ADHD会社員がフリーランスになるまで。特性を活かして「自分らしく働く」ためのノウハウ【経験談】


ADHDを公表しているフリーランスライターのいしかわゆきさん。営業職・広告代理店・Webライターとして会社員を経験した後、フリーランスとして独立しています。会社員時代はADHDの特性ゆえのさまざまな苦労があったそうです。『ADHD会社員、フリーランスになる。 自分らしく生きるためのお仕事ハック』(清流出版)では、いしかわさんのご経験から、ADHDの特性がありながら、フリーランスとして生き抜くためのノウハウが書かれています。本書に関連してお話を伺いました。
3回の転職を経てフリーランスへ
——大学卒業後の最初のキャリアからお伺いします。
大学時代は、自分がやりたいことや、できることがわからなくて、社会に出るイメージが湧かなかったんです。「ホワイト企業ならどこでもいいや」と思う中で見つけた、年間休日120日、有休取得率100%と書かれていた雑貨メーカーの営業職に就きました。
ただ、働き始めたら恐ろしく向いていなかったんです。営業なのでお客様のところに訪問することが多いのですが、電車の乗り間違いが多かったり、時間を守るのが苦手だったりして、1時間半遅刻してしまったり、マニュアル外での人との雑談も苦手で、臨機応変な対応ができなくて。お客様に怒られることも多くて、何度もトイレで泣いていました。
——その後、1回目の転職をされたのですよね。
営業は1年半続けました。社会人として働いてみて、もう少し興味のある分野で働きたいという思いが湧いてきて、元々文章を書くことや物づくりが好きだったので、少しでも近いことができそうな広告代理店に転職しました。
広告代理店は出社時間が自由だったので、のびのびと働けるようにはなったのですが、朝が遅い分、夜も遅くて22時まで働くなんてことが日常。個人的には営業職の頃よりは時間を守らなくていいので、ADHDには向いている環境だとは思いました。でも広告代理店も1年半で辞めているんです。
——なぜ2回目の転職をされたのでしょうか?
ADHDの特性の話からは外れるのですが、Web広告を作る中で、「形として残るものを作りたい」と思うようになったからですね。そんなふうに思っていたタイミングで、子会社への転職制度での求人を発見して、今度はWebメディアのライターになりました。
時間に厳しくない環境で、かつ自分の好きな書く仕事もできていて、自分の望みは全部叶っているはずなのに、それでもつらさを感じることが多くて。
——つらさの原因はどんなことだったのでしょうか?
ADHDは過集中特性があるのですが、途中で会議があったら中断しなきゃいけないですし、オフィスで隣の人に「ちょっといい?」と話しかけられて、集中モードが途切れてしまうと、なかなか戻れなくなってしまうんです。
ADHDとは別のことですと、会社員としての評価制度や、後輩の指導をすること、経験を重ねればいずれマネジメント職に就いていく……という仕組み自体にモチベーションが上がらなかった。「私はただ、良い記事を書きたい。ライティングの仕事だけしていたい」——そんな自分に気づいたとき、そもそも会社員が向いていないのかもしれないと。会社員でいることで収入は安定しますし、日々の充実感もありました。それでもだんだんとしんどくなってしまったんです。
——その後、フリーランスのライターという選択肢に行き着いたのですね。
メディアで働く前から「ライターとして働きたい」という思いは片隅にあって、色々なコミュニティに参加していました。その一つが朝活コミュニティで、そこでフリーランスとして働いている人の姿を知って。話を聞いたり観察したりして、フリーランスとして働く準備をしていました。Webメディアに転職してから8か月後にはフリーランスとして独立しています。
——本書にも朝がすごく苦手なことが書かれていましたが、朝活コミュニティは気合いで参加していたのでしょうか?
朝が苦手な人ほど朝活に憧れる現象があると思っていて(笑)、本当は7時30分には集合だったのですが、本当に起きられなくて……結局9時に着くことが多かったです。コミュニティとしての活動は9時には終了してしまうのですが、10時始業の会社員やフリーランスの人は9時すぎでも残っていたので、その人たちと申し訳程度の朝活をしていました。
「早く起きるためには早く寝ればいいんだよ」と言われてたのですが、それでも起きられなくて、朝活コミュニティに参加している期間、体調不良をずっと感じていて。1年間在籍してみて、私の体質に合わないことがよくわかったので、早起きして活動することは諦めました。
ADHDの特性とフリーランスという働き方の相性
——ADHDの特性とフリーランスの働き方が合っていると思う部分はどんなところですか?
一番は時間の制約が少ないことです。フリーランスになってからも、取材など時間が決まっている仕事もあるのですが、ある程度自分でコントロールができるんです。たとえば、午前中に取材を入れないようにすれば、早起きの必要はないですよね。
過集中特性についても、執筆作業が中断されないよう、執筆の日と取材の日を分けるとか工夫ができる。そうすると、過集中によって、一気に記事を書きあげられるというメリットにすることができています。
ADHDには衝動性もあって、たとえば「今すぐこの記事が書きたい!」「スクールを作りたい!」と思ったときに、突発的に始めることがフリーランスだとできるんです。フリーランスになってから、衝動的なアイディアや行動が活かせるようになって、やることの幅が広がっていますね。
——逆にADHDの特性とフリーランスとしての働き方のここがマッチしていない、と思う部分はありますか?
フリーランスだと、会社の機能である営業や経理も含めて全て自分で担わなきゃいけませんが、得意なことと苦手なことの差が極端なので、苦手なことも自分で処理すると負担が大きいです。私は経理や事務処理が本当に苦手なので、外注しています。
トータルで見たら、フリーランスになってからADHDの特性で失敗するということが圧倒的に減ったので、私は生きづらさが減少しました。
※後編に続きます。

【プロフィール】
いしかわゆき
ライター。早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒。Webメディア「新R25」編集部を経て2019年にライターとして独立。ADHDとHSPを抱えながら、生きづらい世界をいい感じに泳ぐために発信を続ける。著書に『書く習慣』『聞く習慣』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『ポンコツなわたしで、生きていく。』(技術評論社)『ADHD会社員、フリーランスになる。』(清流出版)など。「書く+a」のスキルを学ぶスクール「Marble」とnoteメンバーシップ「ポンコツ同盟」を運営中。
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