発達障がいのわが子と生きる|ベーシストMIYAが語る、自己肯定感「自分を愛することは許すこと」

 発達障がいのわが子と生きる|ベーシストMIYAが語る、自己肯定感「自分を愛することは許すこと」
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石上友梨
石上友梨
2022-01-29

沖縄在住、385、ZAZENBOYSベースを担当するMIYAのインタビュー。以前から親交のある臨床心理士の石上が、発達障がいを抱える子供や家族との生活、自己肯定感について話を聞いた。

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無理をしないで、人と意見が違う時は聞き流して

―――発達障がいのお子さんの子育てについて、特に気を付けていることはありますか?

手抜きもいっぱいして、完璧にやろうとしないことかな。子供を外に連れて行くと時に冷たい目線を向けられたり、時には罵声を浴びせられたりする。謝りながら歩くことが殆ど。子供が常に走ったりするので追いかけて捕まえる為に常に神経を研ぎ澄ましながら、走りっぱなしで、出かけるだけでも帰宅する頃はぐったりになります。とにかく頑張ってるわけです、常に。どうか休める時に休んで欲しい。あと、子供のことで色々な常識を押し付けて来る人たちがいます。こうでなければならない!とかあーでなければならない!みたいな…自分自身の子育ての考え方と意見が違う時、私はある程度聞き流すことも必要だと感じる。

―――聞き流そうと思ったら、聞き流せるようになるものなのでしょうか?

私の場合は何も言わないし、相槌もしないです。無になってます。息子を他のお子さんと比べたり、育て方のせいでこうなってる!なんて言われるんですよ。自閉症スペクトラムのことを理解しようとせず自分の常識を押し付けようとしてくる意見は聞き流してます。もちろん相手の気持ちもわかるんですよ。例えば、私は息子が学びたいものを少しでも吸収して欲しいから、図鑑をたくさん買っている。息子は少しずつ成長がみられて、毎日図鑑を1ページずつ見るんですよ。それに対して答えたいじゃないですか。一緒に色んなものを調べたい。でも、「こんな図鑑いっぱい買って、無駄なお金使って!」という意見もある。相手の話を聞くことも大事だと思うんですけど、私は息子の大事な好奇心を伸ばしたいし、無駄だと一切思ってないんです。だから皆さんもいい塩梅で聞き流して欲しいなって思います。

―――夫婦間で意見が違う人もいますもんね。

夫婦で向き合えなかったら大変なので、ある程度足並み揃えられたらいいですけどね。息子の発達障がいのことをSNSに書いてから同じような親御さんから連絡が来ます。「みんな頑張っているな」と本当に泣きそうになります。コロナ禍でなければどこかで集まって意見交換をしたいし、私も学びたい。息子は言語を持たないでどうやって成長して大人になるんだって。どうやって就職させようかとか。親は先に死にますから。そういうことを考えて親御さんはみんな必死に子育てしてます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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自分を大事にしていない人は、人を大事にできない

―――MIYAさん自身が「自己肯定感」について考えていることがあれば、教えてください。

私はずっと自己肯定感が低かったんです。私も発達障がいなのかもしれません。忘れものも多いし、音に過敏なところがあるし、変なのも見えるし。自分の偏屈さや性格に悩んでいました。

ちょうど30歳くらいの頃、テレビで外国人の奥さんを持った日本人の旦那さんが会話をしている動画を見たんですよ。その奥さんが堂々となんでもはっきり物事を言ってて。「あれを持ってきて」「あれが食べたい」って。それを見てすごく感動して(笑)。自分の思ったことをこんなに口に出していいんだって初めて思いました。そこから自己肯定感をつける練習をして、自分に言い聞かせて生きてる。この10年かけて、今までのことに向き合って、自分を慰めフォローして、そこからまた自分を育てていくみたいな。

―――自分で自分をケアしているんですね。

誰も私のことを気にしていないから自分らしくあっていい、と思えてから10年後には理想とする堂々さになってきて、動画の奥さんに近づいてきた。夢って叶うんだなって(笑)。その奥さんのはっきりモノを言う感じが羨ましかったんですよ。もともと私は空気を読めないし、人の気持ちも分からないし、衝動的に発言してしまって相手を傷つけることがあって。一方で、自分の気持ちとか肝心なことは言えない人間だったんです。黙っていようみたいな。それを30歳くらいから立て直して、やっと本音で話せるようになってきた。若い時よりも今の自分が好きですね。

―――発達障がい者の精神年齢は定型発達に比べて3分の2という「俗説」があるのですが、そう考えると30歳がちょうど成人くらい。私の周囲の特性がある人たちも、「30歳くらいから楽になった」「生きやすくなった」と言っている人が多いですね。

たしかに、 追いついてくるのかな。そう考えると生きるのも楽ですよね。42歳の今が一番、楽ですね。自分の心に耳を傾けてながら本音と向き合えるようになると自分のことを大事にするじゃないですか。そうすると相手のことも大事にできるんですよ。自分を大事にしていない人は、やっぱりどこか人を大事にできない気がしますし、昔はそうでした。今まで自分を大事にすることは、わがままで、間違ってることだと思ってたんですよ。親に大事にされていない人ってどうやって大事にするか分からないじゃないですか。なので、息子に関しては大事に、大切に育ててます。私は息子に怒鳴らないように心がけてます。

自分を愛することは、自分を許してあげること

―――感情的に怒っているだけだと伝わらないですよね。怒りの感情だけが伝わって怯えさせてしまったり。

息子に注意はしますよ。こうしたら水が溢れるから気をつけてねって。1回で分からなくてもよくて、何回も繰り返して習慣化していくのが彼らの育て方になるので。療育で教えて頂いた発達障がいのお子さんの育て方はとっても優しくて、とっても分かりやすいからどんな子の子育てにも活かせると思う。感情だけで「ダメでしょ!」と言われて、ウッとくるのは大人も一緒じゃないですか。コロナ禍でライブができない時にも介護職を少しの間だけやっていたのですが、おばあちゃん、おじいちゃんに対しての接し方も一緒だなって思いました。感情をぶつけ合うよりも、その人のことを考えて教えてあげることで優しい世界になる。

―――自己肯定感は、子育てに関してや親としての立場でも同様の考えですか?

そうですね。自分を愛してあげてること。甘やかしてあげてること。自分を大事にできないと子供も大事にできないことに繋がっていて。だから、意見が違う時は言うし、時に人と足並み揃わなくてもそれでもいいと思うんです。私が楽しく生きていれば息子もきっと楽しいはずなので。

―――自分を大切にする「セルフ・コンパッション」という言葉があって、コンパッションは「思いやり」のこと。その考えでは、自分にコンパッションを向けたときも、他人に向けたときも、同じ脳の部位が活性化して、体に同じ反応が起きる。だから、どっちかをいっぱいやると、もう片方も上手にできるようになる。MIYAさんの話がコンパッションに繋がるなって。

そう思います。自分を愛することは、自分を許してあげることだから。自分の悪いところも良いところも許せるということは、他人を許せることに繋がると思う。わたし人が食べてる時の音が気になって頭がおかしくなりそうなことがあるんですよ、でも相手は美味しそうに食べているから、言いたくないし、そのままで居て欲しいから誤魔化すために鼻歌歌ったりするんです(笑)。小さなことだけど許し合う為に色々工夫しています。たまに感覚がバンっと前に出て聴覚過敏が急に鋭くなる時があるから、それを閉じる練習して、最近は自分で閉じれるようになった。開けたり、閉じたり。

―――感覚でできてしまうのが特殊な能力ですね(笑)。私も音に過敏なところがあるので、外では音楽でシャットアウトしてしまう。あと、肌が過敏なので、服の素材を選んだり、肌に接する服は縫い目が当たらないように裏返して着ています。そういう細やかな自分への気遣いができるようになることも大切ですよね。小さな不快を見逃さない。

自分のことが分かって、自分のやり方でやれるのはいいことですよね。たまにSNSで発達障がいの子供を持つ親御さんの投稿を見たりするんですが、みんな抱えているものが大きいなって。本当に疲労困憊してて、ゆっくり眠って休んでほしいと常々思いますが、休む暇なんてないんですよね。本当に皆さんとても頑張ってると思うし尊敬しています。私の場合は変な影響を受けやすいので、最近は必要以上にはSNSはみないようにしていますがSNSに書くことでご両親の心が開放されてたらいいなと思ったりもします。

―――大切なことですね。私はストレス解消法が旅行だったのですが、コロナ禍で行けなくなってしまって。

私は旅行に全く興味なくて、沖縄が1番いいからどこにも出ないんですよ。もったいない人生だと思う。旅行に行くといろんなもの見て、素敵~ってなるわけじゃないですか。もし行くならインドのジャイサルメールに行ってみたい。現地でインドの音楽を聞いてみたい。でも、インドはハードル高いから。行ってみたいと思いつつも行く機会がなく……妄想ではよく行くんだけど(笑)。コロナが明けたら、いつか行ってみたいですね。

▶【前編】発達障がいのわが子と生きる|ZAZENBOYSベースMIYAが語る「とにかく毎日、息子が可愛い」

プロフィール/MIYA

沖縄在住。1998年にガールズ・ハードコア・バンドBLEACHを結成。2001年にメジャー・デビューし、海外でも積極的にライブ活動を行なうが2009年に解散する。2008年からはハードコア・ファンク・バンド385でベース・ヴォーカルを担当しているほか、2018年7月にはZAZEN BOYSに加入した。激しいプレイ・スタイルを特徴とし、アグレッシブなスラップが注目を集め、雅-MIYAVI-が2011年に複数のベーシストをフィーチャリングして発表した『WHAT’S MY NAME? e.p.』にも参加している。Twitter:@385miyaboys

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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