仕事を効率化し、心地よい時間を増やす方法とは『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』

 『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)撮影:雪代すみれ
『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)撮影:雪代すみれ

仕事の時間が長ければ、当然プライベートの時間は減ってしまう。仕事に充実感を覚えている人でも、プライベートの時間も大切にしたいと思っている人は多いと思います。2023年11月に刊行された、針貝有佳さん著の『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)より、「タイパ」を上げ仕事の無駄をなくし、プライベートにおける心地良い時間を増やすヒントを探っていきます。

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「ヒュッゲ」という価値観

今回紹介するのは『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)。著者の針貝有佳さんは、1982年生まれの「デンマーク文化研究家」で、2009年末にデンマークに移住して以降、デンマークの現地情報を発信している方です。

デンマーク人が大切にしている価値観に「ヒュッゲ」というものがあります。日本語に訳すと「心地良さ」を意味します。本書でもヒュッゲについての言及がありますが、ヒュッゲ的な心地良い時間とは、豊かな自然の中で、親しい人とゆったりとした時間を過ごす……といったイメージです。

本書では4時に帰るために「タイパ」を向上させるノウハウが紹介されていますが、プライベートタイムまでタイパを意識することには否定的です。

<大切なひとときまで時間を意識していたら、せっかくの贅沢なひとときが台無しになってしまう>
<本当に大切なひとときを存分に満喫するために、徹底的に仕事の「タイパ」を考えるのだ>

かといって、仕事の手を抜いているわけでもありません。プライベートの心地良い時間を確保するために、決められた時間の中で、無駄なく効率良く仕事を行っていく。本書からは理想的な「ワークライフバランス」のヒントが見えてきました。

仕事もプライベートの時間もどちらも大切だから

たとえば「午後4時までに終わらなかった仕事は持ち帰って片付ける」ということです。デンマーク人は4時に帰るものの、誰もが4時に仕事が終わらせられるという意味ではないとのこと。もちろん4時に終わらせられる人もいれば、持ち帰って子どもの就寝後や、早朝に仕事をする人もいます。特に管理職は夜や早朝に1~2時間仕事をし、調整している人が多いことが書かれています。

この点、日本との大きな違いは「職場で残業しないこと」です。家族との時間も大切だから、一旦帰宅し、プライベートタイムの後に仕事をする。仕事もプライベートもどちらも尊重する働き方です。

私は一人暮らしであるため、「家族との時間」というものはないものの、個人事業主なので、働く時間そのものの自由度は高く、終わらなければ深夜まで続けて仕事をしてしまうこともありました。一日の中でプライベートな時間がほぼない日もあるのは、メンタルヘルスの面での影響が気になっていました。

そのため、「決まった時間(4時は無理です)に一旦区切り、プライベートタイムの後に終わらない仕事を片付ける」ことを導入してみたところ、終業時間の意識が高まりましたし、一旦区切ることで集中力の持続性の違いも感じています。

何より、時間は短くても、読書などのゆったりしたプライベートタイムを以前より安定して持てるようになり、生活の満足度は上がりました。

女性も男性も、仕事も家事育児もする

デンマークでは「男性は仕事、女性は家事育児」という従来の性別役割分業ではなく、性別問わず仕事も家事育児もするのが当然、といった考え方が主流とのこと。だから、仕事を言い訳に家事育児を放棄することも、その逆も許されないそうです。

<女性も、男性からは稼ぐことを期待されるし、国からは納税者になることを期待される>
<仕事漬けの男性は、経済的に自立している女性からあっさりと別れを告げられてしまう>

といった部分からも、日本社会と空気感の違いがうかがえます。ちなみに2024年のジェンダーギャップ指数は、デンマークは146か国中15位です(日本は118位)。(※1)

著者がデンマーク人にインタビューした中では、多くのデンマーク人は夫婦共働きのフルタイムで、家事育児も夫婦で分担した方がいいと思っているとのこと。

<仕事ができることも、子育てに参加できることも、「権利」として捉えている>
<僕が仕事を通じて社会貢献したいように、妻だって仕事をしたい。僕に自分が理想とする人生を追いかける権利があるのと同じように、妻にも自分が生きたいと思う人生を生きる権利がある>

働くことにおいて得られる経済力だけでなく、仕事における自己実現も尊重されていることが伝わってきます。

日本社会において、働く女性は増えたものの、女性の非正規労働者の多さや、男女の賃金格差からも見えてくるように、女性が十分な収入を得られる状況とは言えません。家庭を顧みない男性にあっさりと離婚を告げられるほどの経済力を持てる女性は、日本では少数派でしょう。

「仕事と子育ての両立」について、実際に悩んでいる女性も多く、どのような工夫をしているか聞かれるのも圧倒的に女性が多いです。世間に「子育て=女性の役割」という意識が残っており、社会的な扱いが等しくありません。

同時に男性が育児をすることを社会が「権利」と捉えているかというと、その点も不十分です。2023年度の男性育休取得率の割合は30.1%と、前年より10ポイント以上上がったものの、女性の84.1%とは開きがありますし(※2)、SNS上で見えてくる体験談なども踏まえても、まだ男性の方が育児休業取得へのハードルが高く、子どもと過ごす時間を確保する権利が平等に扱われていないと感じます。

女性のキャリアの軽視は、男性が家庭の時間を持つことを十分に尊重されない構造と表裏一体であると思います。「こうあるべき」という性別役割分業をなくし、仕事をする権利も子育てをする権利もどちらも尊重していくことは、性別問わず、心地良い生活をすることに近づくのではないでしょうか。

可能な部分は導入し「ヒュッゲ」な生活へ

本書を参考にタイパを上げる方法を実践してみたものの、4時に仕事を終わらせるのはやはり厳しかったです。私は正直、5時どころか6時でも終わらせるのがきついです。社会的・文化的な違いもあり、そのままマネをするのも難しい手法もありました。ジェンダー的な課題のように、個人の意識や努力のみで解決できる範囲を超えた社会的な構造の問題もあります。

ですが、できる部分から取り入れていくことで、今より少しでも「ヒュッゲ」を感じられる生活に近づくのではないかと思います。

※1:https://www.asahi.com/sdgs/article/15301822

※2「令和5年度雇用均等基本調査」より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r05/07.pdf

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