300名以上のヨガ講師を輩出「先頭に立ち道を切り開く姿を見せたい」山下恵さんの転身ストーリー

――指導者資格を取得後、どのように活動をスタートしましたか？

スクール卒業後、資格を取ったヨガスクールからオファーをいただき正社員として採用していただいたんです。入社後は、すぐに指導の機会に恵まれました。ヨガスクールに所属するメリットは、自分で集客をしなくてもクラスを開催でき、レッスン作りに集中できること。講師と事務方の両方を経験し、集客や運営の方法を勉強できたこともよかったです。あとは一緒に働く仲間がいて、壁にぶつかっても共にアイデアを出し合い乗り越えていける心強さ、もちろん安定した収入も魅力だと思いますよ。デメリットがあるとすれば、カリキュラムが決まっているため自分の価値観で物事を決められない、伝えたいことを自分のタイミングで発信できないことでしょうか。自分の伝えたいことが明確にあり、それを自由に発信したい人は、企業としての戦略面にフラストレーションを感じることがあるかもしれません。

集客はヨガスクールがサポートしてくれるとはいえ、「生徒さんを呼べるクラス作り」の努力は必要。入社当初、なかなか生徒さんが集まらない停滞期を経験しました。勉強のため人気がある先生のクラスに参加したところ、その先生は、シークエンスが変化に富んでいるわけでもないのにリピート率が高いんです。よく観察してみると、レッスンの前後や合間に生徒さんと密にコミュニケーションを取っていること気付きました。会話を通して自分の人生観を伝え、相手の悩みに寄り添い、ヨガの指導スキルだけでなく「人間的な魅力」が生徒さんを引き付けているんだと。プログラムを目新しくすれば人が集まる。そう思っていた自分の考え方と決定的に違う点に気付き、クラス作りの参考になりました。

――クラス作りに試行錯誤する中、生徒さんはヨガクラスに何を求めていると感じましたか？

クラスに来る生徒さんを見ていると、ポーズの習得以外に、プラスアルファの何かを求めているように感じました。その何かとは、職場や家庭でもない「第三のコミュニティ」への帰属です。何のしがらみもなく自分がフラットでいられる場所を。だからポーズを教えるだけでなく、肩書きや立場に左右されないその方のアイデンティティーを再確認できる場作りを心掛けています。私が生徒さんを苗字ではなく下の名前で呼ぶのは、そうした思いがあってのこと。結婚しても変わらない呼び名は、一個人を象徴するものだと思うから。

――ヨガスクールで講師デビューを果たした際、ブライダル業界での経験が助けになったことはありますか？また、新人時代に苦労したことは？

入社してすぐに任されたのが指導者養成コースの講師でした。振り返ると、私がヨガスクールを退社し独立するまでに約300名の受講生を指導しました。デビュー当時は受講生の多くが私より年上で、人生経験では私が若輩者です。ときにはヨガ以外にデリケートな人生相談を受けることもありました。ブライダルの仕事を経験しておいてよかったと感じるのは、相手を敬い、その方の価値観を否定せずアドバイスするコミュニケーション術が身に付いていたことです。

そうは言ってもヨガ歴の浅い私が、いきなり指導者養成コースを担当することに葛藤はありました。年上の生徒さんに気後れし、年齢やヨガ歴を公にしなかった時期もあるんですよ。受講者には「ありのままでいい」と言いながら私自身は自己肯定できず、「先生はこうあるべき」というイメージに縛られ、理想に追いつけない状況が苦しかったですね。自信は経験を積むことで身に付けるしかありません。数年経ってやっと背伸びをしないで受講者の前に立てるようになりましたが、本当の意味で「ありのまま」を手に入れたのは独立してフリーランスになってから。ヨガスクール時代があってこそ等身大の自分に辿り着けました。

※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。