ご機嫌は、買えなかった。だから私は、手間をかけることにした|連載 #40代のリアル

ご機嫌は、買えなかった。だから私は、手間をかけることにした|連載 #40代のリアル
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井上敦子
井上敦子
2025-12-25

ご機嫌は、買えなかった。服を新しくしたり、ちょっと贅沢なものを食べたりすれば、その瞬間は確かに気分が上がる。でもしばらくすると、また元の場所に戻っている。自分のご機嫌を取ったつもりでも、どこか満たされない。その感じが、ずっと心に残っていた。

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自分のために、ちゃんと手をかける

たとえば、毎日のごはん。私は一人で食べることが多いけれど、自分のためのごはんほど、つい雑になってしまうのです。40代女性の多くは、家族のためにご飯を作ることも多いだろうから、温かいうちに食べられなかったり、立ったまま済ませてしまったり、「ちゃんと味わった記憶がない日」を重ねてきた人も多いのではないでしょうか。

私は最近、そんな食事の時間を、ほんの少しだけ丁寧に扱うようにしています。ランチョンマットを敷いて、箸置きに箸を置く。短い時間でも、ちゃんと座って、手を合わせて「いただきます」と言う。

料理も同じ。自分のためだけれど、あえて手間のかかる工程を省かない。切り方を揃えたり、出汁をとったり、盛り付けを少しだけ気にしてみたり・・・。効率だけを考えたら、しなくてもいいことを、あえてやってみています。

そうやって作ったものを口にすると、「ちゃんと扱われている」という感覚が、身体にじんわりと広がるのです。味が劇的に変わるわけじゃない。けれど、食べ終わったあとに残る満足感は、不思議と長く続く。自分を「ちゃんと扱ってあげる」ことが、そのまま自分を満たすことにつながっている気がしています。

ご機嫌を取る、という行為

ご機嫌を取ることは、自分を甘やかすことでも、わがままでもない。それは、自分を後回しにしないという行為だと思う。

夜、シャワーのあとに、少しだけ時間をかけて身体に触れる。ボディオイルの香りを確かめながら、急がずに手を動かす。それだけで、一日の終わりの感じが、少し豊かになるもの。

誰かに満たしてもらうのを待つのではなく、何かを買い足すのでもなく、自分の手で、自分に手間をかける。その積み重ねが、いちばん確実に、自分のご機嫌を取り戻してくれるような気がしています。

自分で自分を幸せにできる、という成熟

若い頃は、幸せは外からやってくるものだと思っていました。何かを手に入れたら、誰かに認められたら、もっと満たされるはずだと。でも今は、少し違う。幸せはたぶん、つくるもの。しかも、とても地味な方法で。

自分のために、ちゃんと時間を使う。自分のために、ちゃんと手を動かす。自分の感覚や感情を、後回しにしない。

そうやって自分で自分のご機嫌を取れるようになることは、誰かに依存しないということでもあり、人生を自分の足で歩いていくということでもあるのです。それって、精神的な成熟なのかな、と私は思っています。

ご機嫌は、買えなかった。でも、自分に手間をかけることで、自分でつくることはできる。最近の私は、そんなふうにして、自分を幸せにしています。

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