「自覚や客観性を持てるかがカギ」発達障がい当事者・光武克さんが語る、生きづらさとの向き合い方

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「自覚や客観性を持てるかがカギ」発達障がい当事者・光武克さんが語る、生きづらさとの向き合い方

石上友梨
石上友梨
2022-07-02

発達障がいの特性を活かし、企業へのコンサル、YouTubeチャンネル「ぽんこつニュース」の運営、発達障害BAR The BRATsのオーナー(現在は休業中)などマルチに活躍する光武克さん。前編では、発達障がいの特性による生きづらさと向き合うヒント、特性の活かし方や工夫していることをお伺いました。

YouTubeチャンネルのぽんこつニュースでもお話しされていましたが、発達障がいと診断された経緯を教えてください。

元々周囲から『多動*』と言われていました。実際に発達障がいの診断を受けたのは、周りから変だと指摘されて20代後半に病院を受診したことがきっかけでした。自分の行動パターンを理解できていない状態だったのが、「ADHDだったらこうなるよな」と咀嚼して言葉にすることができたので、知ることが出来て良かったと思っています。

僕はカウンセリングに関する民間の資格を持っているので、カウンセリングのような意味合いで人の悩みを聞く機会があります。その中で生きづらさを抱えている人たちは、つらさの根本的な原因となる特性があって、その特性がその人の環境面とミスマッチを起こしているパターンが多いと感じます。自分が持つ認知の枠で、キャパシティ以上の判断をしていることを自覚しないまま生きていて、かつ、それが「他責思考」という偏った考えになってしまうことが生きづらさにつながってしまうのです。

自分自身も、発達障がいと診断されたことで、自分の特性や傾向をある程度客観的に見られるようになったことで生きやすくなったと感じます。この仕事は自分に向いている、向いていないなど、特性を踏まえたら判断しやすくなりました。その結果、これはやめておいた方がいいな、など適切に対処できるようになってバランスが良くなったと思います。

*発達障がいのADHDの特性でもある過度に落ち着きがない、じっとしていられない症状。

ー周囲から指摘されるまでは自分の中で「発達障がい」という自覚はありましたか?

全くなかったですね。変な人と思われているのは知っていましたけど……発達障がいという言葉と自分自身が結びついていなかったです。

ー自覚したことで発達障がいという視点から考えることができるので、色々な対策も取りやすかったということですね。ちなみにカウンセリングは、発達障がいの人に対して、自分の特性と環境のミスマッチなど、どうやって生きやすくなるかを話し合っているのですか?

企業からの依頼で、辞めそうな人の話をヒアリングした上でどんな風に会社側からサポートするべきか提案する仕事をしています。入社後に発達障がいと発覚した人は、一般枠の雇用で入社しているため職場からの配慮を受けることができず、病気や障がいではなく性格の問題と扱われてしまうケースもあり、その結果、無自覚に認知が歪んでしまう人もいるんですよね。ASD(自閉スペクトラム症)の方は、過去の大変だった時のイメージが強烈なだけ、同じ話を何度も繰り返してしまうことが多いじゃないですか。それが、お話を聞いて信頼関係ができると変わってきて、自分がなぜ苦しいのか自覚できることで、物事への見方が大きく変わるようです。認知を自覚できる割合が増えれば増えるほど、他責傾向は減ってくるケースが多いと感じます。

ー思春期とか、メタ認知*が十分に発達するまでは大変だなと感じています。

メタ認知ができていないときついですよ。認知が歪んでいると、信頼関係を作るまでに時間がかかるじゃないですか。それまでは苦行のような人間関係が続いてしまうので……。

*自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御すること。 

ー逆に、武光さん自身が「発達障がいで良かった」と感じることはあるのでしょうか?

異常なまでの過集中ですかね。発達障がいじゃなかったら、この超人的な体力はなかったと思います。朝6時に起きて、朝ご飯の準備して、自分の仕事をやって、その後もご飯や家事の合間にYOUTUBEの撮影などを深夜まで行って就寝は夜2〜3時、翌朝は6時起き。睡眠は平均3時間ですね。

ーもともとショートスリーパーですか? 

そうだと思います。なので、発達障がいで良かったことは、過集中と異常なまでの体力ですね。ADHDのHD(多動)が異常なまでに強いんだと思います。AD(注意欠陥)も強いですけど、すごい動けますもん。

ーASD(自閉スペクトラム症)も診断も受けているのでしょうか?

はい、ASD傾向は強いと言われています。こだわりも強いですしね。いろいろなものをロジカルに分析的に考えられるのはASDっぽいからかなと思いますね。話のロジックを組むのが上手と褒められることが多いです。例えば、どんな順番でどんなふうに言えば、的確に伝わるか感覚的に分かるんです。それはAだからB、またはCが入ってDという形がイメージできるからだと思います。

ーご自身の特性について何か意識的に工夫されていることはありますか?

集中するスイッチですね。音楽でスイッチを入れるのですが、「ベイビー・ドライバー」という映画で、音楽を聴きながら凄まじいドライビングアクションをする場面があって、それに近いですね。音楽を聴くとガッと入り込めます。また、音楽は料理する時も大事です。このトラックを1周聴くのに何分かかるから、この作業はこの曲が終わるまでなど常に考えています。

ー音楽をタイマー的な意味合いで使っているんですね。その発想はなかったです。それは作業がルーティン化しているからですか?

それもありますし、あとはペースとして考えた時に、例えばブログ記事の添削をして欲しいと依頼があった時に、3記事を15分で終わらせたかったら、1記事は5分になります。それをどのくらいのペースでやったらいいかと体感的に理解するために音楽を聞いてるところがあります。テンションがグッと入りこむスイッチでもあるし、どこか冷静に音楽のペースに合わせて作業ができるペースメーカーとしてでもあります。YouTubeで音楽を聴くのが仕事をするときのマストアイテムになっています。

ー音楽のジャンルは決まっていますか?

ジャズです。JーPOPなど、知っている曲だと意識が持っていかれるのでダメなんですよ。知らない曲かつ、リズムがシンコペーション(強拍と弱拍のパターンを変えて独特の効果をもたらすこと)が良くて。

ー私は歌詞があると引っ張られるので、インスト(歌詞がない曲)や、意味が理解できないようなインドやタイ北部の音楽を聞いて、気分や集中力をコントロールしています。日本だと何故か平沢進さんの曲は大丈夫なんです(笑)。話は変わりまして、適性のある仕事をなかなか見つけられない人が多いと思います。何かアドバイスはありますか? 最初からフリーランスという選択肢を取られたのは、自分のことが分かっていたのかなと思いました。

逆ですね。分からなくて単に怖かったからですよ。社員なんて絶対に無理と思ってて。自分に合わない働き方を察知できていた、というと美談ですが、実際は会社務めは絶対にやりたくなくて「ヤダヤダ、もう考えたくない」と先延ばしし続けてるうちに、にっちもさっちもいかなくなって「もう一人でやってやる!」って感じ。

適性のある仕事を見つけられない人には、優先順位が分かることが大事かな。自分に向いていることと、市場的に価値があること、自分の好きなことは全部バラバラじゃないですか。何を優先して自分は生きているかという自己分析だと思います。僕の場合は生産的なことに対するこだわりが強い人間なんですよ。楽しくてもお金にならないことに自分の貴重な時間を使うのは嫌。それをお金を稼ぐものではなくて、完全な趣味の時間と決めているならいいんですけど、中途半端に仕事の要素を残しながら「いつかお金を稼げたらいいよね」という働き方はできない。

でも、自分の好きなことを優先したい人もいるので、バランスだと思います。僕は喋るの上手いよねと言われることが多く、YouTubeは向いてるらしいですよね。でも、好きか嫌いかでいうと、人前で話すのは好きではないんですよ。「目立ちたい」「有名になりたい」という欲求もない。自分にとってYouTubeで有名になることはポジティブに働いていない。適正のある仕事を見つけるためには、自分が何を優先して行動しているのかと納得するロジックを組むこと。得意なことをやっているからストレスがないことを優先したいの、多少の負荷はあってもしっかりと稼げることを優先したいのか、好きか嫌いかの方がモチベーションの継続に関わるから優先したいのかというのをどれくらいのバランスでやるかですね。

ーそれを学生のうちに自己分析できるといいでしょうけど、なかなか難しいですね。でも、今は転職しやすい時代ですし。ちょっとずつ掴んでいければいいかもしれませんね。

やってみて合わなかったら変えればいいやぐらいで、いったん就職してみるのも良いと思います。

ー発達障がいの方には、言葉や過去の記憶にとらわれてしまうような「とらわれ」に悩んでいる場合が多いと思います。その点について何かお考えはありますか?

とらわれは、特にASDに多いと思うんですけど、実際にそういう脳の構造らしいんですよ。自分にとってネガティブな情報を何度も反復して苦しんでしまうという。でも、それをやったところで何も生産的なものは生まれないから、どうやって思考のループを止めるかなのでしょうね。サイコパスの思考に関する本を読んでいた時に、「悩む時間は勿体無い」と書いてあり参考になりました。どんなに悩んだとしても最終的にはアクションを起こさないといけないじゃないですか。そしたら悩む時間、つまり自分が苦しむ時間が長ければ長いほど、自分に対するダメージが大きいから、最小のところで行動した方が結果としてダメージが少なくなる。

ーその通りだと思いますけど、サイコパスの発想なんですね……。後は、「我慢するのは大切」「考えるのをやめることは逃げだ」と思っている場合もあると思います。でも、実際は考えれば考えるほど不安が大きくなって行動に移せなくなるし、辛い気持ちが大きくなるから、いかに考え込む時間を減らすかだと思います。でも、それがサイコパスの思考なのですね……複雑です(笑)。

無駄なことに時間かけるの勿体無いですよね。それに気づいてからだいぶ楽になりました。

ー私の助けになったのはマインドフルネスです。マインドフルネスが感覚として掴めるようになってからは、呼吸に注意を向けることで、とらわれから意識を外せるので楽になりました。

瞑想や呼吸法はめっちゃいいですよね。

ー他者との価値観や感覚の違いを感じる時はどうされていますか?

そんなもんだよなぁ…と、相手を否定しないことだけを気をつけています。でも、ベースとなる思想の基盤については、共通で持っているべきだと思います。例えば、いろんな考え方を認める多様性を打ち出そうとするのなら、「多様性は善である」という価値基準をみんなが持つことを期待します。「多様性は善である」という価値基準があるからこそ、いろんな人の考えは守れるところがある。

ー自他の境界線も重要だと思います。自分は自分、他人は他人。それがないと考え方や感情の主語が誰か曖昧になる。発達障がいの方には、自他の境界が曖昧な場合も多いと思います。自他の境界線をきちんと引くために何が大切かと考えた時に、そもそも自分を大切にすることかなと思います。いかがでしょうか?

自分の考え方が大事だと思うためには、自分と同じように存在している他者の感覚は同様に大切だという発想が必要じゃないですか。これはお互いに持たないといけない思想の基盤なので、その共通の部分がないと成立しない。共通の基盤はどうやっても強制になってしまうという矛盾がありますよね。

*インタビュー後編「自分の特性と環境のミスマッチに気付くことが必要」 発達障がい当事者・光武克さんが考える自己受容 

【プロフィール】

光武克(みつたけ・すぐる)

発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP:brats.shopinfo.jp、Twitter:@bar_brats、Youtube:ぽんこつニュース【発達障害&ライフハック】

 

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。

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