（7）精神科の相談室にお電話してみる。親切なアドバイスにホッとするも……
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
突然の徘徊から10ヶ月が経った2024年の年末。認知症外来で、「精神科への転院」を医師に再度、言われることになりました。わたしは同行できなかったのですが、病院の許可を得た録音を聴くと、ケアマネジャーからの話もあったのか、「この数ヶ月、何も進んでいないじゃないですか」と、口調はかなり強めです。そこで、認知症外来でも名前の上がった近隣の精神病院のホームページを見たところ、診療にかかる前に相談室に電話ができるということでした。
いよいよ追い詰められた気分でお電話してみると、相談員の方は本当に親切で、父の状態について、30分以上、丁寧に話を聞いてくださいました。ただ、その病院では入院したうえでの投薬が原則なので、今の状態で精神科にかかると、数ヶ月入院することになり、退院時には車椅子になってしまう可能性が高いとのこと。そのときの父は、元気に歩けていて、易怒性以外は、しっかりしている部分も多い。認知症薬や漢方のおかげか、10日くらいは静かで、時折、発作のように、強い怒りが出るというものでした。精神科への通院すら嫌がるであろう人を無理やり入院させることも難しいし、まだ時期尚早かもしれないという結論になりました。ただ一度かかっておくと、異様な興奮が起こった際など、緊急時に入院しやすいので、年が明けたら通院してみてもよいかもしれないというアドバイスをいただき、電話を切りました。
周辺症状が強く出て、そのままでは認知症患者専用のグループホームや特別養護老人ホームなどの施設にも入居できない。そうした患者さんをまず精神科病院に入院させ、薬で落ち着かせることがよくあるというのも、このとき知ったことでした。とは言え、お電話したのはクリスマスでも、認知症外来で紹介状をもらったり、初診の予約を入れたりが年内は難しい。年明けは2週間ほど、精神科の外来がお休みになってしまうということで、結局、その時点で判断することはできませんでした。
この頃、『どうすればよかったか？』というドキュメンタリー映画が公開されていました。監督の実姉が統合失調症となり、ご両親がなかなか精神科医療につなぐ決断ができず、自宅に閉じ込めるような形になってしまっていたというつらい記録です。わたし自身はこのご両親のように、「病気を認めない」状態ではなかったものの、どんな選択が本人にとって幸せなのかは、なかなか結論が出ない難しい問題。タイミング的に映画を見ることは叶わなかったのですが、身につまされるものがありました。
→【記事の続き】（8）なんとかもうしばらくは自宅で過ごせないか 答えが出ないままに年が明ける はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』（説話社）他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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