【医師インタビュー】発達障がいの子どもとの“正しい”接し方とは?

 『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より
『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より

発達障がいは主に①自閉スペクトラム症(ASD)②注意欠如多動症(ADHD)③学習障がい(LD)の3つに分類されます。中でもASDは「臨機応変な対人関係が苦手」「こだわりが強い」といった特徴を持ち、コミュニケーションが理解されにくい部分があります。『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)では、臨床経験30年以上の本田秀夫医師がASDの事例について解説しています。本田さんにASDの特性の捉え方や対応について伺いました。

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可視化されやすくなった発達障がいの子どもたち

——ここ10年ほどで発達障がいの子どもが増えていますが、なぜでしょうか。

増えたというより「可視化された」と考える方が正しいと思います。知的障がいがなく、かつ昔だったら診断されないような微妙な特徴を持っている人が診断されるようになってきている。その背景には周囲の発達障がいへの感度が高くなっていることと、昔に比べると同調圧力が強く、標準化を良しとするムードがあるため、標準的でない人たちが簡単にあぶり出されやすくなったことがあると思います。

よく「スマホばかり見ているからそういう子が増えた」と言う人がいるのですが、因果関係があるという保証はないんです。たとえば自閉スペクトラムの子どもは動画を見るのが好きなことが多く、自閉スペクトラムの子どもとそうでない子どもを比べると、動画の視聴時間は自閉スペクトラムの子の方が圧倒的に多いというデータは簡単に出ます。だからといって「動画ばかり見せていたから自閉スペクトラムになったのか」「自閉スペクトラムの子が動画好きというデータなのか」はわからないので、データを分析する際には注意が必要です。

学童期(小学生)までは「トラブル回避」優先でかまわない

——本書では「自閉スペクトラムの子は最初に適切な行動パターンを身につければ、その後もパターンにそっておだやかに過ごせるので最初が肝心」とあります。また別のケースでは子どもの意思を尊重することの重要性が書かれています。現実には、どういう対応を取るべきか判断に迷うこともあると思いますが、どう考えればよいでしょうか?

一見、矛盾しているように感じるかもしれませんが、実は矛盾しないんです。「視覚構造化」といって、スケジュールを表に書き出すなど、目から入る形で色々な情報を提示する手法があります。これは大人がやらせたいことを伝えるためではなく、合意形成のために行います。

前提として、本人がやりたいと思わなければ「合意」にはなりませんよね。「初めが肝心」というのは、最初に子どもがやる気になるような視覚情報を提示し、やりたい気持ちを引き出す。それは大人が仕切っているのと同時に、本人の意思を尊重していることになります。

もちろんアテが外れ、大人が良かれと思ってやったことでも、子どもがその瞬間はその気にならないということもあります。そのときは大人の提示の仕方が失敗だと捉え、本人の意思を尊重し、翌日には別の方法を試しましょう。

——本書では、自閉スペクトラムの特性のある子どものこだわりを理解することの重要性も指摘されています。公共空間のように、必ずしもこだわりを優先できないときもあると思いますが、その場合はどう対応すればいいでしょうか。

公共空間でのルールと、こだわりが衝突してしまうのでしたら、その公共空間には当面は連れていかないということで対応するしかないです。とはいえ、やむを得ず公共の場に行かなきゃいけないときもあります。その場合は朝から腹をくくって、「今日はもう仕方がないので、多少のことは大目に見てもらおう」と思って行くしかありませんし、おそらく、現実的にみなさんそういう対応をしていると思います。可能な限り、行き先に「この日はこういう事情で発達障がいのある子を連れていきます」と説明し、少し大目に見てもらえるよう、事前に相談しておく方法もありますね。

なお、イギリスのショッピングモールでは、感覚過敏の人のため、店内にBGMを流さないとか照明の明るさを抑える時間帯を作るとか、障がいのあるお子さんが行きやすくなるような時間帯を設けているところもあると聞きます。

——親にとっては「色々な経験をさせたい」「経験が少ないと将来が不安」という気持ちもあると思います。

学童期(小学生)まではトラブル回避を優先してかまいません。教えたらすぐに身につけられる適切な時期があります。私事ですが、私の娘のトイレトレーニングを始めたとき、練習を始めた翌日からオムツを外しても失敗せずトイレで排泄できるようになりました。なぜかというと、トレーニング開始の時期が遅かったからです。

スーパーでの買い物も小さい時期に連れていったら、目に入ったものが欲しくて騒いだり癇癪を起こしたりしますが、ある程度年齢が上がり、分別がつくようになってから買い物の仕方を教えたら、特にトラブルなくできる方も多いと思います。ルールを理解できるようになれば、ルールを守ることができますからね。

「大人になったときにこれくらいまではできるだろう」ということが一人ひとりあって、そこに向けて、大人になるまでの適切な時期に少しずつ教えていけばいいんです。

『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)より
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「みんな一緒」でなくていい

——発達障がいの子と、きょうだいとのこだわりが衝突してしまったとき、大人はどのように対応すればよいでしょうか。

相容れないときは一緒にしない方が良いです。たとえばテレビのチャンネル争いは、障がいの有無に関係なくきょうだい間で起きることではありますね。発達障がいのない子同士だったら、あらかじめ見たいテレビのリストを作って、子どもたちと話をして、この時間は誰を優先するかルールを決めればいい。でも発達障がいのお子さんの場合は、約束やルールを決めること自体が難しい方もいます。可能ならばその子専用のテレビを用意したり、別に部屋を用意したりと、環境を変えることが望ましいです。

——大人にとっては、発達障がいのない子に我慢させる方が、正直対応が楽な部分はあると思います。どちらも尊重するには、どのような対応が必要でしょうか?

両親どちらもいる場合は、どちらかの親が障がいのあるお子さん担当で、もう片方が特性のないお子さんの担当という形をとれば、どの子も我慢せずにすみます。お出かけも、無理に家族みんなでしなくてかまいません。「みんな一緒がいい」などとこだわる必要はありません。

子ども全員が一緒に行動していると、たとえば3人きょうだいだったら、24時間ずっと自分は3分の1しか親に見てもらえないという感覚を持ち続けます。でも別々で行動したら、ときどきではあるものの「自分は100%親を独占できる」という感覚が持てます。だからきょうだいの対応は、きょうだい全員が「自分だけが親に面倒を見てもらっている」と思える時間帯を作ることが重要です。

—— 世界潮流としてはインクルーシブ教育の方向に進んでいますが、日本社会の同調圧力の強さとは相性が悪いように思います。本田先生はインクルーシブ教育についてどのようにお考えでしょうか?

全員が同じことをする一斉授業ではなく、同じクラスの中でみんなが個々に適した内容の学習ができる「正しいインクルーシブ教育」は必要だと思います。国内にもインクルーシブ教育をうまく行っているところもあるので、参考にして進めていくといいですね。

同調圧力については、日本でも必ずしも伝統的なものではないと思います。第二次大戦後の団塊の世代などは、個性的な人が輩出されたのではないでしょうか。しかし、平成以降は管理教育が進み、多様性を尊重した教育がされにくくなっているように思います。日本は基本的に外圧に弱いので、海外からSDGsやダイバーシティという概念も入ってきたところで、だんだん変わっていく可能性があると思っています。文部科学省からもここ数年でようやく「個別最適な学び」という話題が出てきました。

ですので、「個別最適な学びがかっこいい」という風潮をいかに作っていけるかで、同調圧力の強さも変わっていくと思います。日本社会は流行に左右されやすいので「個別最適な学びをしていないなんて乗り遅れている、ダサい」という空気を作ってみるといいかもしれませんね(笑)。

発達障がいの子どもの「生きづらさ」を予防することはできる

——「発達障がいかもしれない」「困りごとがある」と思ったら、病院に相談に行った方がいいのでしょうか。

行くべきかどうかを一概に言及するのは難しいです。困りごとがあるにもかかわらず相談に行かないとすると、親御さんの側に何か理由があるのだと思います。私自身は行っちゃった方が楽だと思うのですが、世の中にはそう感じない人もいます。「行った方が楽になるとは思いますよ」とお伝えすることはあっても「是非行きなさい」と、話を強引に進めはしないですね。

無理をさせるとかえって負担になり、親御さんの悩みがますます深くなってしまうこともあります。「障がい児支援」という立場から見ると、お子さんは苦しい状況にあるだろうと思うご家庭もあります。ですが親御さんは親御さんで悩んでいるので「こうしなきゃダメです」などと言い、相談に来なくなってしまう方が望ましくないので、言うべきことは言いつつも、叱りすぎないようにしています。細々でも繋がっていれば何かはできますので。

——「子どもをこうしたい」という理想を持たれている方もいますが、発達障がいの特性があると、早い段階で思い通りにならないことに直面すると思います。

早期発見された子たちは、親御さんが「なんだか気になる」くらいの程度で相談に来て、半年、1年……と定期的に会っているうちに、親御さんが当初に期待していた子どもの進路がその子には向いていないかもしれないなどというような気持ちの変化が見えることもあって。いかにスムーズに気持ちが変化していくかは重要ですね。

——そのために本田先生が大切にされていることはありますか?

「今見えている特性は将来も残る」と、ある程度厳しい現実を早い段階からお伝えするようにしています。

元々持っている以上の力を引き出すのは難しいこと、それ以上に無理をすると、元々持っている力を引き出せないどころか、他のメンタルの問題をさらに上乗せして二次障害として引き起こし、さらに悪くすることは容易に起きることなどを説明します。そして、二次障害の予防ができる可能性は十分にあるということ、予防のためには「育て方」が重要であることも説明します。


※後編ではマンガを担当されたフクチマミさんにお話を伺っています。

『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)
『マンガでわかる 発達障害の子どもたち 自閉スペクトラムの不可解な行動には理由がある』(SBクリエイティブ)

 

※メディアとしての表記ルールの都合上、固有名詞を除き「障がい」と記しております。

【プロフィール】

本田秀夫(ほんだ・ひでお)

精神科医。医学博士。
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診察部部長。長野県発達障がい情報・支援センターセンター長。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。
著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』『子どもの発達障害』『学校の中の発達障害』(全てSBクリエイティブ)。新刊『知的障害と発達障害の子どもたち』(SBクリエイティブ)が3月7日発売予定。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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