究から見えた男性の生きづらさについて話を伺った。
男らしさの抑圧を感じていたことが男性学の研究につながった
——小埜さんが研究されている「男性学」とはどのような学問なのでしょうか。
社会学の中の学問の一つです。誕生した過程は、フェミニズムスタディーズ(日本語では女性学)と呼ばれる学問が、家父長制や男性社会による女性への差別について研究してきたのが最初です。そして、後に当事者としての男性が特権性を帯びた自身の男性性について内省しつつも、男性優位社会だからこそ男性が「強くあらねば」というプレッシャーによる生きづらさを抱えることが指摘され始めました。そのような背景から、ジェンダー学の視点で男らしさや男性の生きづらさに着目して研究を行っている学問です。
欧米諸国では、1973年のオイルショックの頃から男性を抑圧する雇用あり方や、男性は家族を養うべきという規範を振り返り始めていましたが、日本は減量経営を行い「男らしさ」で乗り切ってしまった。その後、1990年代のバブル崩壊によって男らしさや男性性を振り返ってみる働きかけがあり、メンズリブ※運動が行われ、「一家の大黒柱」「弱音を吐いてはいけない」などの男らしさを見直す動きが出てきました。
※メンズリブ:男性の性規範からの解放を求める思想や運動
——小埜さんはなぜ男性学を研究しているのでしょうか。
幼少期からずっとジャニーズが好きだったのですが、男性ジャニーズファンは少数で、高校生のときにジャニーズが好きなことを明かしたら「男なのにジャニーズが好きなの?」とからかわれて。そのような経験から「男のくせに」や「男なのに」という言葉にずっと引っかかりを覚えていました。
ジャニーズ以外にも、幼少の頃は仮面ライダーよりもディズニーを好み、色も青とか黒よりもパステルカラーが好きで、社会的に「男らしい」と定義されることから外れている部分が色々とあったので、何かとモヤモヤすることはずっとありました。
大学時代には学費のためにレンタル彼氏のバイトをしていたのですが、そのことも「男らしさ」への違和感が色濃くなった出来事です。でも、最初から研究者を目指そうと思っていたわけではなく、就活期の1年程度で自分の長期的なキャリアを決めるのは無理だと思ったので、大学卒業後に1年ブランクを設け、その期間に本を読んでいるうちにジェンダーの本に出会ったことが今に繋がっています。
——男性ジャニーズファンが身近にいなくてファン像がイメージできないので、小埜さんがどういう気持ちでジャニーズを推してきたかを伺ってもよろしいでしょうか。
僕は憧れが大きいです。4歳のときに、SMAPを好きになったのが始まりで、今は事務所担(ジャニーズ事務所全体的に好き)です。SMAPやV6に対しては、「大人の男性」として、自分にない部分への尊敬があります。
一方で、僕自身が「男らしい」とされる装いを好まなかったので、SixTONESの京本大我くんや元King&Princeの岩橋玄樹くんなど、同世代で中性的な美を持つ人への憧れもあります。金髪を真似してみたり、同じような体型になりたいと思って鍛えたり……。男性ファンからは「○○くんのようになりたい」という気持ちによって、容姿を真似する話を聞くことも多いです。
調査を行う中で、ジャニーズを見ているときの感情を「自分の中の女の子の部分が出てきている」と表現されたかたもいました。「男性ジャニーズファンだからこう」と決まっているわけではなく、推し方も一人ひとり違うと思います。
どうやって「男性の生きづらさ」と向き合うか
——修士課程では、メンズリブの場や男性ジャニーズファンを対象に「『男らしさ』が若年男性をどのように苦しめて、男性達はどのようにして向き合ってきたのか?」をテーマに調査を行ったのですよね。そもそもメンズリブとはどのような場なのでしょうか。
メンズリブとは男性同士で集まって自分の弱さや悩みを打ち明ける場です。参加者には男らしさの社会規範に何かしらの違和感を持っている人が多いですね。僕自身も研究者かつ一参加者としてメンズリブに参加しているのですが、たとえば先日は「障害と性」をテーマに、手帳を持つような障害に限らず、自分が社会に対して障壁だと感じていることを起点に話をしました。
メンズリブでは人の話を遮らない、問い詰めないなどのグランドルールがあります。そのため、学校や会社では馬鹿にされたり重いと思われたりするのではと思って話せないようなことも安心して話せるんですよね。
修士の研究においては、メンズリブの場では「男らしさがしんどい」「男らしさに乗れない自分がいる」といった悩みを聞きました。その向き合い方や克服方法として、男らしさを手放そうとするのではなく、他者を貶したりイジったりする空気の強いコミュニティの中で、自分は強者側にはなれないので、イジられキャラに回ってコミュニティ内で男らしさに順応しようとする方法でサバイブしようとします。
それで一応乗り越えてきてはいるものの、苦しみを感じていて、本来は男らしさに順応したコミュニケーションを取りたいわけではないけれども、「イジる—イジられる」関係でしかいられないといった悩みの声が聞こえてきました。
——男らしさの生きづらさを「男らしさ」でカバーしている人が多いのですね。男性ジャニーズファンはいかがでしたか。
男性ジャニーズファンにおいては、傾向が異なりました。特徴的なのは、同性である男性アイドルに対して「かわいい」と評価している点です。男性が男性に「カッコいい」と評価することはあっても、成人男性に対して「かわいい」と評価していることは珍しいですよね。
では、どういう部分に対してかわいいと言っているのかと言いますと、たとえば、Hey! Say! JUMPの山田涼介くんは、LIVEではかっこいいパフォーマンスを見せる一方で、バラエティ番組やYouTubeでは「カエルが苦手で逃げてしまう」など「男らしさ」に当てはまらない側面も見られ、それがファンから「男らしくないから嫌」ではなく「かわいい」と評価されています。
一般社会で「男らしくない」とマイナスに見られてしまう部分をポジティブに評価される価値観がジャニーズにはあって、ジャニーズアイドルが「男らしさ」とは違う、自分の特徴を活かした素敵な側面を見せてくれることによって、男性ファンも「画一的な男らしさに当てはまらなくても、失敗したり弱い面があったりしてもいいんだ」とエンパワーされている構造があります。
失敗や弱さ以外にも、たとえば、Sexy Zoneの松島聡くんや、なにわ男子の大西流星くんなど、メイク道具を紹介するような人も出てきて。ジャニーズアイドルもだんだんと多様化して、ロールモデルが増えているとも感じます。
——メンズリブでは男性同士で弱さや悩みを打ち明けることをしていて、それは男性同士の連帯であるのかと思うのですが、男性ジャニーズファン同士で仲良くなるなど連帯することはあるのでしょうか。
それが調査から見ても全くと言っていいほどなくて……。調査のとき、僕もジャニーズファンなので話は盛り上がるのですが、「男性同士で繋がることはあるんですか?」と聞いても「あ~そういえばないですね」など寂しさを感じていないようなトーンでの返事が多いですね。
僕自身、ジャニーズファンであることをオープンにすると偏見の眼差しを向けられることもありましたし、ジャニーズファンの男性に対する偏見は今でもあると感じます。なので、学校や会社ではオープンにできず、静かに一人で楽しむことに慣れてしまっている男性が多いのかもしれないですね。
また、これも男らしさの抑圧と関連している部分ではありますが、自分が何がどう好きなのかを言語化して伝える習慣が女性に比べて少ないので、一人で楽しむ傾向も強いのだと思います。
※後編では小埜さんが経験した「レンタル彼氏」の話を伺っています。
【プロフィール】
小埜功貴(おの・こうき)
1996年生まれ。東京工業大学大学院 博士後期課程。JST次世代研究者挑戦的研究プログラム採択生。RA for Dr. Christopher Hepburn at the University of Southern California. 研究領域は社会学・男性学。男性性によってひた隠しにされる「弱さ」をテーマにメンズリブや男性ジャニーズファンについての研究を行なっている。
Twitter:@KoKi_OnO_
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く