「自分の特性と環境のミスマッチに気付くことが必要」 発達障がい当事者・光武克さんが考える自己受容
発達障がいの特性を活かし、企業へのコンサル、YouTubeチャンネル「ぽんこつニュース」の運営、発達障害BAR The BRATsのオーナー(現在は休業中)などマルチに活躍する光武克さん。後編では、会社員として働きながら、YouTubeチャンネルやBAR The BRATsの運営をこなすなど、多忙を極める日々の中でのメンタルヘルス、また発達障がいの特性と向き合いながら、自己受容や自己肯定感を高める方法についてお伺いしました。
ー光武さんは多方面にお仕事されていてとても多忙だと思います。スイッチを切り替えて休むことはできていますか?
僕は正社員としてフルタイムで働いた後に、フリーランスの仕事をして、その後にYouTubeの撮影や家事をやっています。正直、体力的に結構しんどいなと感じることはあります。日曜は予定を入れないようにして、大体は寝ていますね。それである程度リフレッシュできていると感じているので、スイッチを切って休む事は一応できているはずです。
ーストレス解消法など、メンタルヘルスのためにやっていることがあれば教えてください。
猫と遊ぶことです。あとは、移動時間に本を読んだり、NetflixやYouTubeの動画を見たり。リフレッシュ系のバカみたいな動画をみています。なんだかんだずっと多忙な生活を続けています。ADHDのHDである「ハイパーアクティブ」な状態が長く、もともと休めない体質なんです。休んでいる時間に何も自分が生み出していないことがストレスなんです。
ー常に生産的でありたいのですね。
こだわりというか強迫観念に近い。常に何か生み出して、それを元に次のものを……とやり続けていないと嫌になる感じで。それがいい方向に働けばお金を生み出すことができる。1日まるまる休んでストレス解消することはできないです。友達と遊びに行ったり、飲んでいる時もスマホで仕事の連絡が来ていないか気になっちゃう。癖が抜けないというか、オフモードにしにくいんですよね。
ー発達障がいの特性と関連していると思いますか?
僕はこだわりなのかなって。多動はハイパーに動き続けるイメージで、行動の部分は多動なんでしょうけど、なんで多動になるかという思考の部分はASD(自閉スペクトラム症的。常に何かをやっていないと不安で、それがADHDの障がい特性である多動と結びついて動き続けるのかなって。だから脳もずっと動き続けて、寝る時間も勿体無く感じちゃうんですね。寝る時間があったら、本を読むなど、少しでも情報を得たい。実は昨日も寝ていなくて。疲れている時は眠れるのですが、眠ることが下手です。
ー光武さんのような生活をしながら家事をこなすことはとても大変だと思います。動き続けていて、疲れやストレスなどの反動は来ないですか?
それが日曜日なんだと思います。動けずに寝ていますから。現代人は、時間がないじゃないですか。だから何を削るかが大事なんですよね。自分の場合は掃除で、もう少し片付けたらハウスキーパー入れて維持しようと思います。後は、洗濯物を畳む作業をお願いしたい。洗濯はいいんですが、畳んで整理する作業は複雑です。家事を全自動化していく工夫はADHDには必要だと思うんです。
ーYouTubeチャンネル「ぽんこつニュース」についてお聞きします。発達障がいについて発信しようと思ったきっかけはありますか?
最初からぽんこつニュースで発達障がいの情報発信をすると決めていた訳ではないんですよ。色々と試していくうちにそれが一番いいと落ち着いた感じですね。
ー名前の由来はありますか?
僕がポンコツってことです。もともと僕のTwitterのアカウントについていた層や、ぽんこつニュースの前にBAR The BRATsをやっていたので、光武克=発達障がいと強く結びついていたと思います。それで自然と視聴者が望むものが発達障がいに関するものだった。自分が客観的にどう見えているかを意識した上で、自分をネタに企画を立てるのが一番読者に刺さると思っています。
ーコンスタントに動画を出し続けていて、ネタが尽きないのがすごいと感じています。ぽんこつニュースのネタはどうやって出していますか?
発達障がいの特性の説明はやり尽くされていますが、例を取り上げるなら山ほどある。例えば、ADHDの不注意に関する具体的なエピソードはそれぞれが持っていて、人の心に刺さるのって、その人の話なんですよ。個人のエピソードはみんな分かり合える場合もあるし、ぶっとびすぎているものはネタとして面白いし。今は更新頻度をだいぶ落としていますが、週1〜2ペースでやっています。今後、光武オーナーではないキャラクターで、顔も出さないで、新しいコンテンツを出せたら面白いなと考えたりします。テーマは全然決めていないですけど、個人的に料理が好きなんですよ。だから料理系の動画を作りたいなって。
ー料理もストレス解消法のひとつですか?
そうですね、ストレス解消に入りますね。ルーティンで毎日スープを作っています。ベジブロスと言うのですが、冷凍しておいた野菜屑でとった出汁がいい感じで。夜に野菜スープを作った時の野菜屑を使って、朝に出汁を取って、そこにコンソメを入れたスープをお昼に飲んでいます。
ーぽんこつニュースでASDの人はぬいぐるみが好きという動画を出していたのが印象的でした。私はカウンセリングでぬいぐるを使うことがあります。ぬいぐるみという目に見える対象があった方が、カウンセリングをやりやすい方もいるので。
ぬいぐるみって大事だと思うんです。僕の場合はぬいぐるみの代わりが猫になった感じですね。猫はぬいぐるみの代わりになっていることを不満そうな顔で見まけどね。
ーBAR The BRATsについてお聞きします。オープンしたきっかけはありますか?
バーを始めたきっかけは、発達障がいのコミュニティに参加したことです。同じ発達障がいでも、ある程度は悩みのカテゴリーで分けておかないと居心地の悪さは感じるという体験がベースです。当時、離婚で悩んではいたのですが、生きるか死ぬかでは悩んでいなかったので、社会から離脱している人と悩みのカテゴリーが違うなと思って。社会人として仕事をしているか、していないかは大きな違いで、社会から離脱して生きるか死ぬかで悩んでいる人たちと、社会との接点の中で悩んでいる人たちは、根底にある障がいは一緒かもしれないけど、悩みの質がかなり違って同じ場所で悩みを分かち合うのは無理だと思ったんです。なぜバーかというと同僚や友人たちと仕事帰りに寄れて、気楽な気持ちで悩みや愚痴を言うのは居酒屋やバーだったりしません? だから、バーという形にした発達障がいのコミュニティを運営してみるのはどうだろうって思ったんですね。離婚して足枷というか守るものがなくなって踏み切りました。
ーコロナ禍で休業中だと思いますが、再開についてどう考えていますか?
再開したいです。ただ、バーという形式の当事者会なのでお喋りが大前提じゃないですか。喋ると感染するリスクが上がるし、喋らないのは無理なので悩んでいます。また、今は正社員で働いているので時間的に余裕がないし、やるとしても月1回のイベントから再開するのがいいかなとイメージしています。再開することで、みんなが楽しんでくれれば嬉しいです。もしくは、発達障がいという冠をつけないで、全然違うお店をやってもいいと思いますね。ジャズ喫茶の音楽にシーシャを合わせたり、のんびりゴロンとできるというか、ADHDの人がくつろいでいられるような空間を作りたいです。このようなコンセプトを決めたお店を作って、発達障がいの名前はつけなくても、結果的に発達障がいの傾向がある人が集まる場所を作りたいなと思います。
ー光武さんが考える生きづらさや、自己肯定感について教えてください。
自分の障がい特性の自覚がなく、環境面とのミスマッチでよく分からないけど苦しい場合が多いので、どんな特性がどのような環境に接した時にどういう問題を起こすのか、というロジックを組んであげることが大事だと思います。自分が悪かったわけではないと気付けるので、過度に自己肯定感を下げる必要もなくなりますし。特性と環境のミスマッチに気付ければ、どうすれば良くなるのか探求する地道ですが前向きな作業に変わっていくと思います。自分自身もそうしてきました。
ー光武さんの自己肯定感はどうでした?
僕はめちゃくちゃ他責思考なところがあるので、これ以上自己肯定感を下げたくないんでしょうね。でも他責思考な部分も含めて僕かなと思っています。
ー自己受容ができている感じですね。自己肯定感は大切だと思うのですが、もともとADHDの人は自己肯定感が高い人は少ない印象です。もし自己肯定感が低かったとしても、自己効力感(目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること)があることで、なんとかなる人も多いのかなと思います。
そうですね。僕自身、努力もあったと思うのですが、やれば何か形になったんですね。でも、そこはセンシティブな部分で、自分ができたから他の人ができるわけではないんですよね。自分ができたから「がんばろうよ」という言い方だとマウントをとってしまうので、バランス感覚が難しいと思います。
ー自己効力感は、個人の特性や能力だけではなく、環境の影響も大きいと思います。子供だったら、自己肯定感や自己効力感のうち、せめてどちらかでも高まるような周囲からの関わりがあれば、後につながりやすいと思います。でも、どっちも低いまま大人になってしまうと生きづらさは大きいですよね。
本当にそうですよね。障がい者雇用で就職が決まらない人は、自己効力感が低い人が多い気がします。障がい者雇用にこだわらなくても、ベンチャー企業であれば、障がい者雇用に匹敵する手厚いサポートがあったりするんですね。
例えば、障がい者雇用だから通院させてほしいとか、許可を取ること自体が馬鹿馬鹿しいじゃないですか。誰だろうが体調悪くて病院行くのはいいじゃん。その分、3時間業務ができないなら別のところで3時間足したからOKとするのが自然だと思うんです。障がい者雇用は、色んなことを杓子定規的にやろうとしている。
障がい問わず、自分の特性に合わせた働き方を選べるのはどんな人か考えると、SEやデザイナーとかスキルを持っている人。そこで自己効力感の話に戻りますけど、仕事としてのスキルを持って働ける人、自分がそれをやれるという認識がある人が大抵仕事でもうまくいくと思います。何ができるか自己分析をして、どんなスキルを持っているのか具体的に見えないと、簡単な事務作業をトレーニングしようとしてしまう。その辺のミスマッチが就職できない人を生み出す負の連鎖の原因だと思います。
*インタビュー前編「自覚や客観性を持てるかがカギ」発達障がい当事者・光武克さんが語る、生きづらさとの向き合い方
【プロフィール】
光武克(みつたけ・すぐる)
発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP:brats.shopinfo.jp、Twitter:@bar_brats、Youtube:ぽんこつニュース【発達障害&ライフハック】
AUTHOR
石上友梨
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。
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