介護者のストレスを和らげるヨガのプラクティス
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!ヨガセラピストであるパメラ・ストークス・エグルストンの生活は、夫の介護を担うようになってから完全に変わった。混沌とした日々の中、落ち着きを得るために、彼女はプラクティスを再開した。ここで彼女は、自身のストーリーと、強さと前進していくための回復力を得たシークエンスを紹介している。
介護者のストレスを和らげるヨガのプラクティス
電話がかかってきたのは、アメリカ軍の予備役としてイラクで駐屯中だった夫、チャールズと連絡を取って3日後のことだった。電話を取ったとき、胃が強く縮むような不快感が走った。電話はチャールズからだった。彼は震える声でゆっくりと、夜間任務中に即席爆発装置にぶつかり、命を落としかけたと言った。彼はドイツの病院におり、ワシントンDCのウォルター・リード陸軍病院に移送されるところだった。16年後の今、ウォルター・リード病院での3年半にわたる入院と60回以上の手術を経て、彼は今もここにいる。私もまだここにい
る。ただ今の私は、昔と同じ人物ではない。私は彼の介護者なのだ。
けがをした戦士を介護するためにできた準備など、何もなかったと思う。とはいっても、何年も前に母を看病した経験は、介護によくある困難に向き合う手助けにはなっている。母は50代はじめに原因不明の多臓器疾患(サルコイドーシス)にかかり、それは肺の疾患へと進行した。母は私が25歳の時に亡くなった。
数年間にわたる母の看病とそれに続いたチャールズの介護中、私はずっと、人生はいつか普通で完全なものになる、というふりをしながら、彼らの病気やけがと向き合っていた。だが、私が学んだのは「普通」の生活など存在しないということだ。人生があるというだけなのだ。
愛する人の介護は、面接を受けて得るような仕事ではない。パートナーや親、子供などの親しい存在がヘルプを必要としたときに、私たちに課されるものなのだ。混乱と突然の生活の変化は私たちを圧倒し、孤立させる。すると、私たちは疲れ切り、不安になって落ち込み、してあげたいと心から思うようなケアをすることができなくなる。
だが、ヨガと瞑想にはそういった重荷を軽減する可能性があることが、研究によって示されている。2013年に『Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine』誌に発表された研究では、アルツハイマー病患者の家族の介護者が8週間のヨガと瞑想プログラム(アーサナ25分、プラーナヤーマ25分、慈しみの瞑想13分を週3回)を終えた後、不安と落ち込みが51パーセントほど軽減し、唾液中のコルチゾールというストレスホルモンのレベルが少し下がったことが報告されている。逆に、同期間中プログラムに参加しなかったグループでは、不安と落ち込みが10パーセント近く上昇している。
このような結果は、すでに定期的にプラクティスをしている人にとっては、驚くようなことではないだろう。だが、それが役立つと知っているだけでは十分ではない。重要なのは日々のプラクティスを「優先する」ことを学ぶことなのだ。
当たり前のように聞こえるかもしれない。だが、トラウマに突然襲われたり、時間とともに忍び寄ってきたりしてサバイバルモードが発動したときには、それ以外のほぼすべてのことを諦めざるをえなくなる。私は、チャールズがけがをする前は、ヨガのプラクティスをしていた。だが、彼のPTSDと外傷性脳損傷、そのほかの戦争で受けた傷に集中するあまり、自分をケアすることをやめてしまった。
それは私たち両方にとってよくないことだった。爆発しそうな感情がエスカレートしてエネルギーが尽き果て、私は自分がストレスでゆっくりと殺されていることに気づいた。どこかで忘れてしまってはいたけれど、ストレスを緩和する方法は、自分にはわかっていた。だから私は、親しい友人たちと素晴らしいヨガティーチャーたちの助けを借りてヨガを再開した。すると、母を看病した最初の経験と折り合いをつけながら、チャールズとの境遇のなかをよりうまく進んでいけるようになった。自分のフローを見つけることで中枢神経系が落ち着き、さらなるセルフケアの形を模索する力になった。自分自身にフォーカスし、意識に身をゆだねることで、自分を慈しむ気持ちも増した。その結果、より相手を思いやり、愛情のある介護者になるために必要なスペースをつくり出すことができたのだ。
このプラクティスは私自身がよく行うものだ。呼吸法から始まり、交感神経(闘争・逃走反応を引き起こす)を落ち着かせ、副交感神経(休息と消化を促す)を優位にしてプラーナ(生命力)の流れをサポートし、感情を自分でコントロールする感覚を取り戻す手助けとなる。いくつかの穏やかなポーズで動いて内側の自己と再びつながり、共感と社会とのつながりを強める瞑想を行って終わっていく。セッションの最後には、休息をもたらすヨガニードラ(ヨガの睡眠)を行う。さっそくやってみよう。
セルフケアのためのシークエンス
このプラクティスは、自分をケアし、感情、思考、感覚などを整理するために行うといい。だが、最も大切なのは、湧き起こる気持ちの動きを止めないことだ。必要ならば泣き、笑いたければ笑おう。すると、自分を失うことなく、愛する人とともにい続けるための回復力が培われる。たとえそれが不快なものであっても、あらゆる気持ちを感じ、自分のなかで動かしていこう。これはセルフケアを行い、育むための重要なステップなのだ。
1 マインドフルな呼吸
背もたれに背中を軽くつけ、楽な姿勢で椅子に座る。手のひらを太腿にそっとおき、床についている足裏を感じる。意識を内側の呼吸とその自然なパターンに注意を向ける。吸う息と吐く息のペースに気づく。呼吸と呼吸の間の空白を見つめる。足を床に預けながら、大地に触れているのをイメージしよう。自分の呼吸の様子を観察する。浅いか、短いか、深いか、長いか。それを変えようとせず、ただ自然な呼吸に注意を向けていこう。
2 ディルガ プラーナヤーマ(3つのパートの呼吸)
片方の手を腹部に、もう一方を心臓のところにおく。胸に呼吸を送り込むことに集中する。息を吸うときに胸への呼吸を意識し、吐きながら呼吸のプラーナをつたって、胸のスペースに愛情あふれるエネルギーを送り込むようイメージしよう。7回繰り返す。その後、腹部へ呼吸を送ることに集中しながらもう7回行う。
3 パリヴルッタスカーサナ(座位のねじり)
椅子からゆっくり離れ、マットの上に立つ。ゆっくりと膝を曲げ、手をマットにつけて四つん這いに入る。正座になり、両手を右側の股関節のほうに持っていって体を支え、両足を前方に真っすぐに投げ出す。足をクロスしてスカーサナ(安楽座)に入る。息を吸い、両腕を中央から耳の脇に持っていき、真っすぐに伸ばす。息を吐いてゆっくりと左側へねじり、右手を左膝、左腕を背中の仙骨のそばまで持っていく。このまま3回呼吸する。息を吸って正面に戻り、両腕を中央から耳の脇に引き上げる。息を吐き、右にねじり、左手を右膝に、右腕を先ほどのように背中へ持っていく。7回繰り返す。
4 パールシュヴァスカーサナ(サイドベンドの安楽座)
背筋を伸ばして座り、肩の力を抜く。息を吸って両腕を前から上へ伸ばす。息を吐き、左手を下げて左股関節の脇におく。息を吸って、頭頂を引き上げ、仙骨と臀部を床にしっかりと下ろしながら、上体を伸ばす。大地とのつながりを感じる。息を吐いて、右の体側に呼吸を送りながら左のほうに体を倒す。3~5呼吸ホールドする。息を吸って体を起こし、息を吐いて右腕を下ろす。腕を変えて同様に行う。
5 パスチモッターナーサナ(座位の前屈)
足を前に真っすぐに伸ばす。背骨を長く、上体を伸ばして座る。頭頂を上へと伸ばし、臀部はしっかりと床を押す。息を吸って大地とつながり、吐いて腕を上げる。吸って上体をもう少し引き伸ばし、吐いて、背骨を長くしたまま、胸から太腿までの距離の3分の1ほど体を前に倒す。 息を吸って体を起こし、背骨を伸ばす。息を吐き、太腿までの距離の3分の2ぐらいまで体を前に倒す。息を吸って、もとの座った姿勢に戻り、吐いて、完全な前屈に入り、手はすね、足、あるいは床に触れる。3~5呼吸ホールドする。
6 ウッティターマルジャリャーサナ(バランスの猫のポーズ)
膝を腰、手首は肩の真下に持っていき、四つん這いになる。息を吸って大地とつながり、吐いて左の脚と右手を引き上げ、床と平行に伸ばす。5呼吸ホールドする。息を吐いてポーズを解き、四つん這いに戻る。反対側でも同様に行う。
7 アドームカシュヴァーナーサナ(下向きの犬のポーズ)
四つん這いになり、手をマットの前のほうへ15cmほど動かす。指を大きく開き、手のひらを下にしっかりと押す。息を吐き、つま先を返し、膝を床から引き上げる。腰を天井のほうへ引き上げ、膝をロックしないように脚を真っすぐにしていく。体全体を伸ばし、広げ続ける。床から体を引き離すように手足を押し、腰を上げて背骨を伸ばす。かかとと手のひらは同じぐらいの強さで床を押す。目線はおへそに向け、頭はリラックスする。息を吐き、ゆっくりと四つん這いに戻る。
8 バーラーサナ(チャイルドポーズ)
今感じている前向きな感覚や感情に呼吸を集中し、思考の動きをゆるめる。足の親指を合わせ、楽にできるようなら、膝をマットと同じ幅まで広げる(股関節が硬い場合は膝の幅を狭くしておく)。腰をかかとの上に下ろす。息を吸い、体を起こして背骨を長く伸ばす。息を吐いて前に体を倒し、太腿の間に胴体を下ろす。額を大地につける。腕は前へ長く伸ばし、手のひらは下に向けておく。腰から脇の下まで長く伸ばし、指先からさらに引き伸ばす。肘をリラックスする。背中上部、肩、腰をゆるめる。腕と首を解放する。目を閉じ目線は内側へ。このままホールドし、数回呼吸する。
9 シャヴァーサナ(亡骸のポーズ)
まず、仰向けになって休む。ブランケットを丸め、首の下に置いて頸椎をサポートする。胴体と首は床と平行に。最大限のリラクセーションと穏やかさを得るために、腕は体の脇におく。安全で心地よいこのポジションは、背中や骨盤、脚の疲れと緊張を和らげて積極的に体を休めるフォームだ。体をゆるめ、臀部、肩甲骨、首、顔の硬さと緊張を解きながら、5~10分この姿勢を保とう。
10 メッタ(愛と慈しみ)瞑想
椅子に座るか、床の上にクッションを置いてスカーサナ(安楽座)をとる。心の奥底から感じている幸せ、健康、安らぎを求める気持ちとつながる。何が自分に幸せをもたらすか、ストーリーをつくる必要はない。そうではなく、自然に持っている望みとつながろう。「私が幸せで健康であり、安らいでいられますように」というマントラを自分に向かって声に出さずに唱え、自分自身の幸福のために心を開こうとする志を育む。ここで少し沈黙する。次に親しい友人を思い浮かべ、彼女たちに同じ志を向ける。それほど親しくない人、付き合うのが難しい人に対してこれを繰り返す。マントラを唱えるごとに、少しの間沈黙する。最後に世界全体とそこにいるすべての人を思い浮かべる。心の中に癒しを感じながらこの言葉をささげる。「私たちが幸せで、健康で、心地よく、安らいでいますように」。5~15分かけてこの瞑想を行おう。
11 ヨガニードラ(ヨガの睡眠)
ヨガニードラは、覚醒したまま精神、体、感情の完全なリラクセーションを促すパワフルなプラクティスだ。大地に根付く感覚と、穏やかさの両方がもたらされ、マインドの中の話し声は静まり、現在の瞬間への意識が目覚める。ヨガニードラは、不眠症の人の睡眠の質を改善するために用いることもできる。
すべての電気と電子機器のスイッチを切る。シャヴァーサナに戻る。片方の手を腹部に、反対の手を胸におく。まず、胸が上下に動くのを感じる。息を吸い、腹部が盛り上がり、肋骨が広がり、最後に胸が引き上がるのを感じながら、喉元まで吸い込む。息を吐き、呼吸が胸から抜けながら、肋骨が下がり、腹部が縮むのを感じる。腹部、肋骨、胸。胸、肋骨、腹部と心の中で言い、3カ所すべてを感じながらこの呼吸を続けよう。3回目に息を吸った後、息を止めて2カウント数え、胸から腹部まで潮の流れのように吐き出す。呼吸だけに集中しよう。このサイクルで最後に呼吸をした後、完全に息を吐き切り、自然な呼吸に戻る。穏やかさと安らぎ、安定を感じよう。
内側の完全な静けさを感じながら、体に意識を集中する。目を軽く閉じる。頭頂からつま先まで意識を行き渡らせ、オームというマントラを心の中で唱える。完全な静けさの中にいながら、体全体を完全に意識する。オームを繰り返す。時間をかけて観察を続ける。この時にサンカルパ(アファメーション・肯定的な宣言)を表明してもいい。これは、私は目覚めリラックスしている、というような、短くポジティブで、わかりやすい言葉を使った表現にする。その瞬間、自然に心の中に生まれてくるようなものを選ぶといい。完全に覚醒した状態で、強く、言葉を感じながら3回繰り返す。このサンカルパは自分のヨガニードラのプラクティスの目的を知らせ、変革と穏やかさ、癒しをもたらすようなものであるといい。
ここから、再び自分の呼吸に気づく。鼻孔から出たり入ったりしている呼吸の動きに注意を向ける。瞬間ごとに完全な意識を向け、出たり入ったりする呼吸に集中しながら、27から1まで逆から数えていこう。途中でわからなくなったら、もう一度27から数えなおす。1までいったら数えるのは終わりだ。ここから、いくつかの言葉について、感覚、感情、想像力、意識を用いながら、マインドの中で思い描こう。火のついたロウソクをイメージするところから始め、赤いバラ、雷雨、満月、深い森、ビーチに砕ける波、夕焼けへ。サンカルパに戻り、3回繰り返す。
意識を部屋と呼吸に戻す。感覚を体全体で感じ取る。頭頂とつま先に気づく。心の中でオームを3回唱える。いつもと同じように、大地が自分を支えているのに気づく。滋養が送られるよう、ゆっくりと体を動かす。指、つま先、手、足をストレッチする。準備ができたら目を開けよう。
3つの簡単なリセット法
大好きな人とプラクティスしてみよう。
1.長く吐く呼吸
パートナーに吸う息と吐く息を意識し、どちらが長いかを観察してもらう。2カウントで吸い、4カウントで吐く呼吸を一緒に3回繰り返そう。
2.パーソナルなマントラ
アファメーションはストレスを軽くする。私は完全だ。私は十分だ。という言葉を繰り返してみよう。一緒にでも、ひとりで唱えてもいい。
3.チンムドラ(意識を表す手の形)
指を動かしさえすれば、穏やかさをもたらす手の形にすることができる。人差し指の先と親指の先をつける。残りの3本の指は伸ばしておく。手のひらは下を向ける。このムドラにフォーカスしてマインドを静めよう。
指導● パメラ・ストークス・エグルストンは、Yoga2Sleepの設立者、Retreat to Spiritの共同設立者。C-IAYT、 E‐RYT500、YACEP、不眠症のための認知行動療法(CBT-I)、トラウマ・インフォームドヨガの資格を持つヨガセラピスト。詳しくはwww.yoga2sleep.comまで。
モデル●ジェシカ・ハーリングは、コロラド州デンバーにて、アライメントをベースにしたヨガを教え、指導者を養成。theonebeautifulyou.com
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