頼みを断れずに消耗しすぎてしまう人へ|心身に大きな負担をもたらす自己犠牲的傾向から抜け出すには
「頼られると断れない」——そんな自己犠牲的な働き方は、一見美徳のようでいて、心や体に大きな負担をもたらすことがあります。実はその背景には、“自己犠牲的傾向”という無意識の心のパターンが隠れているかもしれません。
自己犠牲的傾向とは
「頼りになるね」「助かったよ」——。職場でそう言われることに、つい喜びを感じてしまう。自分の仕事が終わっていなくても、誰かが困っていると放っておけず、気づけばいつも人のフォローに回っている。そんな「自己犠牲的な働き方」をしている人は、案外少なくありません。一見、美徳のように見えるその行動の裏には、自分を後回しにし続けてしまう危うさがあります。そしてそれは、心身の疲労や不調となって、表面化するリスクがあります。自己犠牲的傾向とは、他者の期待や要求に応えることを優先し、自分の感情や欲求を抑える傾向のことを指します。「迷惑をかけたくない」「嫌われたくない」「役に立たない自分に価値はない」といった不安や信念が背景にあり、つい自分のことよりも他人のために行動してしまうのです。こうした傾向を持つ人は、幼少期から「いい子」でいることを求められて育ってきた場合も多く、「自分の本音よりも、周囲の期待に応えること」が当たり前になっていることも少なくありません。
職場で自己犠牲するAさんの話
Aさんは都内で働く30代の会社員です。チーム内で最も経験が長く、業務の流れを把握しているため、自然と周囲から「○○さんに聞けばなんとかなる」と頼られる存在になっていました。ある日、急なトラブルが発生し、後輩がパニック状態になっているのを見たAさんは、自分の業務を一時中断してサポートに回ります。上司からも別件の資料作成を依頼され、気づけば残業が当たり前の日々に。Aさんは「誰かがやらなきゃ回らない」と思い、自分の疲れを顧みる余裕もありませんでした。そんな日々が続いたある日、Aさんは朝起きられなくなり、出勤前に涙が止まらなくなってしまったのです。「誰も悪くない、でももう無理」——そう口にしたとき、初めて自分が限界だったことに気づいたのでした。このように、自己犠牲的な人は「助けること」が当たり前になっており、自分の疲れや本音を見失ってしまうことがよくあります。しかもその行動は周囲にとって便利であるがゆえに、誰もストップをかけてくれません。「気づいたら、全部自分で背負っていた」という状況に陥りやすいのです。
自己犠牲の心身への影響
このような働き方が続くと、当然ながら心身に深刻な影響が及びます。慢性的なストレスは、自律神経の乱れや睡眠障害、頭痛や胃腸の不調として現れやすくなります。また、「本当はやりたくなかった」「断りたかった」という気持ちを押し込め続けることで、感情が麻痺し、怒りや無力感、時には抑うつ的な状態にまでつながることもあります。さらに、他人の評価に頼って自己価値を感じている場合、「感謝されなかった」「期待に応えられなかった」という出来事が、自己否定感に直結してしまうのです。その結果、頑張っても報われないという思いが蓄積され、いわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」に陥る危険もあります。
自己犠牲から抜け出すために
自己犠牲的傾向から抜け出すためには、まず「自分の感情や欲求に気づく」ことが第一歩です。「本当はどうしたかったのか?」「なぜ今、疲れているのか?」と自分に問いかけてみる習慣を持つことが大切です。また、小さな「No」を言う練習も有効です。最初は罪悪感を伴うかもしれませんが、「断っても大丈夫だった」「他の人が対応してくれた」という経験が少しずつ安心感につながっていきます。そして何より、「ありのままの自分に価値がある」という自己肯定感を取り戻すことが、心身の健康を守るうえで欠かせません。
このように、自己犠牲的な行動は、一時的には「良い人」でいられても、長期的には自分をすり減らしてしまう危険があります。自分を守ることは、わがままではなく、自分自身と他人を大切にするための第一歩なのです。
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