ビューティのスタンダードを書き換える|"夢売るトランスジェンダー"ニキータ・ドラゴン
昨今のあらゆる方面で「ジェンダーレス」「ダイバーシティ」等々が叫ばれて久しい中、ビューティ業界で大きな注目を集めるひとりのトランスジェンダーがいる。2019年にローンチしたブランド「Dragun Beauty」のファウンダーであり、モデルのニキータ・ドラゴンだ。そんな彼女がトランスジェンダーとしてのプライドとともに、ブランドに込めた思いとは。
「化粧品業界にはブランドが溢れてる。すでに飽和状態だったから、本当は自分のブランドを立ち上げるつもりはありませんでした。私がSNSに力を入れ始めた2013年あたりから、有名インフルエンサーたちがビッグブランドとのコラボラインのリリースラッシュが続く中、私も相当な数のブランドから声をかけられていました。でも、私自身はやるならただ名前を冠した商品を出すだけなら意味がないから、他と違うことをしたいとずっと思いました」
2019年、「Dragun Beauty」のファウンダー、ニキータ・ドラゴンは自身のブランドのローンチに際し、こう米メディアに語った。
メキシコとヴェトナムの血を引くエキゾチックなルックスのニキータは、1996年ベルギー生まれの米ヴァージニア州育ち。当初メイクアップアーティスト兼モデルとして活動していた彼女が注目を集めたのは、ユーチューブチャンネルを開設し、懇切丁寧なメイクアップチュートリアルをリリースした2014年のこと。率直な語り口とそのコケティッシュな美貌もあいまって、世界中からアクセスが殺到し、瞬く間にトップユーチューバーの仲間入りを果たした。
現在では「Dragun Beauty」を短期間でトップブランドへと急成長させた実業家として経済誌「フォーブス」等がこぞって取り上げるなど、その敏腕ぶりにジャンルを超え各方面で注目を集めている。
中でも世界に衝撃を与えたのは、自身がトランスジェンダーであることを公表したユーチューブでの告白だ。そして2018年には完全に“女性”に至るまでのプロセスを完了し、その一部始終を全て包み隠さず自身のチャンネルやSNSにて公開している。
自らの“変身”をインスタでも公表。最近は4回目の鼻の整形手術を受けたとのこと。こんな正直なところが、彼女のスターたる所以だ。
「なりたい自分になること」こそ真のファンタジー
そんな彼女の人気を不動のものにしたのは2018年。あのヴィクトリアズ・シークレット初のトランスジェンダーの“ヴィクシー・エンジェル”に抜擢されてからだ。
「私はベルギーで生まれたけれど、育ったのはヴァージニア。高校のチアリーディング部に入っていた男の子は私だけでした。その頃の私の夢は、女性のポップスターになることだった。学校にはよく女性用の短パンにコンバットブーツを履いて、アイラッシュをつけて、どこまでも自分のスタイルを貫きました。男の子たちから“お前はゲイだ”とよくからかわれていましたが、一方で“有名人になりそう”とも言われていました。でも今の私はご覧の通り。分かるでしょう?トランスジェンダーとして夢を売っています(笑)」。
トランスジェンダーであることを逆手に取ったクールなアプローチが功を奏して、今では彼女の手がける「Dragun Beauty」は好調なセールスを記録しているという。世界中のあらゆる業界が“ジェンダーレス”を謳い、ダイバーシティとインクルージョンを推進する中、ニキータはそれを大きく後押しする存在であることは言うまでもない。そんな彼女はこんなメッセージを送っている。
「なりたい自分を自由に追求することこそが真のファンタジー。だから誰もが皆自分らしく、自分だけの夢を追うべきだと思います」。
AUTHOR
横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」等でビューティー記事や海外セレブリティの社会問題への取り組みに関するインタビュー記事等を執筆中。
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