「16歳になれば、女には男を惑わす“魔力”が生まれる」というディストピア【レビュー】
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。今回は、『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』(キム・リゲット著 堀江里美訳)を取り上げる。
『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』(キム・リゲット著 堀江里美訳)は、2019年にアメリカで発売されたディストピア小説だ。
少女たちがサバイバルを繰り広げる本作は、『侍女の物語』×『蠅の王』×『ハンガーゲーム』の世界観を持つと評され、現在までに二十以上の国で翻訳出版、『チャーリーズ・エンジェル』のエリザベス・バンクス監督による映画化も決定済みだ。
女には男を惑わす”魔力”があると信じられているディストピア
物語の舞台は、外界と隔てられたコミュニティ“ガーナー”。
ガーナーでは、女がある一定の年齢になると、男を惑わせる”魔力”が発動すると信じられている。16歳になれば、無意識に男性を誘惑したり、妻たちを嫉妬で狂わせたりすることができるのだと。
少女たちは16歳になると森の奥にあるキャンプで、一年間のサバイバル生活を送ることを強要される。キャンプの周辺には、少女たちを”獲物”だと考えている密猟者が少女たちの命を狙っている。自然のなかで魔力を解き放ち、サバイバルを生き延び、魔力を失った清らかな女性として、妻として、ガーナーに戻って来るのが、女性たちの勤めだ。
魔女と名指されることと、魔女を名乗ること
本作を読んだ際、”魔女狩り”の歴史を思い出した。15世紀から17世紀にかけて行われた魔女狩りは、”魔女”という濡れ衣を着せられた女性たちが、正当な手続きを踏むことなく処罰されるという理不尽な迫害だ。
女性たちが規範を打ち破り、声を挙げたことで“魔女”と名指された歴史を踏まえ、1970年代のフェミニスト運動では、「慄くがいい、魔女たちの復活だ」というスローガンが使われることもあったという。(※1)
“魔女”は女性蔑視と強い結びつきを持った言葉だったからこそ、その言葉を自分たちの手に取り戻し、意味づけしなおすことで、女性たちをエンパワーする言葉にもなりえたのだ。
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