ライターのいしかわゆきさんに聞く、ADHDがフリーランスとして働くためのお仕事ハック【体験談】


ADHDを公表しているフリーランスライターのいしかわゆきさん。3社を経験した後、フリーランスとして独立しています。会社員時代はADHDの特性ゆえのさまざまな苦労があったそうです。『ADHD会社員、フリーランスになる。 自分らしく生きるためのお仕事ハック』(清流出版)では、いしかわさんのご経験から、ADHDの特性と向き合いながら、フリーランスとして生き抜くためのノウハウが書かれています。後編では、フリーランスとして働く中での工夫や苦手なことの乗り越え方などを伺いました。
ADHDであることの伝え方
——ADHDであることを周囲にも公表されているとのことですが、具体的にどうやって伝えてきたのでしょうか?
「私はADHDなんです」と言うだけだと、周りを困らせたり、「ADHDであることを逃げ道にして何かを免除してもらおう、と考えているのでは?」と見られてしまう恐れもある。なので、対処法もセットでお伝えすることが大事だと思っています。
「リマインドしてください」とだけ言われても「なんでそんな面倒なことをしなきゃいけないんだろう」と思われてしまうと思うので、たとえば「私は締め切りを守るのが苦手なので、私には3日ほど早めの締め切りをお伝えしていただけるとありがたいです」「Slackでスタンプなど3日以上何も反応がなかったら、忘れている可能性があるのでリマインドしてもらえたら嬉しいです」みたいな伝え方をしています。
「自分はこういう特性があるので/これが苦手なので、こうしてもらえると嬉しいです」という伝え方は、ADHDに限らず取り入れられると思ってます。
——確かに、苦手なことがあるなら、正直に伝えた方が後に大きなトラブルが起きてしまうことを防げるかもしれませんね。
もう一つ大事にしていることが、納品物の質は絶対に落とさないこと。何かお願いをしてる分、配慮していただいてると思うので、だからこそ自分の得意な部分では先方にお返しできるよう心がけています。
これまで書籍を4冊出していて、お恥ずかしいことに締め切りを守れたことが一度もないのですが、今回も担当編集者さんは「最終的には良いもの書いてくれると信じてます」とおっしゃってくれて。
多くの人が当たり前にできている締め切りを守ることや、事務的な作業での「欠陥」があるからこそ、自分に期待されている部分については裏切ってはいけないと思います。
というより、ADHDの生き残り戦略ってそこしかないと思うんです。「スキルに自信のないライターは、即レスや締切より早めの納品を」と言われますが、ADHDはそれができないので、記事の質で勝負するしかないなって。
ADHDの特性として、好きなことを頑張る能力は飛びぬけていて、そこに過集中が掛け算されると、膨大なパワーを発揮できるんです。社会的に需要のある自分のできることと、活かせる場所を見つけることも日々努力していることですね。
——いしかわさんご自身は、「書くことは大好きだから頑張れる」と早い段階で気づいたのでしょうか?
色々なことを試している中で見つけました。私が営業職が苦手だと感じたように、やってみて初めて苦手だと気づくこともあると思います。ライター業もジャンルや媒体によって違うので、色々な仕事をする中で、自分の得意・不得意を見つけていきました。
第三者に発見してもらうことも重要だと思っています。というのも、以前は自分が書くことが得意なことに気づいていなかったんです。文章を書くこと自体は以前から好きでしたが、義務教育で国語の授業を受けてきましたし、文章を書くってみんなできるでしょう?って得意意識はなくて。
それに、会社員としてライターをしていたときは、社内にはライターや編集者ばかりなので、みんな文章が書けるのが当たり前でした。あるとき外部のコミュニティで、イベントレポートを書いたことがあったのですが、「これはみんなができることじゃないよ」と褒められて。フィードバックを受けたことで、自分のスキルが特別なものだと気づいたので、自分でわからない人は第三者に見てもらうこともおすすめです。
フリーランスとして成長を止めないために
——本書では「フリーランスになってからは、注意されるべきことをスルーされていることもあるかと思います」と書かれていました。そのような前提を踏まえて、自分の成長を止めないためにどんなことをしていますか?
フリーランスは自分で仕事が選べる分、気づくと興味のある仕事しかせず、挑戦もせず、自分のコンフォートゾーンの仕事しかしないという状況になりがちだと思います。なので、「最近、同じことばかりしているな」と思ったら一つのチャレンジのタイミングと捉えています。
たとえば、今までと少し違う分野のインタビューに挑戦してみて、できることの幅を広げたり、まとまった時間ができたときにはスクールに通うこともコンスタントに続けています。今までは、Webデザインやコーチングを学んできました。2024年は初めてチームで働くことにも挑戦して、今は20人くらいのライターチームを作って一緒に働いています。
——チームで働く中で大変なことはありますか?
私が締め切りを守るのが不得意な中で、人の締め切りを設定することが難しかったです。ライターさんが執筆に必要な時間と、ライターさんの原稿を受け取ってから私の編集にどれくらい時間がかかるのか全然感覚が掴めなくて。慣れるまではスケジュールの組み方で失敗することも多かったです。
ライターチームで作成した記事をクライアントさんに送る役割を私が担っているのですが、私で止めてしまうと全てが滞ってしまう。毎日、色々な原稿が上がってくるので、それぞれの原稿の進行について混乱してしまうこともありました。
——どうやって解消したのでしょうか?
チームの中でADHDを公表していて、一緒に働いている人も私の特性をわかってくれているので、ライターさん側から進捗状況についてお願いしなくても確認してくれたり、ライターさん側から締切を設定してくれたりしています。苦手なことを担っていただけるおかげで編集に注力できるようになりました。事務作業や細かい管理が得意な人たちがフォローしてくれていて、チームで働くことのありがたみを感じています。
——本書でも、苦手なことがある自分をある程度許容してくれる人と仕事をしたほうが双方にとってメリットがあることを書かれていましたね。
仕事では私のADHD特性を踏まえて一緒に働くのは難しいと感じる人は自然に離れていきますし、反対に「良い記事を書いてくれるから、少し遅れても大丈夫」と思ってくれる人とはお付き合いが続きます。
友人の中にも、私に対してイライラする人もいれば、全然イライラしない人もいるんですよね。私の友人は、人のお世話をすることが好きなタイプが多くて「むしろお世話させて」といった感じでいてくれるのでありがたいです。
待ち合わせも、あらかじめ私が遅刻する前提で本を持ってきていて、30分ぐらい遅刻しても、 「いっぱい本を読めたから、むしろ遅刻してくれてありがとう(笑)」と言ってくれる子が多いです。私に期待していることは「遅刻をしないこと」ではなく「一緒に楽しく過ごしてくれること」なんでしょうね。私もそれに応えるために、別の部分で価値提供するようにしています。
体調不良が生じるストレスのラインは?
——ADHDの特性を踏まえて、フリーランスとして働く中で、メンタルケアとして大切にしていることを教えていただけますか?
苦手なことを極力避けることですね。好きなことや興味のあること以外だと、ストレスを強く感じてしまうんです。私はよく「ゆるふわに働きたい」と言っているのですが、むしろそうしないとメンタル不調になってしまうと思っていて。
コミュニケーションを取るのが苦手なので、普段は週に1回しか人と会わないようにしているのですが、先日4日連続飲み会があったときには、ストレスでお腹が痛くなってしまって。
自分の中で、体調不良が生じるストレスのラインを明確にしておくと、それを回避しながら生きられるので、そうやって自分に向き合うのも大切なことですね。
ストレスコーピング(対処法)のリストも作っていて、ストレスが溜まったときの解消法も事前に考えておいています。私にとっては「今日は家から一歩も出ない」といったこともメンタルケアになります。フリーランスは身体が資本。自分の特性を知ると、仕事にもメンタルにも、うまく向き合っていけるようになると思います!

【プロフィール】
いしかわゆき
ライター。早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒。Webメディア「新R25」編集部を経て2019年にライターとして独立。ADHDとHSPを抱えながら、生きづらい世界をいい感じに泳ぐために発信を続ける。著書に『書く習慣』『聞く習慣』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『ポンコツなわたしで、生きていく。』(技術評論社)『ADHD会社員、フリーランスになる。』(清流出版)など。「書く+a」のスキルを学ぶスクール「Marble」とnoteメンバーシップ「ポンコツ同盟」を運営中。
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