前歯が欠けて思った「"美しい"って、"醜い"って何だろう?」|チョーヒカルの#とびきり自分論

 前歯が欠けて思った「"美しい"って、"醜い"って何だろう?」|チョーヒカルの#とびきり自分論
Getty Images/Cho Hikaru
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ベッドで憂鬱になりながら、アイフォンのカメラを起動して自分の顔を見る。大きく笑うと見事に歯が欠けている。…ん?…あれ、でもなんかかわいいのでは?

150万円という数字の衝撃で頭がおかしくなったのか、治らない可能性を考えて脳が保身のために自分を欺き出したのか、インカメラに映ったレレレのおじさんの笑顔は前歯があった時よりあどけなく可愛らしく見える。勢いで友人にビデオ電話をかけ、折れた歯を見せる。当たり前だが第一声は「かわいいね!」ではなく「いや、え?なんで?大丈夫?」だった。

「かくかくしかじかで折れてしまったんだけど、なんかかわいい気がしてきて」

「いや…そんなんじゃ仕事の面接落ちるよ?高くても仕方ないから直しなよ」

あはは、そうだよね、と答えながら、なぜ歯が美しくまっすぐ並んでいることはこんなにも重要に感じるのだろうかと疑問が湧いた。なぜ歯が命なんて言われるのだろう。他に健康な歯が何十本も残っていて、慣れれば噛むことにも苦労しない。命にも関わらない。正直ちょっとかわいい気もする。それでもどこかで絶対にいつか直さないと、と思ってしまう。直せるという選択肢がある時点で恵まれているのだろうけれど。

ちなみにこのあとセカンドオピニオンを聞きに行った歯医者で私の歯は無事に安く治せることになった。別に美しいものは美しくていい。でも一体どこでその価値観はできているのか。欠けた前歯に聞かれている気がした。

日本でかわいいとされる八重歯はアメリカでは「醜い」と思われるらしい。前歯が一本かけているのが美しいとされる時代も近々来てはくれないだろうか。

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チョーヒカル

チョーヒカル

1993年東京都生まれ。2016年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。体や物にリアルなペイントをする作品で注目され、衣服やCDジャケットのデザイン、イラストレーション、立体、映像作品なども手がける。アムネスティ・インターナショナルや企業などとのコラボレーション多数。国内外で個展も開催。著書に『SUPER FLASH GIRLS 超閃光ガールズ』『ストレンジ・ファニー・ラブ』『絶滅生物図誌』『じゃない!』がある。



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