【未来へ手渡すプロダクト】捨てられるはずの野菜からクレヨンへ。mizuiroが描く循環のものづくり〈前編〉

【未来へ手渡すプロダクト】捨てられるはずの野菜からクレヨンへ。mizuiroが描く循環のものづくり〈前編〉
林ゆり
林ゆり
2025-12-20

私たちの日常を支えてくれるモノは、一体どこからやってきて、どこへ向かうのでしょうか。「未来へ手渡すプロダクト」では、廃材や不要資源から新たな価値を生み出すアップサイクルのものづくりや、持続可能な循環を大切にする生産者の想いを紹介します。一つひとつのプロダクトに込められた理念やストーリーを通して、“買う”を単なる消費ではなく、次世代へ未来をつなぐ“応援”へ——。そんな想いから生まれた連載プロジェクトです。

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まだまだおいしく食べることができるのに、規格外などの理由から廃棄される野菜や果物を活用し、子どもたちに安心して使ってもらえる「クレヨン」を開発したのが、mizuiro株式会社の代表の木村尚子さんです。なぜ、クレヨンだったのか。前編では、「おやさいクレヨン」の誕生のきっかけをうかがいました。

おやさいクレヨン
画像提供/mizuziro

野菜の色で、親子で使えるものはなにかと考えクレヨンに

――廃棄される予定の野菜からクレヨンを作るという発想は、そもそもどこから生まれてきたのでしょうか?

木村尚子さん(以下 木村):きっかけは、料理をしているとき、野菜の鮮やかな色を改めて感じて、野菜の色で何か描いたらおいしそうと思い、最初は、インクを作ろうと思ったんです。ただ、うまく進まなかったこともあり、野菜の色で、親子で使えるものはなんだろうと考え、色鉛筆などもトライしましたが、小さい子どもが使うクレヨンにたどり着きました。現在は、東京を拠点にしていますが、もともと農業が盛んな青森に住んでいたので、特産品などで廃棄されている部分を使えるといいのではないかと、地元の野菜の端材や加工場の端材、キャベツの外葉などを使ってクレヨンを作ることからスタートしました。

――なかなか一般的なクレヨンでは見かけないやさしい色のクレヨンが多いですね。それに、野菜の名前がそのまま書かれているのもいいですね。ちなみに、最初にできたのは、どのクレヨンですか?

木村:最初は、にんじんでした。にんじんの色を、クレヨンを通して改めて見てもらうことで、五感を使った食育につながるといいなと考えています。

――クレヨンの色から野菜に興味を持ってもらえるとよいですよね。

木村:クレヨンから興味をもって、野菜に対して持っていた苦手なイメージが少し変わったり、親子の会話のきっかけになったらうれしいです。

おやさいクレヨン

――クレヨンの色に使われていることで自然と興味が向き、野菜へのイメージが変わるきっかけになるのですね。さまざまな野菜や果物の色を展開されていますが、野菜によっては、クレヨンの色にするのがむずかしいということもありますか?

木村:それは、あります。青森でスタートしたので、特産のりんごでクレヨンを作ろうとしましたが、むずかしかったですね。まず、材料を集めるのがむずかしかったです。というのも、りんごというと赤をイメージすると思いますが、赤いのは皮だけで、中身は白いんです。そのまま使ってしまうと、白っぽいクレヨンになります。すると、そのクレヨンを見て、りんごって思わないですよね。そこで、りんごの皮を使うわけですが、廃棄される皮だけを集めるのに苦労しました。そんな時に出会ったのが、りんごチップスを作っている工場です。チップス製造の過程で廃棄される皮を使って、りんごの赤いクレヨンを作ることに成功しました。

おやさいクレヨン
画像提供/mizuziro

――野菜や果物の色って、思い浮かべる色味と実際が異なることがあるのですね。

木村:かぼちゃの場合も、むずかしいですよね。皮は緑ですが、中は黄色ですし。「おやさいクレヨン」には、実際の野菜の粉末が練りこまれているため、皮は皮、中身は中身だけのように分けて、野菜のイメージ通りの色のクレヨンを作ることもあります。

子どもが使うものだから安心・安全なものだけを使用

――実際の野菜の粉末が練りこまれているということは、小さなお子さまが口に入れてしまったときも安心ですね。

木村:ベースは、米ぬかから採れるこめ油とライスワックスです。そこに、野菜や果物の粉末と、食品着色と同等レベルの顔料を、通常のクレヨンで使われる3分の1程度配合しています。さすがに、クレヨンをそのままモグモグ食べるというのはないとは思いますが、口に入れてしまったり舐めてしまった場合も、安全な成分で作られていますので、安心してお使いいただけます。

――野菜の粉末が入っているということは、香りも残っているのでしょうか?

木村:よくご質問をいただくのですが、粉末にする過程で香りは消えてしまうのでほとんど残りません。ただ例外的にネギの場合は、まれに強くこすると、香りがすることもあります。ただ、人間だと気づかないレベルの香りが残っているかもしれないと思ったことはありますよ。実は、キャベツ畑で広告用の写真撮影をしていたら、いもむしがクレヨンを食べに来たことがあったんです。なので、このクレヨンは、虫さんにはわかる程度の香りが残っていて、自然なお野菜に近いのかなと思いました。

――いもむしが、本物の野菜と間違えるなんて、ナチュラルなものでできている証でもありますね。さまざまな野菜や果物をクレヨンにされていますが、開発過程で大変に感じることはありますか?

木村:クレヨンなので、カラーバリエーションを増やすのが大変です。野菜や果物が原料だけに、緑と黄色ばかりになってしまうんです。茶色や黒、赤など、幅広いカラー展開のクレヨンを作るための規格外野菜の原料調達は、苦労が多いです。

――規格外で手に入る素材で、カラーバリエーションとなると、確かに圧倒的に緑が多くなりそうですね。

木村:そうなんです。そこで竹炭も活用して黒のクレヨンを作りました。竹は成長も早く、放置竹林被害もあるため、活用するにはもってこいの原料です。竹炭を食べる人もいらっしゃいますしね。野菜や果物ではありませんが、藍色も作っています。日本の藍は、ほとんどが使われているのですが、余った部分のみを使用しています。

――藍を含め、「おはなのクレヨン」もあるのですね。

木村:「おはなのクレヨン」は、大人向けに開発しました。季節によって多少色が変化します。実は、お花も意外に多く廃棄されています。お花屋さんで枯れてしまうというだけでなく、市場の段階で廃棄処分されています。そこで、お花農家さんから、廃棄するお花を仕入れて、「おはなのクレヨン」も作ることにしました。「おやさいクレヨン」もそうですが、ギフトとして選んでくださる人が多いですね。

おはなのクレヨン
画像提供/mizuziro

――大人の塗り絵も人気ですし、お花でできたクレヨンだと思うと、よりやさしく塗り絵ができそうな気がしました。さまざまな色がクレヨンになる中で、会社の名前は「mizuiro」ですが、水色には特別な思いがあるのでしょうか?

木村:水色は、野菜にない色だからです。もちろん、好きな色でもありますが。ふるさとである青森の海の色を思い浮かべる色でもあるため、「mizuiro」にしました。また、青森の特産がりんごなので、名刺の紙はりんごジュースの搾りかすで作っているんですよ。

東京に拠点を移しながらも、ふるさとへの思いを大切にした取り組みを続けている木村さん。オリジナルのクレヨンにとどまらず、多くの企業とのコラボや新たなアイテムへと、その活動は広がっています。後編では、新たなアイテムの開発や、持続可能な社会に向けた思いを紹介します。→記事はこちらから。

今回(vol.2)の「未来へ手渡すプロダクト」は…

mizuiro「規格外など廃棄される野菜とお米から生まれた、おやさいクレヨン」

形や大きさの違いなどを理由に廃棄されてしまう野菜や果物、お米の副産物を活用して作られたクレヨン。 実際の野菜や果物の粉末を使い、子どもが安心して使える素材にこだわって作られています。描くことを楽しみながら、食や環境、循環について自然と考えるきっかけを生み出す優しさの詰まったプロダクトです。

mizuiro  https://mizuiroinc.com/
おやさいクレヨン公式オンラインショップ  https://shop.mizuiroinc.com/

おやさいクレヨン
画像提供/mizuziro
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おやさいクレヨン
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おはなのクレヨン
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