「ご飯を食べない」「むせる」「急に痩せた」認知症の家族に現れたら注意したい、低栄養・誤嚥のサイン
認知症の家族を介護していると、「最近、ご飯をあまり食べなくなった」「水を飲むとむせる」「少しずつ痩せてきた」と感じることがあります。年齢のせい、認知症が進んだから仕方がない、と考えてしまいがちですが、実はこれらは見過ごしてはいけないサインです。 高齢者では、食べる量が減ることから低栄養につながり、飲み込みの力が低下すると誤嚥を起こしやすくなります。そして、低栄養によって筋肉が減ると、さらに飲み込む力や体力が落ちるという悪循環に陥ることがあります。医師が解説します。
「食べない」の裏側にあるもの
特に認知症の方では、自分から「飲み込みにくい」「食べにくい」と訴えることが少なく、家族が普段の食事の様子から変化を見つけることが重要です。
認知症の方が食事を食べなくなったとき、「食欲がなくなった」と考えるだけでは不十分です。
例えば、食べ物を目の前にしても何から手をつければいいのか分からない、箸やスプーンの使い方が分からなくなった、食べ物を口に入れることを忘れてしまう、といったことがあります。
また、歯の痛みや入れ歯の不具合、口内炎、便秘、薬の副作用など、身体的な原因が隠れていることもあります。
「認知症だから食べない」と決めつけず、なぜ食べられなくなったのかを考えることが大切です。
「むせる」は飲み込みの力が落ちているサインかもしれない
食事中にむせることが増えたら、注意が必要です。
特に、水やお茶などのさらさらした液体を飲んだときにむせる場合は、飲み込むタイミングがうまく合わなくなっている可能性があります。
さらに、
・食事中に何度も咳をする
・食後に声が濡れたような声になる
・口の中に食べ物が残っている
・飲み込むまでに時間がかかる
・食後に痰が増える
といった変化も、嚥下機能の低下を疑うきっかけになります。
ただし、むせがないから誤嚥していないとは限りません。高齢者では、誤嚥しても強く咳き込まない「不顕性誤嚥」が起こることがあります。
誤嚥は肺炎につながることがある
誤嚥とは、食べ物や飲み物、唾液などが本来通る食道ではなく、気管のほうへ入り込むことです。
誤嚥を繰り返すと、誤嚥性肺炎につながることがあります。
例えば、食事のたびにむせるようになった高齢者が、その後「何となく元気がない」「微熱が続く」「痰が増えた」「食欲がさらに落ちた」という状態になった場合、誤嚥性肺炎が隠れている可能性があります。
高齢者では肺炎でも高熱が出ないことがあります。
「熱がないから大丈夫」ではなく、普段と比べて元気がない、食事量が急に減った、呼吸が苦しそう、といった変化にも注意してください。
「急に痩せた」は見逃してはいけない
体重の減少も重要なサインです。
例えば、これまで60kg前後だった人が、数か月の間に55kg、50kgと減ってきた場合、「年齢的に食が細くなった」と片づけてはいけません。
食事量が減っているだけでなく、飲み込みにくさ、認知機能の低下、口腔内の問題、消化器疾患、感染症、悪性腫瘍など、さまざまな原因が考えられます。
特に、本人が意図してダイエットしているわけでもないのに体重が減っている場合は、一度原因を確認することが大切です。
低栄養になると、さらに食べられなくなる
低栄養の怖いところは、食事量が減るだけで終わらないことです。
栄養が不足すると筋肉量が減少します。
歩くための筋肉だけではありません。食べ物を噛んだり、飲み込んだりするためにも筋肉が必要です。
そのため、低栄養によって全身の筋肉が落ちると、嚥下機能も低下し、さらに食べにくくなることがあります。
そして、食べられないからさらに痩せる。→痩せるから体力が落ちる。→体力が落ちるから、ますます食べられなくなる。
この悪循環に入ってしまうと、本人の力だけで改善することが難しくなります。
ケース①「最近、食事が遅くなった」80代女性
例えば、80代の女性で、以前は30分程度で食事を終えていたのに、最近は1時間近くかかるようになったとします。
家族は「食欲が落ちたのかな」と考えていました。
ところがよく見ると、口の中に食べ物を残したまま、なかなか飲み込めていませんでした。
このような場合、単純な食欲低下ではなく、噛む力や飲み込む力が低下している可能性があります。
食事に時間がかかるようになったこと自体が、重要な変化なのです。
ケース②「水を飲まなくなった」70代男性
別のケースでは、70代の男性が「最近、水分をあまり取らなくなった」ということがあります。
本人に聞いても「別に」と答えます。
しかし、よく観察すると、水やお茶を飲むときにむせるため、本人が無意識に飲むことを避けていたということがあります。
水分を取らなくなると脱水につながります。
高齢者では脱水をきっかけに、意識状態や認知機能が悪化して見えることもあります。
「水を飲まない」という小さな変化にも意味があるのです。
家族がチェックしてほしい5つの変化
認知症の方の食事を見るとき、私は「何をどれだけ食べたか」だけでなく、食べ方そのものを見てほしいと思います。
特に注意したいのは、
- 以前より食事量が明らかに減った
- 食事に時間がかかるようになった
- むせや咳が増えた
- 食後に痰や声の変化がある
- 体重が減ってきた
という変化です。
複数当てはまる場合には、単なる食欲低下として様子を見ないほうがよいでしょう。
「食べさせる」だけでは解決しない
食べないからといって、家族が一生懸命に食べさせようとすることがあります。
しかし、飲み込みの機能が低下している人に、無理に食べさせることはかえって危険になる場合があります。
食事の姿勢、食べ物の硬さやまとまりやすさ、ひと口の量、食べる速度などを見直す必要があります。
必要に応じて、医師、歯科医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士などに相談し、その人の嚥下機能に合った食事を考えることも大切です。
認知症の「進行」と決めつけない
認知症の方に起こる食事の変化は、認知症そのものによる場合もあります。
一方で、口腔内の問題、薬、感染症、脱水、低栄養、嚥下機能の低下など、別の原因が重なっていることもあります。
だからこそ、「認知症が進んだから食べなくなった」と簡単に決めつけないことが重要です。
「食べない」「むせる」「痩せる」という3つの変化は、それぞれ別々の問題に見えて、実はつながっていることがあります。
「食べられなくなった」は、体からのSOSかもしれない
認知症の方は、自分の体の変化をうまく言葉にできないことがあります。
だからこそ、家族が見るべきなのは「何を言ったか」だけではありません。
- 食べる量が減った。
- 食事に時間がかかるようになった。
- むせるようになった。
- 水分を取らなくなった。
- 体重が減った。
こうした日常の小さな変化を見逃さないことが大切です。
そして、急に食べられなくなった、繰り返しむせる、体重が減り続けている、発熱や痰、息苦しさなどがある場合には、早めに医療機関へ相談してください。
「年だから仕方ない」「認知症だから仕方ない」と思っていた変化の中に、治療や介入によって改善できる問題が隠れていることがあります。
認知症の介護では、本人の「食べたい」という気持ちを大切にしながら、安全に食べること、十分な栄養と水分を確保することを一緒に考えていくことが大切です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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