「福祉に頼りながら生きるのも自立」という考え方に学んだこと【発達障がい漫画作者インタビュー】

 『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より
『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より

発達障がいは①自閉スペクトラム症(ASD)②注意欠如多動症(ADHD)③学習障がい(LD)と大きく分けると3種類あります。中でもASDは「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」といった特徴を持ち、コミュニケーションが理解されにくい側面があるのです。『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)では、臨床経験30年以上の本田秀夫医師がASDの特性について解説しています。後編ではマンガを担当したフクチマミさんに、本田先生の理論を知ってからの考え方の変化についてお話しいただきました。

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「発達障がいは少数派の種族のようなもの」という捉え方

——フクチさんはもともと本田先生のファンだったとのことですが、そもそもどんなきっかけで発達障がいの本を手に取ったのでしょうか?

私自身、小さい頃から「よそ者感」があったんです。みんなの共通認識が私だけわからない、合わないという感覚がずっとあって、小学校のときには、「世の中で生きるための説明会に私だけ参加していなかったんじゃないかな?」と思っていました。学生時代も会社員時代も楽しいことはあったものの、基本的にはずっとしんどさを感じてきました。

「このしんどさは何だろう?」と考えているうちに、発達障がいの本に行き着いて、何冊か読んでいる中で本田先生の本にしっくりくる感覚を持ちました。そこから本だけでなく講演会の動画も見るように。たとえば本書だと「グレーならば白を目指すのではなく、グレーな大人になればいい」のように、本田先生の言葉には既存の価値観を根っこからひっくり返してくれるような感覚があるんです。フラットに一人ひとりの権利を大切にされている考え方にも惹きつけられました。

今、私自身は本田先生がおっしゃっているような、特性に合った、自分のままでいられる環境に身を置くことができて、かなりストレスフリーで楽しい生活ができていると思います。

——本田先生の本と出会ってから、どのように考え方が変わりましたか?

当初は書店で発達障がいの本を手に取る際に、人目をはばかるような気持ちがありました。それは、私自身どこかで発達障がいを「定型発達より劣った人」のように捉えていて、自分がそう見られる事が怖かったのだと思います。

でも本田先生の「発達障がいは病気というより少数派の種族のようなもの」という考え方を知って、これまでの意識が次第に変わってきました。

「自立」にはさまざまな形がある

——今回制作に関わって、意外だったことはありますか?

「自立」についての考え方です。これまでは、みんなと同じように働き、辛いことも我慢して経済的に誰かに頼らないことが「自立」の定義だったと感じます。

でも本田先生は、心身の調子を崩さないバランスで働きながら趣味の時間等を充実させたり、自分の苦痛にならないことを仕事にしたり、福祉制度を利用してワークとライフのバランスを取ったりすることも「自立」としています。この考え方を知り、目から鱗が落ちるような感覚でしたし、生き方の認識そのものを変えてくれました。

私自身、生活保護や障害年金に関して、社会からネガティブなメッセージを受け取るうちに、少なからず差別意識を持っていたのだと思います。ですが、本田先生の話が考えを改めるきっかけになりました。

社会は多数派基準で作られていることが多い。それなら合わない人がいて当然です。合わない人のために福祉制度があって、それでその人らしく過ごせるなら、それは自立であると。障がいがあったら一生自立はないと思ってしまいがちですが、依存先ありきの自立も当然あるという考えに変わりました。

——フクチさんは大人気の性教育の本『おうち性教育はじめます』シリーズを描かれていますが、性教育との共通点を感じた部分はありますか?

本田先生が重視されている、自分と他者は違うから相手の感じ方や特性をよく知って、どうしたら自分と一緒にこの社会でやっていけるか、という視点が、性教育の多様性の尊重と共通していると感じました。

前編でも合意形成のお話をしていましたが、視覚情報を提示するにしても、その子が何を選び取るかという過程までも大切にしていて、性教育における「同意」や「『NO』を尊重すること」とつながっていますよね。

結局、発達障がいのことを知るのは、人を大切にする視点に繋がっていくのだと思います。相手を大切にするために、相手がどう感じているかを学ぶという点で共通項があると感じました。

その子にあった成長のタイミングがある

——実際にお子さんがいらっしゃる立場として、書籍に書かれている知識や情報について、どのようにお考えでしょうか。

社会が用意した「子どもとしてあるべき正しい姿」に当てはめ、子どもをコントロールする構造に対して、子育てをしながら常にうっすら違和感を覚えていました。自分も子どものとき、「こうあるべき」という圧力を感じてきて、それに合わせようと過剰適応してきたタイプだったんです。この本でも過剰適応のケースが紹介されていますが、社会の望む子ども像であろうとすることは、すごく苦しかった記憶があります。

また「子どもは私の分身」とおっしゃる方もいますが、私は親子であっても本当に別の人間だと感じています。自分の子を見ていても、二人とも私と違いますし、上の子と下の子とでも全然違う人間です。受ける感覚やエネルギー、物事のインプットやアウトプットの方法も一人一人違うことに気づきました。

たとえば漢字の書き取りを100回することで覚えられる子もいれば、じっと見ることで覚えられる子もいる。発達障がいの有無に関係なく、その子がどういう方法が一番向いているのかを見ることが大切ですし、そういう子どもの特徴を見られるようになりたいと思いました。また、子どもに限らず大人同士でもそういった違いがあることを念頭に置いて、自分のやり方が他の人にとっても当たり前とは限らないという意識を持っておこうと思いました。

——今までの本田先生の書籍や今回の制作を通じて知ったことが、実際に生活していて、どのように活きましたか?

「トラブルが起きにくい状況を作る」という考え方が印象に残っています。「甘やかしている」「そんなんじゃ生きていけない」という世間の声を気にしたり、つい焦って一般的な「何歳ならこれができるべき」という基準に合わせてやらそうとして、うまくできずに落ち込んだり不安になったりすることは珍しくないと思います。

前編でも「学童期(小学生)まではトラブル回避を優先していい」というお話がありましたが、「お店で騒いでしまうなら、ルールが理解できるようになる年齢になってから買い物の仕方を教えればいい」「きょうだいでケンカになるならテレビを2つ用意する」という考え方は、「厳しくしないと親としてダメなのでは」という囚われから解放されました。

子どもにはそれぞれその子にあった成長のタイミングがあるということを知っておくと、北風と太陽の「太陽」の対応ができる。「この子は必ず成長するから、それまでは見守る気持ちでいていい」と本田先生に背中を押される気がして勇気が出ました。

『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より
『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より

——本書でおすすめしたいポイントはどこでしょうか?

漫画の部分と文章と全部読んでいただくとわかるのですが、「こういうときにこうするのがいい」という一つの答えが載っているわけではなく、一つの方法として提示しながら、子どもによって実は色々なパターンがあることや「もしこういうケースだったら、この対応の方がぴったりだったかもしれない」といったことも本田先生が書かれています。「こうすれば解決します」と単純化しておらず、本当に役に立つ考え方をインプットできるとお伝えしたいです。

また「子どもをよく見る」という趣旨の言葉が何度か出てきていると思います。親や周りの大人がその子の行動をよく見て、オリジナルの対応方法を考えていくことって素敵だなと思います。

『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)
『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)


【プロフィール】
フクチマミ

マンガ家・イラストレーター。
日常生活で感じる難しいことをわかりやすく伝えるコミックエッセイに定評がある。著書・共著書に『おうち性教育はじめます』シリーズ、『マンガでおさらい 中学英語』シリーズ(どちらもKADOKAWA)、『マンガで読む 子育てのお金まるっと BOOK』(新潮社)、『マンガでわかる 散らからない仕組み』(主婦の友社)などがある。

■HP
http://fukuchimami.com/
 

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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