「避難=避難所に行く」とは限らない。避難所の実態と知っておくべき「避難」の考え方|専門家が解説
災害時に「避難しましょう」を言われると、近隣の指定の避難所へ行かなければ!と考えている人は少なくないと思います。「おうち防災」の専門家である奥村奈津美さんによると、「避難とは必ずしも避難所へ行く必要はない」とのことです。避難所の現状についても学んで備えましょう!※本記事は『大切な家族を守る「おうち防災」』(辰巳出版)より編集・抜粋しました。
■避難の考え方
「避難してください!」と言われると、どうしても「指定された避難場所、避難所へ行かなくては!」と思う方が大変多いのですが、避難は「難を避けること」、必ずしも避難所へ行く必要はないのです。
東京都に関してみると、避難所と福祉避難所の収容人数は合わせて320万人ほど(東京都防災ホームページ) 。東京都の住民1420万人(住民基本台帳)で計算すると、22%ほど。つまり5人に1人しか避難所に入れないという想定なのです。避難所に入れる人数は限られているのです。
2018年の西日本豪雨では、地域全体が被災し、多くの人が避難したことで、ある避難所では、一人ひとりのスペースが狭くなり、最後に避難した方は「横になるスペースはなく、体育座りで一晩を明かした」と伺いました。
そこで、内閣府なども、分散避難を呼びかけています。もちろん危険な場所にいる人は避難が必要ですが、その避難先も避難所とは限りません。自宅、親戚、友人宅、ホテルなども含まれます。自分にとって、そして何より子どもにとって安全な場所に避難することが大事です。それぞれの避難先のメリットとデメリットを知り、ベストな避難先を考えていきましょう。
■過去の災害から知る避難所の現状
日本の避難所は「難民キャンプ以下」 と言われているのをご存知でしょうか?国際的な難民や被災者に対する人道援助の最低基準、通称「スフィア基準」を下回っているのです。
そのような環境でも、避難所に避難するメリットはどんなことがあるでしょうか。相談できる人がいる・情報が集まる・時間とともに支援物資や支援ボランティアが充実してくる、などがあげられます。ただ、大規模災害ではボランティアの受け入れなどが難しくなるので、住民同士で協力して運営していくことも考えられます。
続いて、避難所のデメリットを見ていきましょう。前述した通り、収容人数が少なく、避難者が殺到すると、寝る場所もなくなります。過去の災害でも、新型コロナウイルス、インフルエンザやノロウイルスなどの感染が広がりました。
コロナ禍の複合災害となった令和2年7月豪雨の被災地では、避難所はパーテーションや段ボールベッドなどで区切られ、これまでの災害より早く、避難所の環境整備が進んでいるようにも感じました。ただ、完全なプライバシー空間はなく、音や臭いの問題なども解決していません。そして、全ての自治体がこのような段ボールベッドなどを備えているわけではありません。残念ながら能登半島地震では数週間、雑魚寝状態の避難所もありました。
そして、トイレの問題。被災によって避難所に宿泊した経験のある全国の男女を対象に実施されたアンケートによると、避難所で最も困ったことが「トイレ」と回答しています。 (ネオマーケティング調べ:下記図表参照)
十分な数がなく、長蛇の列になることも。また、すぐに汚くなります。避難している住民やボランティアなどで掃除をし、清潔さを心がける態勢を整えないと、使えないほど汚くなります。トイレに行くのを我慢、水分補給や食事を控えるようになり、健康にも影響が出てきます。熱中症やエコノミークラス症候群のリスクも高まります。
被災された方からは「ゆっくり気がねなく用をたすために早起きしてトイレに行った」「トイレを我慢して膀胱炎や便秘になった」というお話も伺いました。
そして、食事の問題。私が取材したある避難所は、おむすびやパンと飲み物、コンビニ弁当などでした。大規模災害では炊き出し支援なども行き渡らなくなり、栄養バランスに偏りが出てきます。また、食事の配膳にも時間がかかります。熊本地震の時、ある避難所は1回の食事をもらうのに2時間近く並ばなくてはいけませんでした。1日3回、それが何週間もですから、子ども連れで並ぶのは厳しいです。
子どもにとっても、避難所は過酷な環境です。夜泣きや騒いだりすると、 「うるさい」と注意されたり、たとえ「大丈夫よ」と言われても、肩身の狭い思いをすることが多く、子どもが自由に遊べる空間もないためストレスが溜まっていきます。
性犯罪や盗難などの報告もあります。私自身、避難所近くのボランティア拠点で盗難に遭いました。そういった様々なリスクがあることを知った上で、できれば、避難所以外の選択肢も事前に考えておくことが大切です。
【プロフィール】
奥村奈津美(おくむら・なつみ)
東京生まれ。立教大学社会学部社会学科卒業。
広島、仙台で地方局アナウンサーとして活動。その後、東京に戻りフリーアナウンサーに。
東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来14年間、全国の被災地を訪れ、取材や支援ボランティアに力を入れる。
防災教育推進協会講師、防災士、福祉防災認定コーチ、防災住宅研究所理事、危機管理教育研究所 災害対応コーディネーターなどとして防災活動に携わるとともに、環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信。
様々なメディアで「おうち防災」の専門家として出演。全国での講演実績多数。Instagram、YouTubeなどSNSでも発信中。一児の母。
●公式ホームページ
https://natsumiokumura.com/
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