大腸がんに便秘…腸のトラブルはなぜ起こる?腸内細菌研究の第一人者が生活習慣との関係を解説
日本人の大腸がんによる死亡数は増加し、女性は若い頃から便秘の悩みを抱える人が少なくありません。大腸がんと便秘の要因と対策、そして腸内細菌研究の最前線までを、うんち博士こと辨野義己先生にうかがいました。大腸の健康と向き合うための「腸年齢チェック」にもトライ!
男女とも患者数が上位の大腸がん、その理由とは?
厚生労働省が発表した2024年の部位別がん死亡数を見ると、大腸がんによる死亡数は男性では2位、女性では1位です。
要因の一つは内視鏡を使った大腸がん検診数が少ないことにあります。
腸管洗浄剤を服用する手間や身体的負担を要するため敬遠され、早期発見・早期治療の機会を逃しているのです。検診を受けたとしても、要精検の結果を放置してがんが進行してしまうケースがあります。
もう一つの要因は生活習慣です。
肉類中心による動物性脂肪の摂りすぎ、野菜が少ないことによる食物繊維不足、アルコールの過飲、運動不足が大腸がんの発症リスクを高めます。アメリカでは1920年以降に大腸がんの罹患数が増加しました。これは第一次世界大戦の戦勝国になって豊かな暮らしに変わり、車が普及して歩く機会が減り、冷蔵庫・冷凍庫の発展で肉の保存が可能になり、年間平均120~125㎏の肉を食べるようになったことなどが関係しています。そして食の欧米化が進んだ日本でも大腸がんの罹患率、死亡率ともに増加しているのが現状です。
なぜ動物性脂肪の摂りすぎが大腸がんの発症に起因するかというと、高脂肪食品を食べると脂肪を分解する胆汁が分泌され、その成分である胆汁酸の一部が回腸の末端で吸収されて肝臓に戻ります(胆汁の腸管循環)。しかし一部の胆汁酸は吸収されないまま大腸へ流れ、腸内細菌によって二次胆汁酸に変えられます。この二次胆汁酸は大腸がんの発症を促進する物質なので、動物性脂肪を多く摂る食生活を送っている人は注意が必要です。
大腸は病気の巣窟、「腸年齢」をチェックし大腸を健康の発信源に
大腸はもっとも病気の種類が多い臓器です。なぜなら善玉菌の代表格であるビフィズス菌は酸素を嫌うため大腸のなかは酸素がなく、窒素ガス、炭酸ガス、水素ガス、メタンガスなどが立ち込めて悪玉菌がつくり出す有害物質が繁殖しやすい環境だからです。病原菌を抑制する腸内細菌の活動が弱まると大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸血症など様々な病気を発症しやすくなります。
しかし以前は様々な病気に腸内細菌が関与するという意識はなく、大腸は腸管感染症や下痢といった感染症による病気がメインという認識でした。しかし、1980年初頭にオーストラリアの微生物学者バリー・マーシャルがピロリ菌を発見し、胃潰瘍は胃のなかに住んでいるピロリ菌が原因だと解明。これにより腸のおもな病気である大腸がんも腸細菌による慢性感染症であるという認識が広まりました。
21世紀になり、腸内細菌が糖尿病や高血圧、アルツハイマー型認知症にも関係していることがわかってきました。病気の発生源である大腸を健康の発信源に変えるには、野菜など食物繊維の多い食事と運動習慣の継続が鍵になります。次の「腸年齢チェック」で自分の腸年齢を知り、腸老化が進んでいる人は生活習慣の見直しを心がけましょう。
腸年齢チェック
□ 便秘気味(または時々下痢をする)
□ 大便が硬くて気持ちよく出ない
□ 大便の色が茶褐色や黒っぽい
□ おならや排便後の臭いがきつい
□ 野菜が嫌い、あまり食べない
□ 肉食や外食が多い
□ 牛乳や乳製品が苦手
□ 運動不足が気になる
□ 顔色が悪く、老けて見られる
□ ストレスをいつも感じる
腸年齢の判定基準 該当数が多いほど要注意!
0個:腸年齢は若くてバッチリ合格!
1〜2個:腸年齢は若いのですが、あてはまる項目をなくしましょう。
3〜5個:腸年齢=実年齢+10歳、腸年齢は実年齢より少し上。気を抜かないでいで生活の見直しを。
6〜8個:腸年齢=実年齢+20歳、腸年齢はがけっぷち。転げ落ちる寸前です。
9個以上:腸年齢=実年齢+30歳、腸年齢は老人状態。即快腸になる生活を始めて。
大腸疾患の原因に!? 便秘はタイプごとの対策を
医学的には排便が3日間なければ便秘です。私たちのアンケート調査では女性の48%が便秘に悩み、そのうち60%は一週間に1回しか排便しません。20代女性では2人に1人が便秘を抱えている状態です。便秘の原因は肉類、スナック、ファストフードなど食物繊維が足りない偏った食生活、運動不足、ストレス、過度なダイエットです。便秘が続くと腸内の有害物質が増えて腐敗が進み、それが大腸疾患の原因になります。
便秘には、直腸性便秘、食事性便秘、弛緩性便秘、痙攣性便秘があります。それぞれの特徴と気をつけたい生活習慣をチェック!
直腸性便秘
便意を我慢することで起こる便秘。大便が直腸に入ってくると直腸の壁が伸びて肛門まわりの筋肉がゆるむ「直腸肛門反射」により便意が起こります。しかし時間が経つとこの反射は消えて便意がなくなります。便意を我慢することを繰り返すと直腸の反応が低下して反射が弱まり便秘になるので、大便はしたいときにするように心がけて。
食事性便秘
食事の摂取量が少なく大腸の蠕動運動が低下して起こる便秘。過度なダイエット中も食事性便秘になりやすいので、大便の材料となる食物繊維を十分に摂り脂肪を減らしすぎないように。
弛緩性便秘
インナーマッスルの筋力が低下して排出力が弱まることで起こる便秘。腸の蠕動運動を支える腸腰筋、腸骨筋など体幹のインナーマッスルが衰えると、腹圧が低下して大便が出にくくなります。ウォーキング、足上げ運動、ヨガなどはインナーマッスルの強化に効果あり。
痙攣性便秘
ストレスなどで自律神経の働きが乱れることで起こる便秘。自律神経が乱れると腸管の筋肉が痙攣を起こして正常な蠕動運動ができず、腸管は狭くなりバナナ状ではなくコロコロとした丸い大便になります。自分なりのストレス発散法やヨガの呼吸法で自律神経のバランスを整える工夫を。
がん治療に光、未知の腸内細菌に挑む研究に期待
腸内細菌は1000種類以上あると思われますが、そのうちわかっているのは3~4割程度。未知の菌がたくさん存在し、わかっている菌でさえその働きは十分に解明されていません。がん研究センターと私たちは2025年7月に、がん免疫薬オブジーボと併用すると治療効果を高める腸内細菌「YB328」を発見し、イギリスの科学雑誌『Nature』に研究成果が掲載されました。現在、国内で特許裁定され、国際特許を申請中です。腸内細菌の研究が進むと、今まで以上に腸内環境をコントロールできて便秘や下痢、大腸疾患を発症させない理想的な腸内環境をつくれる未来が期待できます。
お話しを伺ったのは・・・辨野義己(べんのよしみ)先生
一般財団法人 辨野腸内フローラ研究所理事長。国立研究開発法人 理化学研究所名誉研究員。酪農学園大学獣医学部卒業、東京農工大学大学院獣医学専攻科を経て理化学研究所に入所。同研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長、同研究所辨野特別研究室特別招聘研究員などを経て現在に至り、長年にわたり長年にわたり腸内細菌の分類と生態に関する研究に取り組む。『大便革命 腐敗から発酵へ』(幻冬舎新書)、『最高の睡眠は腸活で手に入る』(扶桑社)などの著書や、講演活動も多数。
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